第10話  希和と不良

「もう……だからここは嫌だって言ったのに……」こいつにだけには会いたくなかったなあ。

「希和!後ろに下がってな」友希さんは私を後ろへ促した。

「えっ……」

「オッサン!引っ込んでろって言っただろ!」

不良はすごい顔をして友希さんに向かって来る。

私は思わず両手で目を塞いでしまった。

「バキッ」と音がして地面に倒れ込む気配が伝わってくる。

「友希さん!だから言ったのに……」

倒れた友希さんを庇おうと思って駆け寄った。


「あれっ?」倒れていたのは不良の方だった。

友希さんはゆっくりと不良の前に立ってその髪を掴むとクイっと起こす。


「希和は俺の彼女になった、だから今後一切手を出すな!」

不良は「は・い・」声にならない息で返事をした、余程苦しいみたいだ。

「希和!どうする?もっとボコボコにするか?」

「えっ………」

「コイツのせいで高校を辞めたんだろう?」

「うん……」

「じゃあ、コイツが動けなくなるまでやってやろうか」


「もういい、もういいの」

不良はガックリと跪いた。


「なあ不良くん、お前は希和の事が好きなんだろう」

「はい………」

「じゃあなんで希和の嫌がる事をしたんだよ」

「すみません……俺みたいな不良はどうせ好きになってもらえないって思ったから」

「そうかな、俺は何があっても希和を守ってみせるから友達になってくれって言った方が効果的だったと思うぞ」

「えっ…………」

「暴力で解決しようとすると、もっと大きな暴力が帰ってくるぜ」

「は……はい……」

「せっかく強いんだからさ、それを良い方に使いなよ」

「はい……」

「もう、希和や希和の周りの人達に何かするのはやめろよ」

「はい」

「希和が元気ですかって声をかけられる人になってくれよ」

「……わかりました……」

「約束したぞ!」


友希さんは私の手を引いて軽トラックへ向かって歩き出す。

「希和帰るぞ」

「はい!」


私の体は一挙に体温が上昇した。この一瞬で完全に心を持って行かれた気がした。

軽トラックに乗り込むと不良がじっとこっちを見ている。

「友希さん、不良が見てるから少しじっとしてて」

「何?どうして」

「いいから!」友希さんの首に手を回してキスをしようとした。

「何やってるんだよ」

「彼女か疑われたら嫌だから」

「えっ……それは大丈夫だろう」

「いいから……」

私は無理矢理友希さんにキスをする。

友希さんはびっくりして私を引き離した。


軽トラックを走らせると、ジロっと睨んだ。

「だって……不良は許したけど、あの無理にキスされた嫌な唇の感触は消せないんだもの…………」

「だから俺で口直しってことか?」

「うん……」

「お前とんでもないやつだな」

「ごめんなさい」

友希さんはしばらく口を聞いてくれなかった。


「お前の幼馴染に電話してやれ、多分苦しんでると思うから」

「分かった」

私は幼馴染の優斗に電話した「もうあの事は気にしなくていいよ」と言った。

向こうから泣いているような声がした。


「ねえ、友希さん」

「何だ!」

「もうキスしたから(仮)を外して」

「嫌だね」

「じゃあどうしたら外してくれるの?」

「…………」


「…………高卒認定にでも受かったら外してやってもいいぞ」

「高卒認定って?」

「高校を中退しても、大学を受験出来る資格がもらえるのさ」

「そうなんだ……じゃあやって見る、資格が取れたら(仮)も取れるんだよね」

「ああ……」

「私やってみる」

軽トラはのんびりと浮かんだ白い雲の下を、天空カフェへ向かって走っていった。

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