第22話

「その…少し言いづらいがルージュがたまに人が変わったようになってしまう、という相談をしたんだ」

「あ、えっと…」

「大丈夫だ。パパたちは誰も怒っていないよ」

私が気まずそうに顔を逸らすと、お父様は慌てたように言った。


「お医者様が言っていたんだ。ルージュくらいの年の子は、たまに別の人格が現れてしまうような事があるんだって。自分の意志とは関係なく、少し狂暴になったり、逆に泣き虫になってしまったりとね」

「え?それって…」

「子供のうちは、まだその子の性格を作る段階で感情が安定しないんですって。それで、まるで別の人格が出てきたかのようになってしまうそうなの」

お母様が少し辛そうに話す。


「どうして…どうして私は…」

私が俯いて震えるのを、心配そうに皆が見守っている。


どうして私はそれに気が付かなかったんだろう!!

そうよ!!

私とは別の人格がいて、その子が悪さをしているって事を説明すれば良かったんだわ!

前世で言う所の『厨二病』っぽくて恥ずかしいではあるけど、呪いの事が説明できない以上、そう説明するしかないじゃない!


自分で選択して自分で招いた結果だからか、自分が悪いとばかり考えて全く思いつかなかった。

前世の記憶を思い出したとは言っても少しだけだし、やっぱりまだ10歳だから思いつかなかったのね、きっと。

頭が悪い訳じゃなくて、うん。


私はそう自分の中で言い訳し、お父様に向き直った。


「お父様、そうなんです!今まで本当につらかったわ!勝手に体と口が動いてしまう時があるの!」

私は思いっきりそう言ってやった。


「ああ、ルージュ…今まで本当につらかったね。かわいそうに」

そう言ってお父様は抱きしめてくれた。

良かった。これである程度は、変な行動をしても理解して貰えるはず!


…だからと言って好き勝手やる訳では無いし、選択して傷つけてしまうのは私だ。

そこは勘違いしてはダメよ、ルージュ。

説明がつくようになっただけで、やりたい放題してはダメ。


お父様の腕に抱かれながら、私は自分に言い聞かせた。


「それにな、ルージュ」

「はい?」

お父様の話はまだ終わっていなかったらしく、言葉が続いた。


「こういう事が起こるのは、大体が幼い子供のうちらしい。平均的には12歳から13歳のうちには治るらしいが、今まで遅くても15歳までには治っていたようだよ。だから、安心しなさいルージュ。一生そのままという事は!」

「え…」


お父様の言葉に青ざめる私。

私の呪いはきっと一生つきまとうだろう。

15歳なんてものじゃない。大人になっても、死ぬまでずっとだ。


「お、お父様?」

「ん?なんだい?」

「もし、この状態が大人になっても…ううん。死ぬまで一生続いたらどうなるの?」


「ふふふ。安心しなさい、ルージュ。お医者様のお話では、まずそれはありえないそうだよ。精神が安定しない子供だけに起こりうる事で、もし大人になってもそういう風に振舞う人がいればそれは最早もはやただの我儘わがままだそうだ。まぁ、そんな事をして貴族として生きてはいけないだろうから、あんまりそんな人はいないだろうけどねぇ」


お父様はそう言ったあと、はっはっはっと豪快に笑った。

「ちょ、ちょっと!あなた!ルーちゃんがびっくりしてるじゃない!怖い話はしないで頂戴!」

私の様子を見て、お母様が慌ててお父様を叱る。

お父様も言い過ぎたと言わんばかりの表情で、慌てていた。


つまり、大人になってもこういう態度を取っていたら、やっぱり子供の時とは違ってただの我儘として見られる。

しかも、お父様が言いたかった事は『貴族がそうなれば一族の恥になる』という事だ。

貴族として生きていけない…つまり、縁を切られるか最悪の場合は殺され…

いやいや、そこまではしないよね?きっと。


でも、この状態を理解して貰えるのは15歳まで、という事だ。

15歳といえば、学園に入学する年。

その頃から私はただの我儘令嬢になってしまう。


「ルー?大丈夫?」

考え込んでいると、お兄様が私の顔を覗き込んだ。


「あ、え、ええ。大丈夫。お父様、お医者様に話を聞いてくれてありがとう。早く治るように頑張るわ!」

そう笑顔で言ったが、笑えている気がしなかった。


「ルージュ。これは子供の成長過程で必要な事だと思いなさい。今はまだルージュも小さくて分からないだろうが、こういう経験をして立派なレディになるのだからね」

お父様がそう言って優しく笑う。


「は…はい。ありがとう、お父様」

そう言って笑うとお父様がぎゅーっと私を抱きしめた。


「まったく!なんて可愛いんだうちのルージュは!」

「当然よ!私とあなたの子ですもの!」

そう親バカを発揮した後、次はお兄様が餌食となる。

戸惑うお兄様を無視して、お兄様を今度は抱きしめる。


「ああ!アレン!お前は男の子なのにこんなに綺麗で、きっとママに似たんだな!絶世の美男子になるぞ!」

「もう!アレンはどう見てもあなた似よ!きっとあなたのように素敵な男性になるわ!」


そう言って、今度は私もまた抱きしめられた。


「「ああ!うちの子達が本当に可愛い!!」」

私は抱きしめられながら、お兄様と目が合い笑いあうのだった。

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