第4話 ~ダダンダウンHS《ハイスクール》~

 何と言っても僕は高校生である。学生の本分は勉強だからな。前日にどんな事があろうとも、次の日には平常通りに登校せねばならぬのよ。


 そう、昨日の女性ファン多めの即席握手会だが、到頭とうとう深夜にまで及んでしまったのだ。何よりもずうっとだったもんで、足腰がガクガクである。ふん。別に他意は無いぞ、好色家共めが。


 まあ、これ程までに僕らダダンダウンが人気者となれたのも、S.O.B.の御陰である事はろんたない。


 僕が通っている「私立吉本興業高等学校」は、S.O.B.に特に積極的で、戦績を成績に換算出来たりが可能である。

 例えばテストで赤点を取ったとしても、S.O.B.で勝利している実績が認められれば、追試無しで免除されたりも珍しくない。

 多少の違いはあれど、今や日本全国殆どの学校が、幼稚園より同様のシステムを採用しているのだ。


 この仕組みは社会人になっても有用で、昇進や給料アップ等に適用されている。


 さて、特筆すべき点として、S.O.B.の後押しにより、日本は世界で最も好景気な国となった、事の顛末てんまつを述べねばなるまいて。


 まず第一に、S.O.B.をネット上で行っても、今一つ盛り上がりに欠けてしまう事実だ。

 やはり自らが参加してこそのS.O.B.であり、何より生で体感するお笑いの臨場感は、「見る」のも「やる」のも、これ以上の物はないのである。


 従って、S.O.B.の為に、皆が自宅に留まらないで、とまれかくまれ外へと出掛けた。

 そして、S.O.B.と銘打つ物ならば、近辺に必ず露店等々が出店し、プチフェスティバル状態となりて、大いに盛り上がる。

 その流れで、S.O.B.終了後は、折角外出しているのだからと、銘々めいめいが訪れたい販売店etc.へと足を運ぶ。


 これが毎日、各所、北は北海道から南は沖縄迄、国全体で行われた結果、人が物品を買い求め、商品は売れに売れた。


 ここで透かさず、儲けの匂いを嗅ぎつけた日本国政府も便乗。S.O.B.をやり易い様に、道路や橋を造り直す公共事業を、がっつり施行したのだ。後はこの場をお借りしまして、消費税廃止法案も強行採決しちゃった、てへぺろ☆(・ω<)、みたいな。


 更に、「やっべぇ、金融緩和やらな! 乗るしかない、このビッグウェーブに!!」と思い立った日本銀行も、お金をしこたま発行しまくったのである。


 ついでに、S.O.B.関連で、人気の芸人達による、お菓子やグッズの製品化、メディア展開、その他諸々……これらの海外輸出界隈も、一方ひとかたならず捗った。


 需要と供給の増大+政府支出+金融政策+おまけの対外貿易が重なり、日本の経済は右肩上がりとなったのである。


 まあ、何よりも国民の意識改革がこれを実現したのであって、景気とは気持ちの様子、気の持ちようなのだ。多くの人が上向きと思えば実際に景気は回復し、逆に下向きと思えば不景気になる。そう、結局は個々人の心の有り様次第だった訳である。


 そうであるならば、一度きりの人生、楽しんだもん勝ち。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々そんそん。それだけばかりでなく、「お金はあの世に迄は持って行けませんよね~」ってなマインドに、皆が皆シフトチェンジした賜物が現在の状態なのである。


 あらよっと、その名も、「S.O.B.不況脱却」だ。へい、クールジャパン一丁上がり!


 この出来事は教科書にも載る画期的なお話で有り、本国は笑顔の絶えない平和な国となりましたとさ。めでたしめでたし。


 ……ん? そうはならんやろって? なっとるやろがい!!


 ふん。こんな知名度抜群のチンケな話は、これ位でもう良かろう。


 今の僕にとって、他の何よりも重要な関心事かんしんじは、昨日の案件以外有り得ないのである。


 恥ずかしながら、異性に対して愛の告白は初めてだったし、しかも、KAGUYA-HIMEの返事は保留と来たもんだ。おい、胸がモヤモヤするぅ~ぞ2ツー


 ふむ。やはり交換ネタ帳の勧誘は不味かったか。ふん。芸人ならば、ネタの盗用や剽窃ひょうせつを恐れるしな。


 何にせよ、存外思った以上に、僕ちゃんメランコリ―モードだったりするのだよ。


 ふん。こんな僕の心の機微きびを、圭助はっくに感じ取っている事であろう。よって、前日の彼女の一件には一切触れて来ないであろうな。

 ふん。ああ見えても、あ奴はそう言った優しい面を持っている男だ。ふふん。信じておるぞ相棒よ。


 いざや入室つかまつる。マイクラスルーム・二年B組へ。


「なはは、お早うさん。昨日、KAGUYA-HIMEにグイグイと求愛しくさりおった焔煜さんや。ぶはは、交換ネタ帳てなんやねんな。っぶー。そないな今日日のスピード社会に沿うてへん、回りくどいもん何ぞ、誰もやりたがらへんて。そら振られるわ」

「ふん。お早う御座います、圭助さんや。ふふん。貴様と言う奴は、本当に容赦も何もあった物ではないな。それにな、まだ物別れと決まった訳ではないぞ、無礼者め」

「なはは、心配あらへんで。今朝方、うちの近所にありまする神社に参拝したってん。「どうか焔煜の恋愛が成就しまへんように」っちゅうてな」

「ふん。くのごとき箇所にてまつられているが、そげな邪心を聞き入れる訳が無かろうが。ふむ。だがな、僕から圭助にお願い事なら出来ちゃったぞい。たった一度きりで良いのだ。頼むから貴様を殺めさせておくれ」

「なはは、命は一つしかあらへんけども、考えときまっさ。……って、おい煜よ。何で学ラン何ぞ着て来とんねん。うちん所の学校はブレザー型制服やんかいさ」

「ふん。久々に中学の頃のを、何とは無しに引っ張り出しただけだ。片付けるのも億劫だったので、そのまま羽織って来たまでよ。……うむ。今日のは終わり。お笑いを極めるには、小さな事からコツコツと。分かっておるか? やすし君」

「誰がやすし君やねん! しまいに怒るでしかし、きよし君!」

「ふん。誰がきよし君だ、誰が。僕は「ゆう」君だ。貴様、頭でもいかれたのか?」

「至って正常じゃ、あほんだら! 自分が始めたんやろ! それには主にボケ担当やから、カテゴリー的には煜の方やぞ! ええ加減にしなさい!」

「ふん。所でやすし君は、酒類について造詣が深いと耳にしている。一番美味しいアルコール飲料は何なのだ? 僕もお酒を始めたいと思っているので、御教示ごきょうじ下され」

「このくだりまだ続けるんかいな! そもそも俺は一遍いっぺんも飲んだ事あれへんし、未成年者の飲酒は法律で禁じられとります! もうええわ!」


 ふん。朝のウォーミングアップとしては大体こんなもんだろう。今日もダダンダウンは絶好調だ。


「そうそう、そのKAGUYA-HIMEの事やねんけどな、やっぱプロフィールから何やら、丸切まるきし詳細が見付かれへんねん。なはは、昨晩ネットで検索をかけまくったんやけど、いっこも引っかかれへんわいや」

「ふむ。僕はインフォメーションテクノロジー関連はからきしだからな。パーソナルコンピュータとファミリーコンピュータが全くの別物だと、つい最近知ったばかりだ」

「こら予想の斜め上を行くポンコツ具合やな。んまあ、いきなしパソコン持てや、とは言わんけども、煜もせめてスマフォくらい持ったらどうや? むっちゃ便利やぞ」

「ふん。斯様かような小さき端末に振り回される暮らし何ぞ平御免ぴらごめんだな。聞けば、スマホ依存症なる物に陥る人間も多く居るみたいじゃないか。僕からしたら考えられない容態だぞ」

「なはは、はコンテンツ量が半端ないさかいな。こうしとる閒にも、電子データは増え続けとります。はっきり言うて、ネット閲覧って切りがあらへんねん。ネットは広大ですわ」

