ロッティとライバル登場!2

 YB-125と激闘を繰り広げた(※諸説あり)次の週末、今度こそ俺たちは本当の宿敵(ライバル)に出会したのだ。


 ホワイトカラーのSR400。


 今回は俺とロッティ(SR400)の前を走っていたのでナンバーを伺うことが出来ていた。


緑の縁取りに白・・・・・・YB-125じゃない。


「よしッ! 追うぞ」


『うわー、また始まった』


 呆れるロッティを他所に、ゆったりしていたポジションから上半身をグッと前に押し倒し、前傾姿勢を取る。


「・・・・・・二輪の呼吸、一の型、攻めの構えッ‼」


 SR400の純正シートは後部搭乗者用のスペースまでフラットになっており、俺はこれを寸胴シートと呼んでいたのだが。ともかくライディングの姿勢にある程度の融通が効いた。


『やめて頂戴、恥ずかしい・・・・・・』


 高鳴る鼓動を合図に週末のお気楽ツーリングは終わりを告げ、追いつ追われつ、越しつ越されつのデットヒート・・・・・・すなわち本当の戦いが始まるのであった。



そして5分後のことである。



『力の差は歴然ね・・・・・・これはひどすぎるわ』


 俺たちは割とタイトなワインディングロードを走っていたのだが、前の白いSR400(白ロッティ)がすんなり滑らかにコーナリングを決めるのに対し、俺とロッティはコーナー入り口でビビってしまい、ブレーキで減速してしまう→体重移動ではなくハンドリングで曲がろうとする→速度を失い、前との距離が拡がる→直線で距離を詰めようと無理やり加速しようとする→コーナーでまた減速してしまう・・・・・・と言う何ともお粗末なライディングを繰り広げていた。


「何故だ、何故差が縮まらないッ!? 機体性能は同じ筈なのに・・・・・・ッ‼」


『貴方のライディングが下手すぎるだけよ・・・・・・まるで三文ドラマの悪役ね、貴方』


 教科書の悪いポイントだけを集結させたようなライディングを行えば、当然のように辟易してしまう。そんな刹那、前方にコンビニを見つけた。


「相手もなかなかやりおる。ここら辺で一旦小休止をとった方が良いかもしれない」


『ハナから勝負になってないわよ』


 すると白ロッティと向こうのオーナーもウィンカーを出してコンビニに入る構えを見せたのだ。


 ただただコンビニへと入る切り込まれた縁石を跨ぐだけの簡単なハンドル捌きの筈が、前の白ロッティは急旋回でもするかのように車体を大きく倒して曲がってみせた。


『うーわ! すんごいバンク角・・・・・・よくもあそこまで倒せたものだわ』


 あそこまで傾けてからスロットルを戻してしまったら絶対に横倒しになってしまう。


「ぐぅ、負けてなるものか!」


 せめてアクセルワークだけでも自然なままで入りたい。


『・・・・・・張り合わないでよ』


「ぐぎぎぎぎ!」


 頑張ってアクセルを吹かしながら曲がろうとしたものの、結局切り込みの段差が怖くて車体を左に寄せ過ぎてしまい、よろよろとハンドル操作だけで敷地へと入ることになった。


「ぐぬぬ・・・・・・我ながら情けない」


 せめて周りの人にあの白ロッティオーナーと一緒にツーリングしてると思われたくないので車一台分離して停める。


『うわぁ、迷惑な客ー・・・・・・』


「う、うるさいな・・・・・・ちょっとお手洗い行ってくる!」


 ロッティ(SR400)を置いて店内に入る。特に買いたいものがあったわけでもなかったが、白ロッティのオーナーに出会すのは何となく嫌だと思い、とりあえずトイレに入って時間を潰すことにした。



「・・・・・・確かに、張り合う必要ないよな」


 用を足すわけでもなく便座に深く座り込み、虚空を眺めそう呟くと、頭に籠った熱が一気に抜けていくようだった。


 ロッティの言う通りだ。別にライディングが下手くそだって良い。俺は俺のペースで彼女を大事にすればそれで良いじゃないか。


 先程まで如何に自分自身が下らないことをしていたかと省みる。


「ま、そういうヤンチャも含めていい経験か?」


 ただお手洗だけをお借りして何も買わないのは気が引けたため、珈琲を買って外に出る。俺自身はこの買い物を『みかじめ購入』と呼んでいた。早速キャップを開けて一口、乾いた喉を潤す。


 通りが良くなった口からは自然と謝罪の言葉が湧き出てきた。


「・・・・・・ロッティ、ごめん。さっきはちょっと熱くなりすぎたよ・・・・・・」


『ちょっと! 貴方、見た⁉︎』


 しかし俺の謝罪を遮って、興奮したようにロッティは捲し立ててきた。


「・・・・・・へ?」


『あの白いSR。ちょっと高い排気音だと思ったらデイトナのキャブトンマフラーを着けてたのよ‼︎ よくよく聴けば何処までも高鳴るフィルインみたいですっごく素敵!』


「・・・・・・はい?」


 ロッティ、君は一体何を興奮しているというんだ。


『買って!』


「・・・・・・・・・・・・は、張り合うなよ」


 自分がその件に関して謝ろうと思っていただけに、非常に言いづらくはあったのだが、先程ロッティに言われた台詞をそのまま返すことになった。


 安全面でも金銭面でも張り合ってもきっとひとつも得しない。多分。

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