【episode16-離別の時】


「お互いの恋人を捨てて一緒になったとしても上手くいかない気がする。」


運転席でハンドルを握る魁人かいとが、美しい顔を歪めながら絞り出すように声を発した。



「それで上手くいかなかったら今度こそ終わり…それが怖い。だから距離をとる。」


苦しそうにそう告げる魁人の言葉に沙楽さらは、眩暈めまいを覚えた。



ただ一緒にいたいだけなのに。


本能でいったらお互い同じ気持ちなのに、と心が叫ぶ。



だが、沙楽には、この蜜月にいつか終わりがくることがわかっていた。


魁人とはそういう運命なのだ。



「私たちってきっと第10章くらいまであるよね。今は3章くらいかな。」


黒い気持ちを打ち消すように、作り笑顔の沙楽がそう告げる。



「うん、そうだな。俺たちはずっと繋がっていると思う。これで終わりじゃない。」


魁人もまた、無理に作った笑顔でそう応えた。



沙楽と魁人は、その時の状況がどうであろうと再び出会ってしまう。


何故ならばそれが2人の定めだから。



どんなにあらがおうとしても会ってしまうのだ。


狂おしいほどに互いを求め合う気持ちが荒波のようにやってくる。



だが、今は別れの時。一緒になるのは今じゃない。


2人には、何故だか互いにそれが分かっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る