「ふん。そんな物が無くとも、僕はこうして生きている。モバイルフォンならば、電話とメールさえ出来ればそれで良い」

「なはは、未だに煜のケータイは、シンプル機能オンリーのガラパゴス携帯やもんな。せやけどネットに繋がるモデルに乗り換えたら、ホンマに目からうろこが落ちる思いやぞ。芸人インフォメーションも即ゲッツやで!」

「ふん。KAGUYA-HIMEの事柄も分からぬのに当てになるか。それにな、皆で一斉に前倣まえならえで同じ物を利用して何が個性かと。お笑い芸人として突出したいのであれば、唯一無二のキャラクター性が必須だと僕は考える。その他大勢と一緒では駄目なのだ」

「なはは、なるほどの。それは一理あるかもしれへんな。しやけどよ。星の数ほどあるポルノグラフィーも、みすみす捨て置くつもりかいな。やや? もしかして、エロはお嫌いですか?」

「ふん。お好きです! ちょっと機種変更手続きをばしてくる!」

「なはは、自制心っく! んまあ、殆どが十八歳未満閲覧禁止のラインナップやし、俺らは観覧でけへんけどな!」

「ふん。興奮冷めやらぬ容体ではあるが、残念ながら携帯事業会社に赴く件は中止だ。担任のモアイ先生が来てしまったからな。朝のホームルームはこれからだ!」

「なはは、「俺たちの戦いはこれからだ!」みたいに言うてんなよ。詰まらぬ新連載は無慈悲に打ち切りよる悪名高き漫画雑誌、集○社の週刊少年ジャ○プを喚起させるさかい止めいや」


 モアイ先生……これは、顔がモアイっぽいなどの比喩的表現ではない。体長30センチ程の、モアイ像型ロボット其の物なのである。内部には音声合成ソフトとスピーカーが搭載されており、遠隔操作でが動かしているのだ。因みに、モアイ先生の外殻素材は低反発クッションで構成されており、移動はドローンにて行う。


「なあなあ、煜。確かモアイ先生って前に居った学校で、度重なる生徒による教師いじめや、教員間のパワーハラスメントを受けて以来、心に傷をうて引きこもりなんよね。せやさかい当の本人は自宅から授業をしとるんやったよな?」

「ふん。そうだな。今の日本じゃ、物事の判断基準が「お笑い」だからな。お笑い至上主義で、さえあれば国からの恩恵を幅広く受けられるしな。あの石像のフォルムで、モアイ先生は見事に勝利を勝ち取ったのさ。ふん。別に異世界転生をしなくとも、人生一発逆転のラッキーがそこらじゅうに転がっているのが、目下本邦での強みだからな」

「なはは、せやからモアイ先生みたいな勤務形態も受諾じゅだくされとるっちゅう訳なんやねー。はー、上手うまい事やりおったのう」

「ふん。実際、無人航空機で運ばれるシュールな光景はユーモアに溢れているし、ごくたまに本体が落っこちる時などは爆笑ものだからな」

『コラーモアー、焔煜君に新堂圭助君モアー。もう予鈴のチャイムは鳴っているのに、聞こえなかったのですかモアー。朝の学級活動を始めますよモアー。自席に着いて下さいなモアー』

「なはは、いやどすモアー」

「ふん。右に同じだモアー。語尾に「モア」とか付けやがる奇人変人の指図は受けないモアー」

『了解致しましたモアー。そのままで良いですモアー』

「なはは、ええんかーいモアー。もうちょっと頑張れやモアー」

『ぶっちゃけ胸中じゃモアー、内蔵されている殺人光線で八つ裂きの刑に処してやろうかと思ったけれどモアー、一発撃つのに割とお値段が張るからして諦めたのですモアー』

「なはは、生徒を亡き者にする気満々てどう言うこっちゃモアー。教師なら子供の可能性や個性を生かす教育に情熱を注がんかいやモアー」

「ふん。体罰の域を超えてやがるぞモアー。全力でPTAに中指を立てていやがるなモアー」

「なはは、そやそやモアー。ここは天邪鬼の権化である焔煜さんからも、ビシッと言うたって下さいやモアー」

「ふん。承知したモアー。やいやい、モアイ先生モアー。あまり僕を侮らないで頂きたいモアー」

『むむむぅー、教師に楯突たてつく気ですかモアー。キレる十七歳おそロシア&モアイ先生は物哀ものがなしいですよモアー』

「なはは、ええやん、ええやんモアー。ヘイヘイヘイ、モアイ先生びびってるモアー。かるひねったれモアー」

「ふん。人を殺傷する事が出来る光線兵器だとモアー。正直、僕は金玉が縮み上がっているモアー。圭助の体は好きにして良いので、僕の命だけは奪わないで下されモアー」

「なはは、おい、裏切りかいや、煜モアー。おどれ最低やのモアー。モアイイワ(もうええわの亜種)」


 しょうもない「モア」連呼な即興アドリブコントもそこそこに、滞りなく出席・連絡事項と続き、平穏無事にホームルームは終了する。

 その後、モアイ先生はドローンに運ばれつつ職員室へと戻る訳だが、教室入り口の扉に引っ掛かり、ぽとりと床に落ちてしまう。


「なはは、見てみい煜! モアイ先生の奴、又してもお約束でやってくれおったで! ぎゃはは、腹痛いわー」


 そして、それを丸でUFOキャッチャーが景品を掴む様に、ドローンがモアイ先生をガッチリと挟み込み、二体は去って行くのであった。


「なはは、あー、わろうたわろうた。あないな体たらくでモアイ先生、学校の仕事とかこなせとるんかいね?」

「ふん。その点は問題無いな。僕は職員室にて、何度かモアイ先生の働き振りを拝見した事があるのだ。モアイ先生のあごの部分が割れ、中から無数の針金っぽいロボットアームが飛び出し、高速タイピングをましていたぞ」

「なはは、あいつ未来に生きとんな。しかもそれって、元ネタは攻○機動隊やで」

「ふん。僕は1995年公開の劇場版しか観ていない。残念ながら攻殻○動隊のトピックでは、これ以上会話は広がらんぞ」

「さよか。実は俺の方も、1991年刊行の原作本しか読んでへんねん。手に取ったんも小学生の頃やったし、内容が難解過ぎてチンプンカンプンやったから投げたわ。やけど、何やら仮想空間たら言う場所で、エッチな事をしとるシーンだけは、食い入るように見たんよねー」

「ふん。そんな描写があるのだな。今日にでも購読せねば」

「なはは、その場面ってカラーページで描かれてるし、中々ええで。ちゅうか思ったんやけど、モアイ先生の見た目やら行動って、どっちかっちゅうとホラーっぽいやんかいさ? 何であないにおもろいんやろな?」

「ふん。それはな、お笑いと恐怖は紙一重の差だからさ。漫才やコント・落語のシチュエーションを冷静に見てみろ。実際に遭遇したらば、常軌を逸した局面ばかりだぞ」

「ああー、確かにその逆で、怪奇映画も行き過ぎてもうて、「これってギャグ?」とかなった作品が多々あるわ」

「ふん。なのでモアイ先生にしたって、人によっては姿形をコミカルと感じるかもだし、或いはグロテスクに感じる人も居るだろうな。詰まりはそう言う事よ」

「なはは、そもそも俺はモアイ先生ってか、モアイ像のフォルムが好っきゃねや。せやから俺の場合、「おもろい」と感じる方が勝っとったんやね」

「ふん。だがあのやっこさん、機械人形の癖に好物はドーナツらしかったぞ。これ又割れたあごからすすっている姿も、僕は目撃している。わざわざ口許からじゃない所が、輪を掛けて薄気味悪かったぞ」

「きっしょっ! 前言撤回や! やっぱモアイ先生こわっ!」

「ふん。そんな事より圭助よ。怖い話より恋の話をしよう。俗に言う恋バナって奴だ。俄然モアイよりアイ(愛)だろ。今の僕には最重要課題であるのだ。確か貴様とて、何ちゃらの何たらかんたらとか言うを好いていると、くっちゃべっておった気がするのだが?」

「他の女子興味無しかい! 全く記憶に御座いまへん状態やないか! 金色マカロンのツッコミ担当、西園寺亜矢華さいおんじあやかさんや!」


 ガタタッ!


