第3話

 老人が自殺した部屋は二階の突き当たりにあったんだけど、家が歪んでいるのか建て付けが悪くて、ドアを開けるのにめちゃくちゃ苦労した。

 開けて見ると、とてつもなく酷い臭いが鼻へと流れ込んできて僕は思わずむせたんだけど、松永さんはなんともない様子で平然としていた。むせてる僕を冷たい目で見下ろしすんだけど、もう、その瞳ゾクゾクする!僕、Mっけは全くないんだけど、松永さんにだったら踏まれてもいいって、思っちゃったね。

「酷い臭いですね」と松永さんが言ったので、やっぱり松永さんにも臭いは感じたみたい。

「強い霊がいます」

「本当かなあ〜〜?」

 僕はもちろん半信半疑で、部屋に足を踏み入れる。アレ?さっき感じたよりも全然臭いがしない。代わりにに部屋の中がえらく寒いような気がするんだけど、気のせいかな?

「霊がいる場所は一般に冷気に曝されるといいます。臭いがあるのも、霊がいる場所の特徴です」

 へええ〜〜。なるほどなるほど。それを踏まえるとこの部屋には、たしかに霊がいそうだな。

 部屋の中には白かったと思われる煤けたソファが一つ。それだけしかない。

 僕は何気なしにそのソファにどかっと腰を下ろした。

 その時、突然、バンッと言う音と共に扉が閉まる。建物の中だもの、風なんかもちろんない。そりゃ、古い建物だから隙間風はそれなりだけど、扉が閉まるような激しい風なんか吹いてない。

 なんとなく、嫌な気がして僕がソファから立ち上がろうとしたその時、何か液体がピチャリと指先に当たった。それを確認しようとして、


 どっひゃ〜〜〜〜!!

 なんじゃこりゃ〜〜〜〜〜!!


 僕の手には何やら真っ赤な液体が付いている。よく見たら、さっきまで白かった(煤けてはいたけど)ソファにべったりと赤い滲がついてるじゃないか。どひぇ〜〜〜〜!!

「どうやら、その老人、そのソファの上で喉を切って自殺したらしいですね」

 いかにも無関心なように言う松永さん。そう言うことは先に言ってくれぇ〜。そんなことがわかってたら絶対にソファに座ったりなんかしなかったんじゃ!!

 松永さんが僕に言う。

「この部屋、今すぐに出た方がいいと思います」

 わかってるよ!!そんなこと!!!

 ていうか、むしろ今すぐ出たい!!

 僕は扉に一直線。ドアをガチャガチャやるけど全く開く気配がない。扉の向こう側から誰かに押さえられてるような感触。

 男の力を舐めるなよと思って、僕は部屋の扉を思いっきり三回ほど蹴った。そしたら、なんと、まあ当たり前だけど、ちゃんとドアは壊れたよね。

 そっから僕らはめちゃくちゃ急いで家を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る