彼の死

バブみ道日丿宮組

お題:2つの雑踏 制限時間:15分

彼の死

 繋いだこの手は放さない。

 そう誓ったはずなのに、

「……」

 その手はもう温かみを持たない。

 死んだ。あっけもなく死んでしまった。

 どうしていつもこうなってしまうのか。私の大切な人はいなくなる。誰も残ってくれない。お父さん、お母さん。おじいちゃん、おばあちゃん。

 

 私は一人だ。なんでこうなってしまうのか。

 

「……」

 彼の頬に手をあてて、撫でる。

 いままで何度やったかわからない行為。感触は違った。ハリがなかった。血流がないただの皮。血が流れた跡が固まってて、その凹凸の感触が指から伝わってくるぐらいだった。

「ここにいたんですか、義姉さん」

「……誰?」

「誰って酷いですね。あなたの義弟になった人ですよ」

 振り返れば、彼に似た男が立ってた。

 そういえば、学校で紹介された気がする。

「兄も馬鹿ですよね。勝てない相手に殴り込みにいくとか、正気じゃない」

「……」

 彼は誘拐された私を救うために、囚われた廃屋に一人やってきた。

 そこからは一方的な暴力だった。

 雑踏のように大多数の大人が彼をリンチした。

 私はその中で何度も犯されてた。痛いとか気持ちいいとかそういった感情は生まれなかった。

 ただ彼を助けて欲しい。ただ殴らないで欲しい。ただ指を折らないで欲しい。ただお腹に刺さないで欲しい。ただ髪を切らないで欲しい。

 どの願いも叶わなかった。

 私たちが開放された時、既に彼は冷たくなってた。

 警察が駆けつけるまで、私はその側でただ座ってるだけであった。警察は友だちが呼んでくれたらしい。その友だちと呼んでた子は笑ってた。大丈夫だからといいながら、くすくすと笑みを零してた。

 私がここにくる原因となったのは、ひとえにその友だちかもわからない子のためだった。

 助けて欲しいと言われて、動かない人間はいない。

 でも、その現場にその友だちはいなかった。

 人相が悪い男たちがたくさんいた。

 逃げることはできなかった。

「義姉さんも検査受けないといけませんよ。大事な跡取りの子が身籠ったとなれば、大変なことです」

 よく知ってるものだ。

 現場にいなかったのに。

「そうそう。兄にかけられてた保険の大半は、僕に振り込まれることになってますので安心してください」

「……そう」

 興味がなかった。もう生きる意味もなくなってしまった。

 今更赤ん坊ができたと聞かれても、育てられる気はしなかった。

「それでは、先生を呼んできますね」

 男は去ってた。

 残されたのは、ひどく損傷した彼と、精神が疲弊した私だけだった。

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彼の死 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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