 ん? 圭助の怒鳴りの直後、何やら鈍い音がしたので、僕と圭助はそちらに顔を向けてみる。


「なはは、なんやなんや? うちのクラスのクイーンオブつつましやか女子代表で、おさげ女史の二つ名を持つ姫乃麗ひめのれいさんやないの。なはは、昨日もちょこっとやが、何気に彼女の名前が話題に出とったよな」

「ふん。KAGUYA-HIMEが姫乃麗と似通うなどと、僕がのたまった件だな。これは素直に謝罪しよう……素謝だな……ふん。正直すまんかった」

「なはは、ええんやで。それよりもイスからずり落ちてもうて、姫乃さん? 彼女ってば、むっさ分厚いレンズの眼鏡をかけてはるし、相当御目目おめめが悪かったんやね」

「ふん。きっと辛い生理痛で平衡感覚を喪失しているのさ。うら若き乙女は大変なんだぞいっと☆」

「なはは、アウトやな。今日のお前、モアイ先生とは比較にならんくらい、ずば抜けて気持ち悪いわ~……ホンマ気色悪きしょくわるっ!」

「ふん。僕は生物学的真実を推測し、言の葉に乗せただけなのだがな。それはそれとして、僕と姫乃麗の関係性だ。何気に彼女とは、小中高と同じ学校で、あまつさえクラスまでも、ずっと一緒だったりするのだよ」

「へー、そうなんや……って、なんやと! お前それ、ラブロマンスフラグが、ピンコ立ちやないか! そない類稀たぐいまれなる幼馴染み設定を、かねてより黙秘しくさってからに! しばいたろか、おんどれ!」

「ふん。そう興奮するな圭助よ。彼女とは五十音順の出席番号繋がりにより、再三に渡りペアを組まされていたってだけの話だ」

「お前ふざけんなや! 俺からしたら、それもう嫁やからな! は絶対に許さへんぞ!」

「ふん。貴様の結婚観はどうなっているのだ。案ずるな御父君おちちぎみよ。せいぜい彼女とは、日直や給食当番等の、所謂学級の係活動を共に遂行したに過ぎぬ。圭助が嫉妬する様な特殊イベントは、何一つ発生してはおらんぞ」

「ホンマかぁ? ……んまあ、今はそう言う事にしといたるわ。ほたら、さっきの話の続きで、金色マカロンの事や。おっきな声では言えんのやが、実は西園寺亜矢華さんの相方に問題が有ってやな~……」


 ガタリッ!


「なはは……」


 うむ。分かるぞ圭助よ。お笑いの話術はテンポが重要であるからな。こうした雑音で邪魔が入ると、滅法やりづらいのだ。


「ふん。どうせ又、先程のだ。無視して話を進めろ圭助」

「なははーん、俺は気付いてもうたで。多分やけど、俺が発した何らかの単語に合せて、姫乃さんはをかましとんな」

「ふん。そうは思わん。恐らくは圭助の声自体が嫌いなのだ。彼女が体制を崩す程だぞ。よっぽどおぞましいのだろうよ」

「なはは、アホぬかせ。売れっ子声優さんにも引けを取らん美声を捕まえて、ホンマに失礼なやっちゃで。せやな、俺の勘やと姫乃さんが反応しとるんは、ズバリ西園寺亜矢華さんの名前にやろ!」


 ガタルカナル・タカッ!


「なはは、今の擬音は完全に口で言うてたやんけ! ちゅうか、やっぱり西園寺亜矢華さんっちゅうパワーワードでビンゴやんかいさ!」

「ふん。どうだ圭助。僕の推理は大した物だろう」

「微塵もかすってへんカスは黙っとけや! ……あっ! 姫乃さんが何や焦った感じで教室から出て行くで!」

「ふん。急いで追うぞ、圭助! さあ、全力ダッシュだ! ……あ~、うんとこどっこいしょ体操っと。並びによっこいしょういちとくらぁ」

「なはは、意気込んで吐いた言葉とは裏腹に、えろうゆっくりしたモーションで立ち上がりましたな。揚げ句に柔軟ストレッチまで始めよってからに。そないな事で姫乃さんに追いつけるんかいな」

「ふん。彼女の鈍臭さは万人の知るところ。大した距離は進んでいないだろう。それに一時限目は自習らしいし、二時限目が始まるまでに戻れば支障無い」

「なはは、ちゅうか姫乃さんを追い掛けて、一体全体どないするっちゅうんじゃ。次の新作コントの小道具用に、彼女の眼鏡でも借りるんけ?」

「ふん。知れた事。僕は昨日、KAGUYA-HIMEのおパンティを見損ねたからな。もう姫乃麗のおパンティでも良いかなと思い至ったのだ。じゃ、行ってきます」

「なはは、行ってらっしゃい。あんじょうおきばりやっしゃ……とか言う訳無いやろ、ボケ! 俺も仲間にいれなはれ! いや、そうとちゃうわ! そないな事をして、下手したら退学やぞ! ……くっそ、もう居れへんし! こないな時だけ素早すばよう動きやがって、あのアホが! 全身全霊で阻止せなな! おーい! 待たんかいや、煜!」


   *


 ふん。予想通り、姫乃麗は僕らの教室より、そう遠くない場所でモタモタしていた。ゆえ、僕がのんびりと歩を進めても、で追い着けたのである。ふふ。時折り彼女を追い越してしまったしな。しかも追跡している閒だが、優に彼女は数十回も蹌踉よろめいており、これも拍車を掛けたのは明々白々であろう。


 ふむ。バ○スで名を馳せる不朽の名作アニメ、天空の城ラ○ュタを御存知だろうか。その物語後半で、シ○タを追いかけるム○カの気分を堪能出来た。はっはっはっはっ。何所へ行こうと言うのかね?


 ふん。相変わらず姫乃麗は、相当のドジっ娘であるな。


 ……んむむ? こ、この感じ……紛れもなくおデブジャー……いや、デジャブー。

 うむ。彼女の一挙手一投足、昨日のKAGUYA-HIMEに瓜二つでごじゃりまするがな。


 ふん。彼女は結局、校舎の中庭で力尽き、ぜいぜいと息を切らしつつ、へたり込んでしまった。僕よりスタミナが無い人類も珍しいので、是非とも姫乃麗を人間国宝に。


「ふん。姫乃麗よ。お疲れの所恐縮だが、君に頼み事がある。僕は昨日、とある異性のパンチラを見逃したのである。無礼を承知で申し上げるのだが、君ので妥協する結論に辿り着いたのだ。さぁ、君が今履いているおぱんつを見せたまえよ」


 彼女はハアハアと吐息を漏らしながら、僕に上目遣いで視線を送る。しかしそれは、悩ましげな眼差しとは程遠く、まるでゴミを見る様な目で見詰めていた。ふん。でしょうな。


 おふん。……正直な所、ゾクゾクしている自分が居る。

 ふん。僕がサディストなのは既知きちの事柄であるが、マゾヒストの要素も備えているのかもしれん。ふふ。新たな扉を開いてしまった可能性大だな。


「おい煜! 自分、ホンマに逮捕されんで! 一遍いっぺん頭冷やせや!」


 少し遅れてこの箇所に辿り着いた圭助が必死の形相である。


「ふん。何だ圭助。パンティー見たさに一生懸命か? 昨日も見やがった癖に、この業突ごうつくりが。貴様は今まで拝んだパンツの枚数をおぼえているのか?」

「無駄無駄ウリイイイ……って、やかましわ! おのれを止めに来たに決まっとるやろがい! 姫乃さん無事かいな! 怖かったやろ! もう大丈夫やで! オシッコとかは漏らしてへんやろね? ちょいと確認するさかい、スカートを捲り上げてくれるか?」

