妖怪(=人間)事典

とほかみエミタメ

第1話 砂かけ婆

 ~砂かけ婆……奈良県や兵庫県や滋賀県に伝わる妖怪。人が神社のそばや人通りの少ない森の中を歩いていると、砂を振りかけて脅かすものとされる。誰も姿を見たことがないといわれ、古典の絵巻などにも描かれていないために姿形は不明とされるか、もしくは姿を持たない妖怪とされている。自分の醜さを嫌って姿を人前に現さないという説もある。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 某チャットサイトで知り合った女性とこれから会う。


 何でもご先祖様が金鉱山と砂金事業で莫大な富みを築き上げたらしく、彼女はそれら全てを受け継いだ大金持ちだそうな。その様な理由からねたそねみもあるのだろう。知人界隈からは「砂かけ婆」と言う不名誉なあだ名で呼ばれているのだと。


 僕と彼女は共通の趣味で意気投合。それは、希少きしょう夥多かたを問わずに、砂や石を愛でる事だ。因みに僕の方は好きが高じて、地質学者を目指している度合いである。


 この様なニッチな話題で盛り上がれたのは、お互いに初めての経験であり、割かし早い段階で、直接会いましょうってな話に発展した。


 とりあえず、彼女の住む街の最寄り駅にて、僕は待機していて下さいとのお達し。そこに迎えの車を寄越よこしてくれるそうだ。


 なるほど。時間通りに高級リムジンが到着し、彼女の邸宅へと向かった。


 そして、辿り着いた豪邸で、先程の運転手兼執事の方に案内された大広間にて、遂に彼女がお目見えとなった。


 するとどうだろう。お世辞にも美人とは言い難く……いいや、それどころか醜い老婆が姿を現したではないか。


 聞くと、若い内に見た目が老化する奇病を煩っているそうで、まだ二十代半ばにもかかわらず、この様な容姿に成り果てたとの事である。


 だが、僕的に外見は関係ない。病気の件はお気の毒だとは思うが、好きな砂石させきの話をできる御仁ごじんと巡り会えたって事が、只々ただただ嬉しいと言う旨を伝えた。


 それを聞いた彼女は一頻ひとしきり無言になる。


 その後、何と彼女は自分で顔の皮を引っ張り始め、そのまま頭部全体の生皮を引っ剥がしたのだ。そうして皮膚の下の赤身部分が露わになる……みたいな事は全然無く、そこには「人気のトップ女優です」と宣言されても、文句なしに納得してしまう麗人れいじんが存在していた。


 彼女が取り外した皮とおぼしき物は、ハリウッド製の特殊メイク技術を駆使したマスクであった。


 財産目当てで近寄ってくる有象無象うぞうむぞうの男共は、決まって先程の仮初かりそめの外形がいけいで逃げ出すそうで、とどまったのは僕が初めてなのだそう。


 彼女曰く、お金でも美貌でもなく、自身の中身を見てくれる男性を探しており、要は真実の愛を求めている真っ只中なのだと。


 次いで、「まずは第一段階は合格よ」と僕に告げた後に、彼女は正式にお付き合いをする事を提案してきた。


 勿論、僕の答えはこうだ。


「僕の恋愛対象や性的欲求対象は鉱物オンリーなのです。御免こうむります」

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