第28話 一郎太現る


気持ちがふわふわした中

離婚届をバックに入れる。

バスの時間を確かめて化粧をする。


鏡の前で

「ちょーみじかい

結婚生活だったね。

もう先生とは別れる。 

元気出して‥」


自分を励ます。

 

鏡の前の自分の百面相。

靴下を履いて、短い準備が終わる。


ドアを閉め市役所へと向かう。



「早くしないと先生が、

結婚詐欺師に

なっちゃう。」

自然と足は急ぎ足になる。


証人には友人の姉さん達に

頼み込んで

記入してもらった。

渋々、いやいやながらも

書いてもらえた。


調子こいた自分!

沢山の人に迷惑かけた事を反省。


ド━━━━━━━━━━ン

と身構えた様に見える市役所

ドデカイ建物を前に足が震える

ビビってどうする!

18、9の娘には無理は無いのかも

しれない。



バックを握っては置き、

握っては置き…

なんとか頑張ってバックを開ける。


震える手を押さえ深呼吸をして、

離婚届をとりだした。

何回も何回も繰り返している。

誰がみたって未練がましい。


誰か未練を断ち切る一言を下さい。



差し出す、ひっこめる。

差しだす、ひっこめる。


役所のおじさんも流石に、

苦笑い。

パッ、ゴン

パッ、ゴン役所の叔父さんの手に

美奈の持つ、離婚届が手に当たる。


パッ、ガツン

役所の叔父さんも、

今度こそ掴むぞと

腰を落として構えている。


見合って、見合って状態!!



「パパあのお姉ちゃん、叔父さんと

 なにしてるの?」



知らない親子がジーッと見ている。



ポニーテールの5歳位の可愛らしい

女の子は首をかしげて美奈の行動を

不思議がった。



30歳代らしき彼はインテリ風で、

どこか一郎太を思わせる

風貌だった。



一郎太がいるようで、

一郎太が何かいいたそうで‥

全くの見ず知らずの親子なのに‥



頬をつ一つって(T_T)涙が落ちる。



彼は美奈を見て忠告する

「もっと良く考えて出しなさい。

これは大切な事だよ!

旦那さんと、

もう一回話しなさ い。」

   そうアドバイスをくれた。


そして子どもと一緒に

美奈より先に

紙を出して帰って行った。


美奈はその姿を見送った後に

時計を眺めた。


「分かってるってぇー」

座り直してカウントダウン

16:00時


出したく無いけど時間がない。

親子の後ろ姿を見送ると

益々未練がましい。


でも、動かないと‥

彼が結婚詐欺師になってしまう。

時間は待ってくれない

一郎太の見合いが始まる前に

ださなければ・・


美奈はワンワン泣きながら

紙を差し出した。


あんなに紙を掴もうと

躍起になってた

役所のオジサンも

「もう一回話合ったら?

 あなた、泣いてるじゃないか!!。」


すると横からしっかりと

手首を捕まれた。



 「美奈なにしてるの?」


驚いて振り返ると、冷たく

凍るような声が響いた。


其処には、お見合い中であろう

はずの一郎太が上から美奈を

見下ろしていた。







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