「ふん。貴様も大概クソったれクズ野郎だな。では改めまして、性根の腐った者同志、仲良く姫乃麗の下着鑑賞会で嫌らし……おっと違った、癒されるとしましょうや」


 ふん。勿論これは僕ら流のボケであって、実際に危害を加える気など、無い。


 しかし、圭助が姫乃麗に近付いた次の刹那、信じられない光景が目の前に広がるのである。


 姫乃麗は、すくと立ち上がると、自身の眼鏡をさっと外す。直後、とっても見覚えのある神楽鈴を手に持ったかと思えば、そのままアッパーカットを圭助にお見舞いしたのだ。


 哀れ、思わぬ洗礼を浴びた圭助は、旋風つむじかぜの様に天高く舞い上がったのである。


 そうして、圭助が地上に叩き落とされるまでの一部始終を、僕は視線以外は直立不動で見守る事しか出来なかったのだ。


 ふん。圭助は鼻水と涎を垂らし、完全に意識を失っているな。


 ふひ。どうしよう。僕の動悸による胸の苦しさが、ただ事じゃないのだが。


「……ふ、ふん。さてと、僕は教室に戻るとしようかな。いや待てよ。急激に頭痛が。うん。こりゃ風邪ですな。お薬出しときますね。早退しよう、そうしよう。それでは、姫乃麗さん、お疲れ様でした。御機嫌よう」

「おっとっと、待ちやがれ、ダダンダウンの焔煜さんよ。てか、か弱き女子に対して、強姦まがいの愚行をしでかしやがってよ。てか、そのまま知らぬ存ぜぬの一点張りとか、そんなのがまかり通ると思うなかれってぇの」


 ふん。確かに先程までは弱々しい物腰の姫乃麗であったのだが、その印象は余す所無く消失し、今や威風堂々いふうどうどうたるたたずまいであるぞ。ふむ。女児向け変身ヒロインアニメを想起させる早変わりとでも言うべきかな。お見事である。


「ふん。……と言うか、僕には今現在、姫乃麗=KAGUYA-HIMEに見えるのだが、これはゆめうつつまぼろしか?」

「はっ、疑う余地も無く現実だぜ。てか、姫乃麗と高校生女芸人・KAGUYA-HIMEは同一人物だよってぇの」

「ふは。何てこったパンナコッタ。姫乃麗とは小学校からずっと顔見知りにも関わらず、つい昨日まで、君の魅力に気付けなかった僕の目は節穴か。この焔煜、一生の不覚」

「まっ、それは仕様しよういんじゃね。私が眼鏡を外した途端に、容貌と体付きや髪型、性格や声に至るまで、180度変わっちまうんだしよ。てか、私だと認識するには、かなり難易度が高めだってぇの」

「ぐふん。だったとしても、昨日の時点で言ってくれれば良かったのに。うふん。意地悪な人」

「てか、それな。てめぇが私の事をマジで欠片かけらも分かってねぇんだもの。だからってか、ついつい、愛しさと、ムカつきと、遊び心とで、てめぇの事をからかっちまった訳だってぇの」

「ふん。「恋○さと、せつなさと、心強さと」みたいに言ってんじゃない。CDシングル売上200万枚を突破したミュージシャン、t.k○mur○プロデュースの名曲ぞ。……ふん? この僕に対し、「いとしさ」……なのか?」

「ほっ? ……ば、バッカてめぇ、これは単なる……そ、そう、只の語呂合わせだよ! て、てか、べ、別に深い意味は無ぇんだからなってぇの!」

「ふん。姫乃麗よ。いや、今はKAGUYA-HIMEか。どうした。やけに顔が赤いぞ。もしやパンツの色は赤の暗示か? ふんっ! だとすれば、今日の君はセクシーランジェリーを身にまとっていると言う事か!」

「ちょ、てめぇの下着への情熱が強靭過ぎてドン引く! てか、何がてめぇをそうさせているんだよ! ちったぁ落ち着けってぇの!」

「ふん。クールダウンしたとして、さすれば君の縞模様のパンチィを拝見出来るのかね?」

「おぅ、出来ねぇな。てか、残念ハズレ。私は縞パンじゃねぇし。てか、あんな糞ダセぇのを履く女とか、リアルの世界に居る訳がねぇだろってぇの」

「ふん! ふん! ふん! するってぇと、今日はラグジュアリー総レースブラジャー&ショーツって事か! さては勝負下着のTバックなのか!」

「フンフン鼻息が荒ぇよ! てか、私は特別な日じゃなくっても、普段から可愛い下着を意識して着用してるってぇの」

「ふん。ファッションセンスのある人間は、隠れた部分までお洒落をすると聞いている。その最たる例が、ピンポイントで下着であるらしいな。ふん。君が女子力高い系だとは、まことにもって恐れ入った。どれ。僕がチェックしてあげよう。遠慮無く晒しなさい」

「へっ、どんなのを身に付けていようが、どっちにしろ見せねぇし、教えもしねぇってぇの。てか、てめぇはもう死ねよ。そいでもって、次は下穿したばきの類の妖怪とかに輪廻転生して、来世で幸せになれやってぇの」

「ふん。酷い言われようで、僕はションボリであるぞ。ちぇっ、圭助には見せたってのにさ。ドケチ!」

「はぁ? 見せてねぇよ。てか、その言いっぷりじゃあ、昨日私が派手にズッコケた時、てめぇの相方、新堂圭助には見られていたって事だよな? けっ、ぶん殴っといて正解だったぜってぇの」

「ふん。それならば追加で執拗に頭を叩き、完璧に圭助の記憶を飛ばす暴挙に出てみてはどうか。の光景が脳裏に刻み込まれるなんて、僕的には究極に羨ましくて妬ましい案件なのでな。協力するぞ」

「やっ、鬼かてめぇは。てか、仮にも新堂圭助は大事な相方だろうがよ。もうちっといたわってやれや。てか、インナーウエア関連のネタで、一体どんだけ話を引っ張る気だよってぇの!」

「ふん。それもそうだな。下着を見るのを諦めた訳では無いが、話題を変えるとしよう。君がその変身する隠し芸をマスターしたのはいつ頃なのかね?」

「はっ、これを「芸当」で片付ける所がてめぇらしいよな。てか、この事象が顕著けんちょに現れる様になったのは、ごく最近だなってぇの」

「ふん。その眼鏡オンオフ切り換え制御システムは、君のと同等に興味深いものでな。今一度、例の豹変っぷり芸を見せてはくれぬか」

「ちっ、しょうがねぇなぁ。んまあ、ぱんつ見せろって言うよりかは遥かにましだしな。てか、ちょっとだけよ。あんたも好きねぇってぇの」


 ふん。再び眼鏡をかけたKAGUYA-HIMEは、瞬時に元の大人しい姫乃麗に逆戻りである。

 ふむ。矢張り此方こちらの控え目な姿の方がしっくりくるな。昔から勝手知ったる彼女である。


「はわわ~、と言いますか、勘弁して下さいなのです~」

「ふん。そう言えば口調も変わっていたのだったな。ふむ。もう一度、眼鏡を取るぞ」

「おい、てか、私で遊んでんじゃねぇぞ。ブッ殺ックンロールされてぇのかってぇの」

「ふん。再びかけるぞ」

「はわわ~、と言いますか、物騒な台詞を吐いちゃって御免なさいなのです~」

「ふん。取っちゃおう」

「てか、もう止めろ。てか、マジにブッ殺ックンロールすぞ!」

「ふん。再びかけるぞ」

「はわわ~、と言いますか、本当に御免なさいなのです~×8回」

「ふん。取っちゃおう」

「オッケー、ロッケンロール! てか、リクエストにお答え致しまして、只今より公開殺人ショーを御覧に入れましょうや。覚悟しやがれってぇの!」

「ふん。ブラボー! おお……ブラボー!! いや、実に面白い。サンクス、サンクス。だがしかし、飽くなき欲求は留まる所を知らない物なのである。さぁ、遠慮はいらぬ。脱ぎたて新鮮ホカホカおぱんてぃを、我が頭に被せよ」

