第12話 『反抗』

八幡㈱のパイロット、ミツルは火星にピットインした直後、行動に出た。

メンテナンスクルーに先に燃料だけを満タンにするように要求し、機体整備とデータ分析は後回しにしてくれと。

メンテナンスクルーたちは特に訝しむ事なくミツルの要求を快諾した。

だが、この要求こそがミツルの狙いだった。


ピットインから約15分後には、燃料の補給は完了した。そのタイミングに合わせ、ミツルは独断でロケットボートを発進させたのだ。

パイロットであるミツル自身が、ロケットボートの状態については一番理解していた。メンテナンスもそれほど必要はないはずだ。本社の言うデータ収集などどうでもよかった。

ギャラクシーファクトリーのロックは火星でのピットインをせず、小惑星帯へと向かったようだ。これ以上距離を離されるわけにもいかない。


このミツルの反抗を知った本社の中山GMが、無線を入れてきた。

「ミツル、お前自分が何をしたのか分かっているのか?会社の命令に背いたんだぞ!貴重なデータ収集が全て台無しだ。それなりの罰則を課すからな!覚悟しておけ!」

中山は怒鳴った。


「何言ってんだ。優勝すりゃいいんじゃないか?データ以上の名声が手に入るんだぜ」

ミツルは反論する。


「何を言ってる!優勝など誰も期待しちゃいない!そんな簡単にギャラクシーファクトリーの牙城を崩せる訳がない!今回は、レースの経験値を得る事が最大の目的なんだぞ!」

中山もヒートアップした口調になってきた。


「なあ、勝てる勝てないじゃなく、俺は勝つんだ!今回のレースは様子見だとか悠長な事を言っていたら、勝てる勝負も勝てなくなるぜ。会社運営だって同じはずだ。先手先手で勝負をしなけりゃ、企業同士の競争レースから脱落するだけだ。可能性を信じ、失敗を恐れず、果敢に仕掛けるしかないだろ?それはGMのあんたが一番理解してるはずだ」

ミツルは淡々と捲し立てた。


この発言に対して中山は口ごもった。

確かにミツルの言う通りなのだ。

八幡㈱も優秀な人材をリクルートし技術力を高め、他社とは一線を画する政策を打ち出し、一気に日本企業のトップクラスへと登り詰めた。

それはミツルの言うように、勝負をしたからに他ならない。


「大口を叩きやがって。もし最下位だったなら、お前は解雇だ。分かったな」

中山はミツルに無線を入れた。


「任せな。俺は負けないぜ」

ミツルはブースターエンジンを起動させ、火星の大気圏を飛び出した。


この先に待ち構える小惑星帯では操縦テクニックがものを言う。


小惑星帯ここで一気に差を縮めるしかないな」


各レーサーにとって最初の山場が近づいていた。

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