第78話


「ホルダー…いや、ルージュはやっぱり学園に通い始めたようだね。ウルティ?」


ご主人様の部屋で紅茶を淹れている時、唐突に言われた。

「…はい」


私が仕えているこのお方は、出会った頃と同じく謎に満ち溢れている。

どこから情報を仕入れているのかも分からないが、時々こうして私のご主人様について話してくれるのだ。


「だから言ったのに。ウルティも学園に通えばルージュに近付けただろ」

「別に近付きたいとも思いませんが。今のご主人様はあなたなのですから」

「そういう事を言ってるんじゃないんだけどね。復讐、するんだろ?」


馬鹿にしたように笑うご主人様。

いつもそうだ。

少しだけ私に怒っているような、八つ当たりをするような、そんな態度を取ってくる。


「復讐はしますが…ご主人様が言ったのですよ。まだ、その時ではないと」


「お~、偉い偉い。なんと言っても、ウルティはフォン家の人間だからな。

時が来るまでは大人しくしてた方が良いっていう忠告、覚えてたんだね?」


私がフォン家の人間だとご主人様は言うが、その情報もどこから仕入れたのか分からない。

だが、ご主人様の言葉に私は目を輝かせる。

『偉い』と褒められたのだ!


「ありがとうございます!あなた様の言葉は全て覚えていますとも!」

「…ふふ。やっぱりあんた気持ち悪いな」


ご主人様が私に『気持ち悪い』と言う時は、何故だか嬉しそうな表情をしている。

それを見て私も嬉しくなるのだ。


「まぁこっちはこっちで動いてるし、何かあればまた命令するから。ところで…体はどう?」


その言葉に私はまた嬉しくなる。

「心配してくださるのですか?やはりご主人様はお優し…」


私がそう言いかけると、ご主人様は舌打ちをして言葉を遮った。


「うるせぇな。不快だからやめろ」

「し、失礼いたしました」


何が気に障ったかは分からないが、私が喜ぶとご主人様はたまにこうして不機嫌になる。

それでも私はこのお方が愛おしくて仕方ないのだ。



***



「はぁぁぁ!?!?!?」

驚いて声を上げる私。

うるさいと言わんばかりに耳を塞ぐ皆。


「もうっ!ルージュったら!もう少し静かに驚いてよね!」

シルビアが冗談ぽくそう言うが、私はそれどころでは無かった。


お昼時間。

私、シルビア、イッシュ、お兄様、オーウェンといういつものメンバーで昼食をとっている。


「だって、だって…!

私とイッシュが、あ、あ、愛し合ってるなんて!!!」



―――さかのぼること5分前。



私は昼食を取るために裏庭に来ていた。

学園に入学してから、ここで皆で昼食を取るのが当たり前になっているからだ。


だけど今日はお兄様の様子がおかしかった。

明らかに落ち込んだ様子でチラチラと私を見る。


「お兄様?どうかしたの?」


私がそう聞くと、お兄様は意を決したように口を開いた。


「ル、ルージュ…

それからイッシュも…

噂で聞いたけど、君達はその、こ、恋人同士なのか!?

愛し合ってると言うのは本当なのか!?」


「はぁぁぁ!?!?!?」


回想終わり。

こうして私は驚いたってわけだ。


「何それ!何でそういう事言うのよお兄様!」

私がそう言うとお兄様は今にも泣きそうな顔で首を横に振った。


「だって、だって…!僕のクラスメイトが聞いてきたんだ!

『あの噂は本当なの?あなたの妹さんとイッシュ様が恋人同士だって』

…って!!」


お兄様はそう言いながら私の手を握った。

「正直に答えてくれ、ルージュ。

多少…いや、かなりショックだけど!

それでもルージュがイッシュを愛しているなら僕も認めっ」


そう言いかけたお兄様の頭をオーウェンがクシャクシャにする。


「な、何するんだ!オーウェン!」

「ルージュが困っているだろ?アレン」


そう言うオーウェンの笑顔も引きつっている。


「まぁ、その件に関しては私も気になってはいたんだけどね。

きっと恐らく絶対に噂が独り歩きしているだけだと思うし?

まぁでも、ルージュ。直接どういう事か聞かせて貰えるかな?」


何故か怒っているようなオーウェンに私は困ってしまう。

ふとイッシュを見ると、我関せずって感じだ。


「ちょ、ちょっとイッシュ!

どうしてそんな噂が流れているのか知らないけど、何でそんなに落ち着いてるのよ!?」


私がそう言うと、イッシュは弁当を頬張る手をやっと止めた。


「え?いや、だって俺もその噂は聞いた事あるし知ってたし…

聞かれたら否定はしてるけど」


「ええ!?知ってたの!?」

私が驚くも、イッシュはケロッとしている。

「まぁ、聞かれる事も多いしな」

「な、なんで…」


イッシュは少しだけ考える素振りをした後、顔を赤らめながら言った。


「俺が聞いた話では、俺達が婚約するって噂が流れているらしい。

その…ル、ルージュが俺との婚約を望んでいるってさ」


「「はぁぁぁ!?!?!?」」


今回、そう声を上げたのはお兄様とオーウェンだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る