第23話 『八幡㈱』
八幡㈱のGM、中山は司令塔内をつかつかと歩き回っていた。
ミツルの暴走を容認するわけではなかったが、しかし、あれほどまでに豪語していた操縦テクニックだけは認めざるをえない。
小惑星帯を縦横無尽に疾走する様が、中継画面に映し出されると、中山自身も引き込まれた程だ。
「ミツルの腕を見くびっていたようだ。奴のテクニックは世界一かもしれん。ガニメデへのピットイン時に、トップとの差を縮める事が出来るなら、ミツルの言うように優勝も見えてくるかもしれんな」
中山は独り言のように、小さく呟いた。
そして
「こちら司令塔。ミツルがピットインしたら、最速でメンテナンスを済ませてくれ。このピットインの出来が、レースの行方を左右するだろう。期待しているぞ」
「ああ、はい。お任せください。他のメンテナンスクルーには負けませんので」
メンテナンスクルーたちは、中山の意外な言葉に耳を疑った。
ピットイン時には、ロケットボートの様々なデータ収集を優先にと、レース前に通達されていたからだ。
「ここでギャラクシーファクトリーとの差を詰めるのだ。ミツルのテクニックがあれば、我が社も優勝争いに加われる」
「はい!最善を尽くします。ミツルのテクニックと同様に、我々にもご期待ください」
メンテナンスクルーたちは、中山の“優勝”の言葉に発奮したようだった。
中山が無線を切ると、そのタイミングで司令塔の電話がなった。
「はい、こちら指令本部です」
「すみません、ニューヨークタイムズの者ですが、少々お話しを伺っても宜しいでしょうか?」
「レース中なので、手短に願います」
中山は内心断りたかったが、会社の利益にも関わる事なので、インタビューを承諾した。
「では、一つ目の質問です。火星でのピットイン時、八幡㈱のメンテナンスクルーの方たちは凄まじい程の短時間で、ロケットボートを整備されましたが、一体どのようなことをしたのですか?」
中山は言葉に詰まった。
ミツルの暴走だということは、伏せなければならない。
レーサーの管理も出来ない会社だという印象を世間に与えかねないからだ。
「・・・それは、企業秘密です」
「う~ん、我々としても大変気になる所ですが、まあ、やはり秘密になりますよね。では、二つ目の質問です。レーサーのミツルさんの操縦テクニックは、まだお若いのに素晴らしいものですね。一体どれ程の訓練をされてきたのですか?」
中山はまた言葉に詰まった。
確かに訓練は重ねてきたが、これ程までにミツルの操縦テクニックがあるという事は、誰も知らなかったのだ。
「・・・それは、ミツルの努力の賜物です。厳しい訓練以上の努力を、彼がしていたからに他なりません」
「なるほど、努力の賜物ですね。分かりました。では、最後の質問です。この後のレース展開はどうなるとお考えですか?」
「まだまだレースは大きく動くでしょう。ですが我々としましたら、優勝の可能性は十分あると考えております。その為に最善を尽くすだけです」
中山は力強く答えた。
「ありがとうございます。御社の幸運をお祈りしております」
そしてインタビュアーからの電話は切れた。
中山はコーヒーを一杯口にすると、椅子に腰掛けた。
「よし、ここからだ」
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