第24話 青の過去

「よく来たな」


「久し振り。別館こっちに通すなんて珍しいね」


「今はこっちでエディと住んでるんだ」


「エディ?」


「今日お前に紹介する奴の事だ」


実際に会ってみて驚いた。


彼はこんなに笑う人だっただろうか。


周囲から向けられる目や掛けられる声に見向きもせず、興味ないと周囲を眺めていた人だったとは到底思えないほどに、今の彼は生命力に溢れ目を輝かせていた。


キラキラと輝いて見える朱色の瞳の奥に渦巻く炎も、前までの彼にはなかったものだ。


心做しか軽やかな足取りの彼に案内され、静かな廊下には二人分の足音だけが響いている。


しかし本当に静かだ。


「ついたぞ」


「失礼しま、す?」


案内された部屋に通された際に出た言葉は、随分と歯切れの悪いものになってしまった。


貴族が使う部屋にしては珍しく、シンプルながら落ち着く色合いの室内には様々なスイーツ等の軽食が並んでいた。


「もうすぐ紅茶の用意が出来るので、座って待ってて下さい」


白いワイシャツに黒のズボン。そして赤いエプロンを付けた女性がいた。


長い前髪で顔はよく見えないが、艷やかな黒髪から覗く肌は真珠のような白さだった。


ワゴンを引き、紅茶の用意をする女性に言われた通り席に着こうとする彼を引き止めた。


「どうした」


「どうしたって、女性に一切の興味のなかった君が、部屋に女性を入れるなんて変わり過ぎにも程があるだろ??」


「女性……、エディの事か?」


彼女はエディって名前なのか。女性にしては珍しい名前だな。


………ん?エディ?


エディって確か、彼がここで二人で住んでると言ってた人の名前だよな?


じゃあ彼女は使用人でも何でもなくて___


「まさか君、婚約したのか…?!」


「誰と」


「あのエディっていう女性とに決まってるだろ」


「……フッ、フハハハハハ!!婚約者!エディが俺のっ…フグッ、ま、まぁあながち間違いではないだろうな?」


腹を抱え咳き込みながらヒーヒーと笑い続ける彼に、俺は動揺が隠せなかった。


女性に興味ないと言っていた彼が!


女性と二人きりで別館で住んでるなんて。


変わった変わったと思っていたが、ここまで変わったのか?!


「何してる?紅茶、準備できましたよ」


「エ、エディ…紹介するからこっちに来てくれ」


「何でそんなに笑ってんの?」


テーブルに紅茶を並べて近寄ってきた彼女を引き寄せると、彼は更に驚くべきことを口にした。


「では自己紹介を。


俺の名前はレオポルド。こいつは今口説き中のエドワルドだ。彼がレンツ、お前に会わせたかった奴だ」


「はじめまして。エドワルドです」


「色々と言いたいことはあるけど……彼?」


俺が首を傾げると、目の前の彼女、彼?も釣られるように首を傾げてみせた。


小動物かな?


「レオポルドの名はエディが俺に付けてくれたんだ。いい名前だろう?」


そう言って笑った彼、レオポルドは誰が見ても幸せだと分かる笑みを浮かべていた。


それは少し、本当に少しだけ……羨ましいと思ってしまった。

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