第5話 プリンちゃん

翌週土曜日になってまたガレージハウスへやって来た。

軽く掃除を済ませ、お昼を食べに天空カフェへ行く。新くんと希和ちゃんが待っていた。最近カフェに来るのが少し億劫になっている。


「おはよう」仕方なく声をかける。

「友希さん、もうお昼ですよ」希和ちゃんが子供に諭すように言い放つ。

「希和ちゃん、業界じゃあ初めて会ったら夜でも『おはよう』なんだよ」新くんがフォローしてくれた。

「そうなんだ、じゃあ『おはようございます友希さん』ですね」笑っている。

軽くイラッとした。

「コスプレサークルの美奈さんから友希くんの事を色々と聞いたんだって、株が上がってるよ」新くんが含み笑いしている。

さらにイラッとした。

「そうなんですか……」ほとんど他人事という返事をする。

綾乃さんがオーダーした角煮バーガーを持って来てくれた。


「綾乃さん、このふたりイチャイチャしてますよ」と告げ口してみる。

「あらそうなの、それは心配だから友希さんが希和ちゃんの彼氏になってあげてよ」反撃を喰らった。

「きゃー恥ずかしい」希和ちゃんがプルプルしている。

俺のイライラは頂点に達しようとしている。

俺はバーガーを食いちぎるように食べた。


そこへユーチューバーのプリンちゃんが彼と一緒にやって来た。

久々に本人を見て少し懐かしくなる。

ユーチューブは時々見ていたので、炎上事件の時は心配した。

今は彼の実家であるカフェで花嫁修行をしている事を知って、いつかカフェに行ってみたいとも思っている。

黒髪になってるので、もう髪もプリンちゃんでは無いんだなあと思った。


「こんにちは新さん希和ちゃん」

「あっ!プリンさんだ」希和ちゃんが嬉しそうに手を振る。

「お久しぶりプリンちゃん、いやもう凛ちゃんだったねえ」新くんも手を振って迎える。

「お久しぶりです新さん」彼氏も新くんに挨拶した。

どうやらみんなお友達のようだ、俺は気をきかせて別の席へ移ろうとする。


「えっ!もしかして一瀬さんじゃないですか?」凛ちゃんは俺を食い入るように見た。

「あっ………覚えてました?」ただただ怯んでしまう。

「忘れるわけないでしょう」食い気味に答える。

「お久しぶりです」ポリポリと頭をかくしかできない。

一瞬その場の雰囲気がピキっとなった。


「友希くん凛ちゃんとお知り合い?」新くんが場を和ませようとしてくれた。

「一瀬さんは私の大切な人です」凛ちゃんが全てぶち壊す。彼氏も目を見開いた。

「あのう……みんななんか誤解してますよ……」

「えっ!あっそうか」凛ちゃんは少し笑ってみんなを見わたした。


「私がユーチューバーになって全く知られてなかった頃に、イベントに参加したら一瀬さんと知り合ったんです」

「ふーん」新くんが不思議そうに二人を交互に見ている。

「その時にアドバイスをしてくれた事がきっかけで人気が出て来たんです、だから私の恩人なんです」

「そうういうことか」彼氏さんは少し安心したようだ。

「でも、イベントの最後の時、一瀬さんは忙しくて電話番号も聞けなかったんです」少し寂しそうな表情だ。

「そうだったかなあ……」何となくそう答えてしまう。

「今日は連絡先教えてもらえますよね」少し怒った顔だ。

この状況で連絡先を教えるのはどうだろう?

「じゃあ彼氏さん……えっと……」

「あっ、桐生匠真きりゅうたくまです、初めまして、凛がお世話になったようでありがとうございます」そう言って握手してきた。

「初めまして一瀬友希です、イベントの仕事をしてます、よろしくで〜す」

「良かった、どうなることかと思った」新くんがホッとして笑っている。

「じゃあ匠真くんと連絡先を交換しましょう」

「はい、よろしくお願いします」

凛ちゃんは少し不服な表情だが、気を遣ってくれているんだと思ったようでニッコリと頷く。

連絡先を交換すると、二人は手をふって景色のいい席へ移動した。


希和ちゃんが俺をじっと見ている、何か目つきが変わった気がする。

横でそれを見た新くんはニヤリとした。


「希和ちゃんと二人でイチャイチャしてると綾乃に怒られるから、友希くんは希和ちゃんの彼氏という体で行こうよ」

さっきの話を蒸し返してきた。


「何つまんない冗談言ってるんだよ」俺はただ呆れる。

「私、友希さんの彼女になってあげます」希和ちゃんが怖い微笑みをくれた。

「なんで上から目線なんだよ、結構です!どうぞ俺のことはほっといてください!」

「じゃあ彼女(仮)ってことで」新くんがとんでもない事を言い出す。

「新くん!本当に怒るよ!」

希和ちゃんが少し寂しそうな表情になる。

新くんはそれをチラッと見ると片方の口角を上げて合図した。

どうやら何か考えがあるようだ、しかしこの問題は大きすぎるぞと思った。


「とりあえず今日の所はそれでいいよ」仕方なく言うと、希和ちゃんはニッコリ微笑んだ。俺は気分がさらに重たくなった。

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