第19話 『不安』

地球でレースを見守っていたパイソンの妻リリアンは、パイソンが小惑星帯へ到達した事で不安が増した。

このレースで一番難易度の高い危険な場所だからだ。

一つの操縦ミスが重大な事故に繋がる可能性を孕んでいる。万が一、小惑星へ衝突しロケットボートが大破した場合、命を落とすこともあり得るだろう。

パイソンはレースになると、レースに集中するあまり、ムチャをしがちなのをリリアンは昔から熟知していた。

しかも今回はここまで予想外の出来事続きで、パイソンの焦りも手に取るように分かった。だからこそパイソンのロケットボートに、ムチャをしないよう無線を入れようかともリリアンは考えたが、自分の無線に気を取られて事故を起こされても困る。

リリアンは今、パイソンの無事を祈るしかなかった。


「あなた、小惑星帯ではムチャをしないで。私のことも考えてね」

リリアンはweb中継を見ながら呟いた。

だが中継を見る限り、パイソンはまだ落ち着いているようだ。冷静に小惑星を躱し、極端な加速もしていない。

「レースの勝敗なんてどうでもいいわ。無事に帰ってきてくれれば」

リリアンにとって、この大会の優勝などはどうでもよかった。愛する夫の無事こそがリリアンの望みなのだ。


そんな時リリアンは、パイソンの前方を行く八幡㈱のロケットボートが加速する様を中継で確認した。

「え、嘘?!」

リリアンも信じられなかった。

多分パイソンはそれ以上に驚いただろう。

八幡㈱のパイロット、ミツルは小惑星帯でブースターエンジンを起動させたようだ。

狂気の沙汰としか言いようがなかった。それはもはや自殺行為に等しい。

「どういうこと?この日本人は怖いもの知らずなの?」

リリアンは混乱してきた。

このような状況でパイソンは冷静でいてくれるか心配だった。パニックになっているのではないかと不安がよぎる。

「ダメだわ。私まで不安になっては。きっと大丈夫よ。あなたはきっと無事に帰ってくるわ」

リリアンは必死に自分に言い聞かせた。

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