縮れた栞が挟まって

春菊 甘藍

殺してくれぇ……

 クラスに気になる子が居た。


 最近やっと話せるようになってきて、本を借すことになった。僕の好きな作者の短編集。ふと話題に上り、興味を持った彼女に借すことにした。


「返すのいつでも良いから」


「ありがとう」


 その翌日。


「あの……」


 顔を少し赤らめた彼女が話しかけてくる。


「ん、あぁ」


 本を返す為に、話しかけてくれたようだ。しかし話しかけるのに物怖じするような子ではない。どうしたというのか。


 どうにも彼女がよそよそしい。さっきから離れた所でチラチラとこちらを見てくる。


「……何故?」


 尽きぬ疑問。借した本に何か彼女が恥ずかしがってしまうようなシーンがあっただろうか。返してもらった本を開くと……


 一本、ぶっ太い毛があった。


 しかもちじれてやがる。本の告白シーン、そこにしおりのように挟まっていて。なんでこんな所にあるのだろうか。神出鬼没かよ。


 スパンッと音をたて、本を閉じる。教室の天井を見つめる。涙がこぼれてないように。


「し、死にてえ……」


 思い出す。この本を読んでた時、一人ぽっちの夜~♪。


「やかましいわ」


 一人でツッコミ。虚しいばかりだ。


「何してんねん」


 幸せは雲の上にあると歌にはあったが、自分はたった今。砕け散った。





 放課後。

 腑抜ふぬけた表情で、西日差し込む教室に一人きり。


「帰るか……」


 絶望を抱いて。


「ねえ!」


 廊下に出た時、彼女に呼び止められる。セクハラで咎められるのだろうか。是非も無し!


「ありがとう」


 予想外。


「え、何が?」


 罵詈雑言を浴びせられてもおかしくない。感謝されることなど何も……


「戦時中、処女の陰毛は弾よけとしてお守りにされてた。同じ理由で童貞も神聖視されてた……そういうことだよね?」


「はぁい?」


 理解が脳みそのキャパを越えた。


「童貞でしょ?」


 公開処刑かな?


「……」


「沈黙は肯定だよ。チンだけにね」


「やかましいわ」


 そろそろ部活が始まる時間帯。彼女は確かソフトボール部だった。


死球デッドボール避けで弾よけって訳ね。心配してくれてありがと」


 頬を掻きながら彼女は言う。

 まさかの解釈~。


「今週末の試合、見に来てよ。かっ飛ばしてやるから!」


 向日葵ひまわりみたいな綺麗な笑みに、


「たまたまです」


 なんて言えなくて。


「殺してくれぇ……」


 小声で呟いた。







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縮れた栞が挟まって 春菊 甘藍 @Yasaino21sann

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