第42話 彼の家族


美奈は普段着のまま来たことを

謝った。

少し白髪の混じったダンディ風

だが厳格そうなキツい目、

第一印象は厳しそうな人だと思った。

しかし彼の父親も、


「急な呼び出しをしたのは

私達だから

 気にせんでええ。

 来てくれて有り難う。」

まあ何とか話は出来そうだ

と美奈は一安心。


「旦那様お料理は?」


藍色の着物を着てキチンと髪を結い

上げた30代くらいの若女将さんだ

ろうか?伺いをたてていた。」





「若女将、話があるから

後で呼ぶよ。

 すまないね!!

 料理長にはあやまっといてな!」




若女将さんは桜のような

微笑みを返して軽く美奈にも

頭を下げて出て

いかれた。



熱いお茶を進められた。

開け離れた襖は見事な庭を

見せつけて少し風がそよそよ

と吹いてくる


一口飲み干した後


「一郎太が世話になってるとか?」

 彼の父親が口火をきった。


     「はい、あ、いえ」


美奈も緊張して上手く話せない。

彼の父親もお茶を飲み

         ゴクッ



「この間見合いをしましてね。

 向こうのお嬢さんも一朗太を気

にいってましてな‼


 年齢も28だし一朗太とは丁度いい

んですよ。

 

もちろん私達も気に入りましてな!

 家柄も器量も、申し分ないんです

よ。」



       「はい?。」



彼の母親をみると、やはり冷たい

ような感じがした。

美奈はどうやら気に入られて

ないらしい。



「で、あなたはどうしたい?」


美奈は急な問いかけに驚いて



  「どうしたい?って?」


「いやいや!一朗太が

結婚するでしょう。

だからその後ですよ。


言い難いんですが一郎太と

別れてもらえますか?


あなたは一朗太と一度婚姻関係に

 ありましたな。


 一朗太は、知らなかったみたい


ですが…

 勝手に偽造して出されたのか?


 こっちも出る所に出てあの子の

 戸籍を綺麗にしなきゃ

ならんのです

よ。


 勿論裁判にします。

依存はありませんな‼」


美奈は蚊の鳴くような声を絞り

出して

「裁判・・ですか?

あれは偽造ではありません。

彼が書いて私に渡しました。

ただ出すのは一緒にしようと

約束していましたが、私が出し

ました。

その後彼も同意してます。」



隣にいた母親が

美奈とは対象的な大声で

「そうなんですか?

あなたが勝手に出したの?

なんて事してくれたんです!

一郎太は百武家の跡取りなのよ!」

不機嫌極まりないと言った所か!


美奈も嘘はつきたくない!

「勝手に出しましたけど

 偽造ではありません。

一朗太さんを

 呼んでください。」



 すると彼の母親が


「一朗太は今京香さんと

食事中なのよ。

 あっちの座敷にいるのよ。

 呼べないでしょ。」



「え、今日は大学で‥は?」



「あらあら、貴方には

邪魔されると

 思ったのかしらね?


 朝からずっとデートよ。

 お昼に私達と個々で落ち合う

約束なの

 向こうのご両親も見えるのよ。」

彼の母親の言葉に反論する事も

なく、美奈は唖然として

動けない。


「夕御飯を一緒に頂くのよ。

勿論京香さんと一郎太も

一緒にね。」



美奈は座っていた座布団を

払い除けて

「え、そんな!! 一朗太さんは

 女の人と2人では会わないって

約束しました。

 彼のはずないです。」

と言い張った。


槍問答でらちがあかない。

美奈も自分で確かめるまで

信じない。


だって一朗太は、約束破らない。

絶対、私を愛してくれてるもん。



元義父様と美奈は、じっと睨み合い

ゆずらない。



 「わかった。じゃあ私が

行くから

  確認しなさい。」


そう言うと宗一郎は座敷の方へと

歩いて行った。

開けられたふすまの真ん中の台

の上には2人分の食事と

向かい合って座る京香さんと

一朗太がいた。


「おそかったですね、父さん。」


  「おお、すまんすまん。」


「あれ?母さんは?」


  「すぐ来るだろ。どうだ、

   楽しかったかデートは?」


「当たり前でしょう。

 美人と一緒なんだから

ハハハ。」


それを聞いた美奈は…?

呆れてしまった。


ポカーンとした後我にかえり



「わかりました…。

 彼は諦めますってか‥あんな

嘘付きによくぞ育てましたね。


 ハハハハハハ、アーッハハハ」


美奈は何だか馬鹿馬鹿しくなり、

そんな奴を信頼した自分も、

馬鹿丸出しのようで

笑いがこみ上げ我慢できなかった。



「貴方何がおかしいの?」


厳しそうな元姑は、目を釣り上げ

一括した。


 「だってぇ、私何回も騙されて

きたのに

  また騙されたんですもの。」

クククククあーハハハハハ

「馬鹿デスヨネー

笑いたくもなるしアハハハハ」


静かな料亭に響く美奈の

笑い声に一同唖然

すると京香が


「おじ様あちら随分

賑やかですわね。」

そう言った。

一朗太も

「誰だよ!下品だな!!」

と腰を上げた。


そんな一郎太の目に飛び込んで

来たのは襖の向こうで

一朗太が大事にしている

美奈が大笑いしていた。

一郎太はその光景を見て・・・





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る