「ちょ、油断させておいて、しれれっと性癖の段階を上げてんじゃねーよ! てか、脱ぐ訳ゃねぇだろが、この変態野郎め! てか、やっぱし下着の話に立ち返ってんじゃねぇかよってぇの!」

「ふん。本当に噛めば噛むほど味が出るエキセントリックなキャラだな君は。もうこれだけで、パンツの件はチャラにしてやっても良いと思える程に強烈だぞ」

「ちっ、何様だよてめぇは。てか、誰が三○めがとおるの主人公である写○保介、しくは、ド○ゴンボールの初期レギュラーキャラクターのラ○チさんみてェーだとォってぇの?」

「ふん。僕はそんな事を一言も言っとらんぞ。もしも相手サイドに著作権侵害で訴えられでもしたら、あっさり人生終了のお知らせだぞ。何を自爆してやがる」

「けっ、手○治虫先生、鳥○明先生、御免なさい。てか、昔の漫画はこれでオールOK、まんまと逃げおおせる事が許されていたってぇの」

「ふん。逃げたと言えばだ、ときにKAGUYA-HIMEよ。何故に君は不自然な位に教室で動揺した挙げ句、その後トンズラをぶっこきせしめたのだ?」

「あっ、あれな。てか、てめぇらの会話の流れで、亜矢華姉あやかねぇちゃんの名前が出ていたからだってぇの」

「なはは、亜矢華姉ぇちゃんって、そら西園寺亜矢華さんの事でっか!」


 西園寺亜矢華の名前を耳にした途端に、圭助がむくりと起き上がった。ふん。意外と復活が早かったじゃないか。うむ。性欲の塊たる男子高校生の反応っぽくて、大変好感触だ。元気があってよろしい。


「なはは、俺がぶっ倒れとる閒に、話は全て聞かせてもろたで。まさかKAGUYA-HIMEが姫乃さんと同じ人やったとは驚きでしたわ」

「ふん。狸寝入りで盗み聞きとは趣味が悪いな圭助。そうやって貴様は盗聴やら盗撮の罪により、何時の日にか捕まるのだろうな。半生が刑務所暮らしとは御愁傷様です。良い弁護士を雇っとけよ」

「なはは、そうそう、ミニスカートの女性を盗み撮りして、もしも捕まってもうた時は、「ミニにタコが出来る」っちゅうギャグ映像を作る為やった、って言い訳したら万事解決やさかいな。……って、やかわ! ちゅうかそないな事はどうでもええねん! 何で西園寺亜矢華さんが動揺の理由なん? ちゅうか、何で姫乃さんが西園寺亜矢華さんの事知ってはるん? めっちゃ俺、気になります!」

「へっ、矢継ぎ早だな。せっかちな男は嫌われるぜ? てか、西園寺家と姫乃家とは、昔から家族ぐるみの付き合いで、私と亜矢華姉ぇちゃんは小さい頃から、お手手繋いで仲良しこよしさんなんだよ。てか、それこそ本当の姉妹みたいな関係だってぇの」

「ふん。なるほどな。なら、僕とKAGUYA-HIMEが結婚した暁には、僕の姉さんも同然と言う訳か。是非に亜矢華お姉様と呼ばせてもらおう」

「なはは、ほんなら俺の事も、圭助お兄様って呼ばなアカンぞ。ん? 何でややと? そら西園寺亜矢華さんは、将来的に俺の妻になるお人やしな」

「ふん。圭助お兄様。アゴが、見当違いの方向に曲がっていてよ」

「なはは、煜さん。こらね、さっき姫乃さんに、おもっくそどつかれた後遺症ですわ」


 僕と圭助は即興ミニコントの完成に心が弾み、取り敢えずマリア様が見てようが見てまいが、ひしと抱き合った。


「はぁ、呆れてものも言えねぇぜ。てか、てめぇらと真面目にたら、激しい目眩に襲われるぜってぇの」

「ふん。そりゃ僕への恋い焦がれが高じた甲斐があって、想像妊娠したのさ。でかしたぞ」

「へぇへぇ、もう好きなだけ言ってろよ。てか、今も諸事情により、数日前から亜矢華姉ぇちゃんの家に居候させてもらってるんだよってぇの」

「ふん。それは昨日の騒動で大体は察しがつく。あのセックスマシーンこと、ジャイロたけしに追いかけ回されているからだろう?」

「けっ、てか、御名答だってぇの」


 ここで、KAGUYA-HIMEの携帯電話用着信メロディが鳴ったのである。ふん。物の見事に、「恋し○と、せつなさと、心強さと」じゃないですか、やだー!


「あっ、亜矢華姉ぇちゃんからだ。てか、ビデオ通話だしってぇの」

「ふん。これぞ噂をすればなんとやらだ。ふむ。金色マカロンの西園寺亜矢華か。相手にとって不足は無いし、未来のお姉様に挨拶でもしておくとするか。出たまえ、KAGUYA-HIMEよ」


 KAGUYA-HIMEは「ちっ」と舌打ちをし、これでもかと言うほどまゆひそめながら、通話ボタンをタップする。ふん。分かって居るぞ。本当は僕との婚約確定で嬉しい癖に。ツンデレキャラを貫き通すのも辛かろうのう。


「よっ、どしたん、亜矢華姉ぇちゃん? てか、何か用事ってぇの?」

『オーッホッホッホ! 何だかわたくしの噂をしている気が、無性に致したものですからね!』

「へぇ、亜矢華姉ぇちゃん凄ぇね。てか、正解だし。デビルイヤーは地獄耳だねってぇの」

『オーッホッホッホ! 実は麗の制服に、こっそり盗聴器を仕込んでおりましたのよ。こよなく愛している、可愛い妹分である麗の事は、一分一秒でも把握しておきたいですもの。西園寺財閥の総力を挙げて取り組んだ一大事業ですの!』

「わぁ、有り難う亜矢華姉ちゃん! 私、超愛されちゃってるね! ……とか、言えるメンタルねぇって! てか、流石にお世話になっている身だけれど、亜矢華姉ぇちゃんキモいよってぇの!」

「ふん。絶妙のタイミングで、盗聴・盗撮の優秀な先輩が現れたじゃないか。どんな手段を使ってでも、圭助は西園亜矢華に弟子入りしなければならないと思うの」


 ふん。KAGUYA-HIMEも中々に個性的であるが、西園寺亜矢華もかなりの曲者だな。この分だと、恐らく西園寺亜矢華の相方も相当な物であろう。油断ならぬ存在、金色マカロンよ。


「なはは、横から失礼しますー。いつも観てますー。ダダンダウンの新堂圭助と申しますー。俺ってー、金色マカロンの西園寺亜矢華さんのメッチャファンなんですわー」

『あら、貴男はダダンダウンのツッコミ担当の御方。お噂は兼ね兼ね。ですがわたくし、とても面食いですの。男前の焔煜さんには、ほんの少しだけ興味がありますけれども、貴男には全く興味が御座いませんわ。とっとと其所そこをお退きなさいな。すこぶる邪魔ですわよ』

「なはは、ネタをやっとる時の西園寺亜矢華さんのツッコミっぽう言われて感激やけど、いっぺんに悲しみのどん底に突き落とされた俺も居る! やっぱり人間、顔が全てなんや! 煜の奴が羨ましい! いや、恨めしい! もうええわ! いや、ええことあるか! なははーん!」


 ふん。圭助が泣きながら笑っている。世にもむさ苦しい絵面が展開されているが、これは次のネタに使えそうだぞ。要チェックだ。うむ。ネタ帳にメモメモしておこう。


『オーッホッホッホ、それよりも麗、その場所はとても危険ですの。早く離れなくてはいけませんわよ。「例の彼」が、直ぐ傍まで近付いて来ておりますわ。ああ、「例の彼」と言うのはですね、「麗の彼氏さん」と言う意味合いでは御座いませんわよ』

