転生したら頭上にフラグが見えるのだか。下

「やっぱり見えない……」



 フラグが立ったあとから記憶が無い。王子が何か私に言っていた気がするが、なんて返したかまったく覚えてない。我に返ったときにはすでに自室で朝を迎えていた。


 急いで鏡で頭上を確認したが、やはり何も見えなかった。悪あがきとばかりに自分の頭の一通り撫でてみるが、フラグの感触もなければ折れるフラグもない。


 結局あのフラグはなんだったのか。その場で不敬罪に問われていないから死亡フラグではないと信じたいが、もしかしたら母の死亡フラグのように数本溜まると効果があるフラグかもしれない。そんな自分の命を退場させるレッドカードはいらない。


 とはいえ、見えないフラグは触れないのでどうしようもない。ここ数年ですっかり諦めを覚えた私は、この問題を放置することにした。今問題なければそれでいいや。





 。。。



「おめでとう、リリアーナ!あなたとレオンハルト殿下の婚約が決まったわ!」



 なんて思ってた時期が私にもありました。



「ゑ?お母様今なんとおっしゃいました?」

「だから、あなたと殿下が婚約が決まったのよ!」



 嬉しさからの再確認だと思ったのか、母はとても微笑ましげに私を見ている。残念だが私は今嬉しさのドキドキではなく、死への恐怖によるドキドキで胸がいっぱいだ。

 すでに瀕死の私に気づかず、母はさらに恐怖をばらまく。



「しかもね、殿下が自ら陛下に申し出たっていうのよ!」



 きゃっ、と小躍りする母。それに対して私は死を覚悟してそっと胃を押えた。ぽんってフラグが立つ音がしたが、きっとストレスのフラグだろう。



「あ、来週にはお返事を伺いに殿下が直接いらっしゃるわよ」



 なんでそんな超特急で事態が進んでるの?初対面から二週間も経ってないぞ。





 。。。


 約束の日、朝から"本気"と書かれたフラグを生やしたメイドたちにピッカピカに磨かれた。彼女らの気概がすごいのか、フラグが跳ねていた。

 ……動くんだ、それ。


 早朝から揉まれた私はすでに瀕死だが、まだ私には婚約を丁重にお断りするという大仕事がある。とりあえず一息つくと、なんだか屋敷が少し騒がしい気がする。





 ____来たか。



 覚悟を決めるのと共に、部屋のドアをノックされる。王子到着の知らせを持ってきたベテラン執事であるセバスは、とても落ち着いた様子だ。


 なんだか勇気が出てきたような気がして、その気持ちのまま王子を出迎えた。2週間ぶりの王子は心無しか先日よりキラキラしてる。

 形式的な挨拶をさっさと済ませば、大変麗しい笑みを浮かべた王子様はノータイムで本題に入った。



「婚約の返事を聞かせて貰えるかな?」

「殿下は」

「レオ」

「レオンハルト殿下には」

「レオ」



 圧がすごい。愛称など呼んでしまったら、それこそ引き返せなくなりそうで本当は呼びたくない。

 呼びたくないが、呼ばないと一言も喋らせて貰えなさそうな圧を感じる。



「………………レオには、もっと相応しいご令嬢がいらっしゃるかと思います」

「でも俺はリリアーナがいいんだ」



 私と2歳しか違わないはずのショタの口から、乙女ゲームでしか見ないようなセリフが飛び出してした。



「でもほら、私たち知り合ったばかりではありませんか」

「これから知っていけばいい。ほとんどの貴族は顔も知らない相手と婚約するしな。それとも」



 いったん言葉を区切ったショタ王子は、きゅるんと効果音が付きそうな顔をした。青い目が少し潤んでゼリーのようだ。



「俺のことがきらいなの?そっか、俺はリリアーナ嬢のことが好きなんだけど……ごめん。きらいならしょうがないよね」

「……まあ、お友達からなら」



 ぽんっと、またフラグが立つ音がした。





 。。。


 子供のハニトラに陥落した私は、気づけば言いくるめられて一年もしないうちにレオの婚約者になっていた。

 チョロいとか思わないで欲しい。正直何されたか全く覚えてない。


 ちなみに正式に婚約者になった日、私は自分が悪役令嬢だと気づいてしまった。最悪のタイミングである。プラグパイセンは何故かこういう時に限って役に立たない。


 そんなわけで少しでも好かれようと、私は毎日レオのアタマを撫でるふりしてヤバそうなフラグを折っている。

 おかげで最近は私を見ると頭を向けてくるようになった。そのつむじのところに真っ赤なフラグが立ってなければ、大型犬だと思って微笑ましい気持ちになれたけど。




 。。。



 悪役令嬢の引力なのか、避けようにも何故か攻略対象出会ってしまう。婚約の件で回避は不可能だと悟った私は、レオと同じように攻略対象たちのフラグを折っていった。


 そして気がつくと、彼らのつむじのところにフラグが立っている。文字がない真っ赤なフラグはただただ不気味である。


 そのフラグが怖いので、私はさらに彼らのフラグを折っていく。貴族学園に入学式してからフラグがよく立つ気がする。ぽぽぽぽーんと連続して立つ恋愛フラグに、彼らが刺されないか心配である。













 ところで明日は私とレオの結婚式があるんだが、私はまだ学園卒業してない……。

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