こばなしのたね
来福ふくら
最果ての森にて
目の前では少女がぼろぼろと泣いている。
長い髪は緩く波を描き、淡い色のそれはまるで西洋人形を思わせる。白いリボンが愛らしいワンピースをぎゅっと掴み、唇を噛みしめて少女はひっく、ひっくとしゃくりあげた。
青年とて別に泣かせたかったわけじゃない。自分だって、ずっとここにいた。だからこそ、こんな物騒なところに一人でいるのは危ないと、言ってやるつもりだったのだ。
だってここは自殺の名所で、はぐれてるならば戻してやりたいと思うのは人としては道理だろう。少なくとも、こんな天使がここにいていいわけがないのだ。周りは不気味なまでに鬱蒼とした木々と、時折転がる怪しげな瓶や薬やロープとかだし、下手すりゃ人だったものやら何かの骨やらまで目撃してしまいかねない。この可憐な子の目にそういうものを映したくないわけで。
「なあ、怖がらせたのは悪かったからさあ。でも、ここにいるのはお嬢さんにも良くないと思うんだよ。俺、ちゃんと送ってやるからさあ。少なくとも山は下りた方がいいだろうしさあ」
「おにいさんのばか!」
ぴえええええ! と少女は盛大に泣き出す。
これは困ったぞ、どうしよう。困り果てた青年を睨みつけて、少女はぼろぼろと大きな雫を丸い瞳から盛大にこぼしたのだった。
「あたし幽霊なのに! なんで怖がってくれないの⁉」
「いやこんなちっちゃくて可愛いのに怖いわけないじゃん? いや成仏しよ? そうしないと俺これから自殺しようと思ってたのにええとそのあの」
「うわああああああああああん! ひどい! 幽霊にとって侮辱だわあ!」
「侮辱て」
――自殺をしたかった彼と、怖がられたい少女幽霊が出会った、そんな話。
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