「えっ、そんな御丁寧に語句の説明をしなくとも、私自身が一番良く知ってるって。てか、生まれてこの方、男子と付き合った事とか無ぇんだしってぇの」

「ふん。先の西園寺亜矢華の発言だが、あたかも受けなかったお笑いネタの、何所どこが面白いかの笑い所を解説すると言う、したたか薄ら寒い行為を思い返させたな」

「てか、それな。あー、腑に落ちた。てか、あれってよなってぇの」

「なはは、ちゅうか西園寺亜矢華さんってば、どないして姫乃さんの周辺に、誰ぞが近寄って来とる事まで、つぶさに察知出来てもうてるんでっか?」

『オーッホッホッホ、単純明快ですわ。盗聴器の他にGPSもオマケしておきましたのよ。不逞の輩が麗の半径十メートル以内に接近しくさりますれば、即座に且つ事細かに認識出来る特別製ですわ。我が西園寺の科学力はァァァァァァァアアア、世界一ィィィイイイイ……ですの』

「なはは、最後の台詞って、ジョ○ョの奇妙な冒険、第二部のルドル・フォン・シュト○ハイム大佐の名言をパロりましたな?」

『オーッホッホッホ、御名答ですわよ! こう見えてわたくし、実は筋金入りのジャンプ大好きっ子なのですわ!』

「んほぉ、出版権的には不味いけれど、漫画の話はノープロブレムですだよ! てか、レーダー探知機の種は本気でヤバス! 御願いだからこう言うの止めてよ、亜矢華姉ぇちゃん!」

「ふん。KAGUYA-HIMEがパワー全開で哀訴嘆願あいそたんがんしているじゃないか。こいつは一言で片付けるならば、「キモい」何て軽いもんじゃない。「脅威」其の物ぞ」


 ふん。ここで、現在では滅多に見られなくなった、一昔前の学校あるある上位ハプニングに、我々は遭遇するのである。


「あっ、物凄い勢いで白い犬が乱入して来てんじゃん。てか、どうやら犬種はサモエドちゃんじゃんか。てか、私らの元へと駆け寄って来てるってぇの」

『あら、大きくてお可愛らしいワンコさんですこと。近年では野良犬が街を彷徨う事も無くなりましたから、結構珍しい光景ですわね』

「ふん。見る限り至りて小綺麗だから飼い犬であろう。そして圭助よ。このモフモフで真っ白デカ可愛い生き物が、やけに貴様に懐いているのは何故なのよさ?」

「なはは、そらそうや。この子はうちで暮らしとる、酵母乳酸卍糧こうぼにゅうさんまんじゅうろう(♀)言いますねん。名前は俺が考えててんで。この子はめっさ鼻が利くねん。特におもろい人間を見付ける事に長けてんねんよ」

「ふん。その才能は素直に称賛するが、そんな事より発酵食品を思わせる不憫な命名をされて、彼女はさぞ貴様を恨んでいるだろうな。仮にも女の子だろう。ふん。貴様の様な輩が跳梁跋扈ちょうりょうばっこするお陰で、低脳キラキラネームも世に蔓延はびこったりするのだ」

「なはは、そないな事はあらへんやろ。強う、たくましゅうて、美しゅうになりそうなネーミングやんけ」

「ふん。そりゃ腸内環境のお話だろうぜ。しかし、サモエドは高価だし、屋内で相当広い家でないと、養うのは及び難いと聞いている。さてはリッチだなオメー」

「なはは、どっちかってーと、俺はエッチやど」

「ふん。黙れ下郎が。安易な駄洒落に逃げやがって。恥を知れ」

「なはは、すんまへんな。ちゅうか、心配あらへんで。卍糧は賢い子やさかいに、ちょいちょい勝手に家から抜け出して、単独で散歩してんねんよ。そないなもんやから、今も外出中で、ここまで来てもうたんやろね」

「ふん。なるほどな。規格外の優秀ワンちゃんじゃないか。しかしこうなれば、こいつは世界初、お笑いの出来る「芸犬」としてデビューするのも、夢では無いかもしれんな。将来的にはトイレやお風呂も、自らですます勢いの成長を所望する」

「なはは、それもう既に、卍糧は実践しとりまっせよ」

「ふん。……えっ?」

「なはは、……えっ?」

「ええい、御託ごたくはもう良い。てか、最早辛抱堪らんぜ。私にもモフらせろってぇの」

「ふん。KAGUYA-HIMEよ。プリチーな卍糧をこねくり回したい事には僕も同意だが、そんな事をしている暇は無さそうだぞ。この小悪魔ちゃん卍糧の奴め、とんでもない野郎も一緒に連れてきてしまったらしい」

『ああ、残念ですわ……早くもあの男が……ジャイロたけしが到着てしまったのですわね……。もう少し早くに、このわたくしが気が付いていれば……』

「なはは、まさか俺らの学校に、あの忙しいジャイロたけしが来訪する訳無いですやん……って、ホンマや! めっちゃ圧倒的存在感の仁王立ちで居てはる!」

「ガッハッハ、何のかんのと高校生芸人共が揃い踏みだなオラァ、バッキャロー、コンニャロー! そこの雌犬こと卍糧さんにテメェらの居場所を聞いたら、速攻教えてくれたんだぜ! ガッハッハ、俺様ってば犬語を理解出来る様になっといて良かったぜゴラァ!」

「ふん。G○○gle翻訳(伏せ字になってねぇ)でもそこまで進歩してなかろうに。矢張りジャイロたけしは只者ではないな」

「アアアッ! テメェは焔煜! 昨日はよくも俺様を欺いてくれちゃったなコンニャロー、バッキャロー! しかしながら、この俺様を、「KAGUYA-HIMEを探して一晩中走り回らせますよ」的な罠にはめるとは、褒めて使わすぜゴルァ! 俺様は焔煜の事をマジで気に入りましたゴラァ!」


 ふん。脳足りんが勝手に一人で盛り上がっているみたいで何よりだ。


 その勘違い大王のジャイロたけしだが、不気味な笑みを浮かべつつ、舌舐めずりをしながら、ゆっくりと僕らの元へと歩み寄って来ている。

 ふん。この潮流、BLファン層の取り込み狙いが透けて見えるのは、絶対に気の所為ではあるまいよ。浅はかなりな路線、頼むからやめれ。


「ふん。卍糧が持っていると言う、面白い人間を見付ける特技が仇となってしまったな。それに、卍糧も所詮は雌だからな。ジャイロたけしのフェロモンにやられ、道案内に協力したって所だろうよ」

「なはは、もう見境無しやなジャイロたけし。ついに人間以外の種族にも、色目を使い始めよったんかいな」

『んまぁ、御下品! こんな真っ昼間から獣姦などとけがらわしいお話は自重なさいな! けれど夜分なら宜しくてよ。寧ろ、わたくし自身猥談は大好物ですわ!』

「ふん。金色マカロンはセクシュアルなネタが売りとの噂だが、西園寺亜矢華本人も、とんだエロ女であったか」

『しかれども、畏るべしはジャイロたけしですわ。これは正しく、「いい(ウーマン)ハンターってやつは、動物に好かれちまうんだ」を、如実に表していますわね』

「なはは、それって世界一おもろい漫画の称号を持つ、H○NTER×HU○TERの記念すべき第一巻の第一話、カ○トさんの名台詞やないですか! せやけど西園寺亜矢華さんの発言やし、冨樫信者の俺やけど、一切いちゃもんはありまへんで!」

『ああん♡あのダダンダウンの御二方に入れられて、わたくし軽くイっちゃいましたわよ♡♡♡』

「なはは、なんでやねん。入れたのは飽く迄ツッコミでっせ。しやけど、西園寺亜矢華さんの表情クッソエッロい!」

「ふん。見損なったぞ圭助。家族である卍糧が、動物性愛・阿婆擦あばずれ呼ばわりされて何も言い返さんのか。見ろ。悲しそうにうつむいてしまった卍糧を。可哀想に」

「なはは、俺は卍糧を信じてるさかいな。超えちゃいけへんラインは守っとるやろうし、西園寺亜矢華さんみたいな尻軽とちゃうって」

『オーッホッホッホ! 確かにわたくしのビッチ具合には、どう頑張っても遠く及ばないでしょうけどね!』

「なはは、そこは嘘でも否定しとくんなはれや! 全俺が泣いたわ! エロスなキャラは営業用であってくれい!」

『そんな事より麗を御覧あそばせ。ジャイロたけしの登場で、卍糧さんと同じ位に気力が抜けてへたり込んでしまったではありませんの。どなたか何とかおし』

「ガッハッハ、何やら聞き覚えのある声が聞こえると思ったら亜矢華じゃねーかよ。ったく、西園寺財閥って奴は何処どこにでも湧いて出やがるな。日本を裏から牛耳って王様気取りってか? 図に乗ってんじゃねーぞクラァ!」

