縮れた栞が挟まって
春菊 甘藍
殺してくれぇ……
クラスに気になる子が居た。
最近やっと話せるようになってきて、本を借すことになった。僕の好きな作者の短編集。ふと話題に上り、興味を持った彼女に借すことにした。
「返すのいつでも良いから」
「ありがとう」
その翌日。
「あの……」
顔を少し赤らめた彼女が話しかけてくる。
「ん、あぁ」
本を返す為に、話しかけてくれたようだ。しかし話しかけるのに物怖じするような子ではない。どうしたというのか。
どうにも彼女がよそよそしい。さっきから離れた所でチラチラとこちらを見てくる。
「……何故?」
尽きぬ疑問。借した本に何か彼女が恥ずかしがってしまうようなシーンがあっただろうか。返してもらった本を開くと……
一本、ぶっ太い毛があった。
しかも
スパンッと音をたて、本を閉じる。教室の天井を見つめる。涙が
「し、死にてえ……」
思い出す。この本を読んでた時、一人ぽっちの夜~♪。
「やかましいわ」
一人でツッコミ。虚しいばかりだ。
「何してんねん」
幸せは雲の上にあると歌にはあったが、自分はたった今。砕け散った。
*
放課後。
「帰るか……」
絶望を抱いて。
「ねえ!」
廊下に出た時、彼女に呼び止められる。セクハラで咎められるのだろうか。是非も無し!
「ありがとう」
予想外。
「え、何が?」
罵詈雑言を浴びせられてもおかしくない。感謝されることなど何も……
「戦時中、処女の陰毛は弾よけとしてお守りにされてた。同じ理由で童貞も神聖視されてた……そういうことだよね?」
「はぁい?」
理解が脳みそのキャパを越えた。
「童貞でしょ?」
公開処刑かな?
「……」
「沈黙は肯定だよ。チンだけにね」
「やかましいわ」
そろそろ部活が始まる時間帯。彼女は確かソフトボール部だった。
「
頬を掻きながら彼女は言う。
まさかの解釈~。
「今週末の試合、見に来てよ。かっ飛ばしてやるから!」
「たまたまです」
なんて言えなくて。
「殺してくれぇ……」
小声で呟いた。
縮れた栞が挟まって 春菊 甘藍 @Yasaino21sann
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます