問題意識とエッセンスの違い(ダーク注意)


 先日、とある方の小説を読んでいた。

 とても面白くて、引きも上手で、なんとなく先の展開は読めるけどどうするのかな、と思っていたところで、まさかの性暴力が来てしまった。しかも割と具体的に。

 正直なところ、すごくショックだった。一つは、性暴力注意という記載がなかったこと。もう一つは、読み手からすると、その問題に向き合わずに書かれていたこと。というのも、エッセンスだったからだ。


 その方は、その展開がベストだろうと思って書かれたのだろう。簡単に言うと、死にたいと思った出来事としてあげられていた。


 性暴力の被害者は男女問わず、歴とした犯罪被害者であり、悲しいことに現実に存在してしまう。


 ここで勘違いして欲しくないのは、私は作者さんを責めているわけでもなければ、犯罪を書くなと言っているわけではないことだ。それは別に、私がミステリーを書いているから、ではない。

 ただ、いかなる犯罪であっても、書く際には慎重に、その問題と被害者と被害者の遺族に向き合って欲しいと思うのだ。



 話は変わるが、私は以前にいじめの小説を書いたことがある(『ただ、○○○○だけなのに』)。あれは、どうなのか。と問う人もいるだろう。


 先に言っておこう。


 あの中で、半紙を破られる以外は、全て私自身が経験したことだ。あれ以上もたくさんあったし、時間も長かった。ただ、比較的知能の高い人間が集まる学校(日本人の1/3は知っているであろう学校だった)にいたせいか、性暴力を受けなかったのは、幸いだったかもしれない。


 学校の先生?

 なんの役にも立たなかった。

 雁首揃えて、なんの役にも立たなかった。

 むしろ、全校生徒の前で嘲笑的発言をされた。

 両親には証拠を抑えろと言われたが、当然できなかった。

 そもそも、今よりもいじめや体罰、各種ハラスメントが問題になる前の話だ。


 まあ、そんなことはどうでも良い。

 私は、いじめというものに最大限に向き合って書いた。事実は物語のようにはいかない。被害者が救済されることは滅多にない。

 では、どうするべきか。それを書いた。


 件の物語は、それがなかった。

 誰も救いの手を出していなかった。解決もない。ざまぁ、どころの話ではない。

 ただただ、悲しかった。

 おそらく感性が違う。優先順位も違う。考えた方も違う。

 だから仕方ない。ただ、私がショックだったのだ。欲を言えば、性暴力注意の描写が欲しかったけれども。


 ミステリーを書くときは、どうしても犯罪を書くことが多い。ミステリーじゃなくても、人が死ぬことは多い。犯罪被害もある。


 ただ、私は問いたい。


 あなたにとって、人が死ぬことは軽いことですか?

 あなたにとって、その犯罪行為はただのエッセンスにしても良いものですか?

 物語だから、本物の人間じゃないから、何をしても許される? 本当に?


 願わくば、このエッセイを読んでくださった方には、こういう人間もいるのだと思って、せめて注意書きをあらすじに書いていただければ幸い。

 欲を言えば、物語の向こう側にいる人も考えていただければ、とても嬉しいと思う。


 同時に、私も今一度気を付けて、しっかりと向き合いたいと思う。

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