『オーッホッホッホ! 三流芸人如きが何をキャンキャン吠えていらっしゃるのかしら。貴男なんぞ、我が西園寺財閥がスポンサーの番組に抜擢されなければ、未だに無名の芸人だったでしょうに』

「ガッハッハ、亜矢華も言う様になったじゃねーか。あーあ、昔は俺様の前で裸を晒し、全身をぐしょぐしょに濡らしていた癖によ」

「なはは、それホンマでっか……俺、無茶苦茶ショックなんやけど……」

『ご、誤解を招く言い回しはおよしなさいな! それはわたくしが乳飲み子の頃の話で、貴男がベビーシッターのアルバイトとして、お風呂のお世話をしていたってだけの話でしょうに!』

「ガッハッハ、俺様も下積み時代は、芸の引き出しを増やす為に何でもやっていたからな(当時はピッカピカの小学校一年生)! そう言や亜矢華のオムツを替えた事も有ったんだぜ! ガッハッハ、あの頃のオメェは純粋無垢で、マジに天使だったってーのによ!」

『い、いい加減お黙りなさい! そして、その未だかつてない程に、不愉快窮まり無いニヤケ顔をおやめなさいな!』

「なはは、亜矢華さんの幼き頃の詳細を、もちっと詳しゅう教えとくんなはれや。ひょっとして写真やら残ってまへんの?」

「ふん。それ見たことか。圭助の性犯罪者としての片鱗が、トントン拍子で開花しつつ有るじゃねぇか」

『貴男方お黙りなさいな! でないと、西園寺財閥の権力をフル活用し、男三人纏めて社会的に抹殺致しますわよ!』

「ふん。何でか僕も巻き込まれてしまった。圭助とジャイロたけしに心からこの言葉を贈ろう。責任取ってね」

「ガッハッハ、それに亜矢華よぉ。テメェん所の西園寺家も相当だけどよ、俺様の家も結構なブルジョワジーで、各界の人脈の広さだってずば抜けてんよ。それに今の俺様の地位だと、悪事以外ならば、九分九厘の事がご容赦されちまう事をお忘れ無くだぜ!」

「なはは、確かに今の日本やと、お笑いでおもろい人間が権力を握れんねん。その気になったら総理大臣も夢や無いねや。ホンマ将来が心配やで我が国は!」

『オーッホッホッホ! お馬鹿さんですわね! 女性を追い回す事は犯罪ですわよ! 依ってジャイロたけし! 貴男の主張は通りませんわ! 麗を付け回すのはお止めなさいな!』

「ふん。その通りだジャイロたけしよ。もうKAGUYA-HIMEに付纏うのは止せ。止せったら止せ。止して下さい。止すと良い事が有るかもよ。ヨスヨス♡ヨスヨス♡ヨスヨ……ガッ、アァイッ! ドーン!」

「ガッハッハ、そりゃ一体何なんだよ焔煜。クソ四コマ漫画とほまれ高いポ○テピピックのコミックス第二巻、六十六ページ・番号二五七の吹き出しと擬態語を丸々喋るボケとか反則だろ。そんなマニアックなネタなんぞ、テメェの方こそ止せってんだよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。竹○房の回し者ではないかと疑ってしまう位に完璧じゃないか。さては社員だなオメー」

「ガッハッハ、この程度の臨機応変な返しとか、プロ芸人としちゃ当たり前だろ。一応これで飯を食っているからな。つうかそんな事よりもよ、さっきからやけにテメェの必死さが伝わってきて仕方無ぇんだよな。……ガッハハーン? 俺様ってば察知しちまったぜ? おい、焔煜! さてはKAGUYA-HIMEにほの字だなオメェ?」

「ふん。それがどうした。彼女は僕の物だ。観念して譲るべし」

「ガッハッハ、オーライ、良いぜ。但し条件付きでな」

「ふん。これはこれは、あっさりうすしおコンソメパンチだな。じゃ、そう言う事で解散」

『ちょ、お待ちなさいな! わたくしの目の黒い内はそんな事許しませんわよ! それに麗を物みたいに扱って! 麗は景品か何かじゃ御座いませんわよ! 麗の事はわたくしが、命に代えても守り抜いて見せますわ!』

「ううっ、亜矢華姉ぇちゃんの心意気……しかと私の胸に響いたぜ。てか、超感動して、涙がちょちょぎれてるってぇの」

「ガッハッハ、まあ、ちっと俺様の提案に耳を傾けろやオメェ等コラァ。今度の日曜日に俺様司会の冠番組である、「たけしのニッポンのワロタ!」の、二時間拡大版生放送が有るだろう?」

「なはは、ネタ見せとトークで構成されとる、ゴールデン帯の一時間番組で、あまたの芸人をブレイクさせ続けとる登竜門的番組や。そもそも、今のS.O.B.ブームの火付け役が、この番組やったりするからな」

「ふん。なんかもう毎回神回だよな。面白過ぎだろ」

『オーッホッホッホ! 何を隠そうその番組はで御座いますわね、我が西園寺財閥が全面的にバックアップしており、わたくしも制作にずっぷりと絡んでおりますのよ!』

「ガッハッハ、その番組内でKAGUYA-HIMEを賭け、焔煜とS.O.B.でケリを付けるっつーのはどうよ? 万が一にも無ぇ事だろうがよ、もしもそこで俺様を打ち負かす事が出来れば、KAGUYA-HIMEを追い回す事をすっぱり諦めてやろうじゃねーか」

「ふん。良いだろう。では僕が敗北した場合、ジャイロたけしがKAGUYA-HIMEを諦めるって事で交渉成立だな」

「ガッハッハ、オーキードーキー、それで良いぜ! ……とか言うと思うてか、バッキャロー、コンニャロー! どっちもテメェに有利な条件になってんじゃねーか、コンニャロー、バッキャロー、ゴラァ!」

「ふん。昨日からの流れでと思ったのだがな。貴様もプロの芸人ならば、そのまま大雑把キャラを貫き通して欲しかったぞ」

「ガッハッハ、んまあ、俺様が勝負を制した場合は、KAGUYA-HIMEとの不純異性交遊は断念するって事で納得しろや、焔煜ゴラァ!」

「なはは、ちょい俺から一言よろしいかしら。あんな、何時ぞやのジャイロたけしさんのドキュメンタリー番組内で、あんさんこう言うてましたやんかいさ。「俺様は世界中の女を愛さなきゃならねぇ使命が有るし、たった一人の女に固執する訳にゃいかねーんだ」っちゅうてね。ほなら下手な小細工とかせんと、「手放しでテメェにくれてやらぁ、バッキャロー、コンニャロー!」位のの良さを見てみたいもんやけどな!」

「ガッハッハ、まだまだ青臭ぇな、西めが、バッキャロー、コンニャロー! それじゃあ何の面白みも無ぇじゃねーかよ、ボケが、クラァ! それに俺様はな、以前から焔煜とサシでやり合ってみたかったし、丁度良かったっつー話なんだよ、コンニャロー、バッキャロー!」

「ふん。それに関してはジャイロたけしに賛同する。森羅万象、この世にある全ての物がエンターテインメントになり得るのだよ圭助。そう言う意味では初心忘れるべからずと言う事だな」

「なはは、勢いで感情論で訴えてすんまへん。猛省しますわ。へん!」

『……ふむ……確かその日の放送内容は、ハルウッド映画、「スカー・ウソォーズ」の宣伝を兼ねた、出演俳優達のフリートークがメインの筈でしたわね……』

「ガッハッハ、そこへ大注目の高校生芸人・ダダンダウンの焔煜が緊急出演決定ってな、アナウンスメントでもしてみろや。話題性充分、高視聴率マークは間違い無しだぜ?」

『……それは悪く無い話ですわね……では、お聞き致しますわ焔煜さん? 次の日曜日、貴男様あなたさまのスケジュールなどは如何いかががなのかしら?』

「ふん。侮る無かれだ。僕もこう見えて過密日程なものでな。まず大体の日曜サンデーの過ごし方であるが、朝食を食べ、歯を磨き、シャワーを浴びた後、ちびま○子ちゃんとサザ○さんが放送される夕方迄ゴロゴロしてだね……」

『かいつまんで言えば暇ですのね。焔煜の出演は確保っと、ですわ』

「ふん。そう言う事だ。それに、この僕が華々しく地上波デビューする場としては、「たけしのニッポンのワロタ!」は申し分無いからな。下らないミーチューバー生活なんぞおさらばよ」

「なはは、そないな風に思って動画投稿してたんかいな。全世界のミーチューバーさん、焔煜に代わり、俺が陳謝致しまっさ」

「ガッハッハ、今回に限り、KAGUYA-HIMEが囚われの姫、俺様が連れ攫いを実行した悪い大魔王、焔煜が助け出す配管工の騎士ってコンセプトでスタジオのセットも組むのさ。そうすりゃあ、ほど番組スポンサー企業となってくれた、某大手ゲーム会社のN社様への御礼&番組宣伝にもなるだろうし、特別番組っぽさもアップして良い事尽くめじゃねーかよ、バッキャロー、コンニャロー!」

『オーッホッホッホ! その企画頂きですわよ! 悔しいですけれどもジャイロたけし! 矢張りエンタメに関して貴男の手腕は軽視出来ませんわね! おっと、わたくしこうしては居られませんわ! 直ぐにプログラムの調整をしなくてはなりませんわね!』

「ありゃりゃ? てか、亜矢華姉ぇちゃん? 身命を賭して私をかくまってくれる云々ってな話は、一体全体どうなったってぇの?」

『オーッホッホッホ! 良くお聞きなさいな麗。悪いですけど、それはそれ、これはこれですのよ。ビジネスの世界はとってもシビアなのですわ。それに貴女は、もっと自身の商品としての自覚を持つべきですの』

「ふん。西園寺亜矢華よ。さっきまでと言っている事が真逆じゃないか。即ち、KAGUYA-HIMEは見捨てられたと言う事だな」

『オーッホッホッホ! 何の事やらさっぱりですわね! ほらほら、何をぼけっとしていますの麗! ヒロインは御淑おしとやかで心優しいのが鉄則なのですわよ! さん、はい! スチャっと眼鏡を装着ですの!』

「なはは、丸っ切りパブロフの犬ですやん。即座に眼鏡を掛け直し、すぱっと普段の姫乃さんに元通りやがな」

「はわわ~、酷い仕打ちなのです~。と言いますか、亜矢華お姉ちゃんの裏切り者なのです~」

『オーッホッホッホ! とっても良い子ですわね、麗。後で金平糖を一粒、口移しで差し上げますから、そのまま大人しくジャイロたけしに拉致られてしまいなさいな。ではではわたくし、色々と立て込んでおりますもので、これにて失礼致しますわ。それでは皆様、ごきげんよう…………おらぁ! 爺やのセバスチャン! 緊急事態ですわよ! 今直ぐ自家用ジェット機を用意し……プツッ……』

「ガッハッハ、無情にも通信は途絶えた訳だが、最後に電話を切る寸前、ライブ配信で放送が終了したと安心仕切っていた生放送主の放送事故みたいになってんじゃねぇよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「なはは、元気出しや姫乃さん……っちゅうても、信頼しとったお姉ちゃんに安々と見放されたんや。衝撃で項垂うなだれるのも無理もない話やわな……」

「ふん。ショービジネスの世界にどっぷり浸かった一族と繋がりを持つと、この様に関係筋の都合で振り回される人生になる訳か。只只羨ましい思いばかりが先行していたのだが、何だか姫乃麗が超絶御気おきどくになってきたぞ」

「ガッハッハ、まあ、話が滞りなく進んで良かったぜ。もしも亜矢華の頓馬が四の五の抜かしやがったら、勢いに任せて携帯を噛み砕いてやろうと思ってたんだがな」 

「ふん。しかしコミカライズ、或いは実写やアニメ化等々の際の演出的には、そちらの方が映えるのは確かであろうな」

「ガッハッハ、何だよ、分かってんじゃんかよ焔煜コラァ! やっぱ俺様、オメェの事気に入ってるわ、バッキャロー、コンニャロー!」

「なはは、なんでやねん! おい、煜! 何でジャイロたけしと固う手ぇ握り合うとんねん! そいつは仮にも恋のライバルやろが! もうええわ! ……はい、落ちもついたっちゅう事で、これにて終了ですな。ほな、煜も姫乃さんも教室戻ろか。お疲れさんやで~」

「ガッハッハ、無理くりの雑ツッコミで誤魔化しても駄目だぜ、バッキャロー、コンニャロー! そんなんで見す見す見逃す俺様じゃねーぞゴラァ!」

「なはは、やっぱし成り行きで逃走完了とはアカンかったか。アカンだけに悪漢の目敏めざとさに圧巻!」

「ガッハッハ、俺様が悪党ってか? そりゃ俺様にとって褒め言葉にしかならねぇなぁ。さぁて、バラエティ番組と言えどリアリティーは不可欠だからな! このは俺様が当日まで預かっておくぜ! 文句のある奴は殺すぞ……この場には二人しか居ねぇけど、皆殺しだ!」

「ふん。流石はジャイロたけしだ。完全に静止してしまった姫乃麗を、片手で軽々と担ぎ上げやがったぞ」

「なはは、俺も煜も不服は有りまへんで。ちゅうか、あんさんのプレッシャーで、足がすくんで動けまへんで!」

「ガッハッハ、んじゃあ、約一週間後の生放送特番で会おうぜ焔煜。詳細なんかは亜矢華から連絡が行くだろうさ。ガッハッハ、精々僅かな日数で、で噛まない練習でもしておくこったな、バッキャロー、コンニャロー! ガッハッハ!」

「ふん。撤収する前にこれだけは確認させてくれ、ジャイカスたけ公糞野郎よ」

「ガッハッハ、俺様の呼称が一段と酷い件! 何でぇ焔煜、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。収録の日まで、姫乃麗には一切の危害を加えない事を約束して欲しい。勿論性的な行為も含めてだ」

「ガッハッハ、俺様を誰だと思ってやがる! 特に女に関しては超ジェントルマンな俺様をなめんじゃねぇぞ、バッキャロー、コンニャロー! 俺様を信じろ! 俺様が信じる俺様を信じろ! お前の物は俺様の物、俺様の物も俺様の物……な!!」

「ふん。名作アニメ、天元突破グ○ンラガンのメインキャラクターであるカ○ナと、言わずと知れた国民的アニメ、ド○えもんの名脇役であるジャ○アン(剛○武)との名言コラボレーションか。全くの意味不明に昇華させちゃってる、混ぜるな危険事案であるが、有無を言わさぬ疾風迅雷の勢いはあるな。そして、ジャイロたけしよ。貴様のその言葉を信じたからな、ばっきゃろー、こんにゃろー!」


 ふん。凄いのは西園寺亜矢華の財力か? それともジャイロたけしの暴力か?

 否だ。

 これらを行使出来てしまう、お笑い界のカースト上位力が凄いのである。


 悔しきかな、今の僕らの地位は遥かに下で、このお笑いモンスター二頭を仕留める手立ては無きに等しい。


 ここに僕は改めて誓おう。

 絶対にお笑い界の頂に立つと。

 ふん。きっと圭助も、同じ事を考えている筈であろう。


「ふん。だよな? 貴様もそう思うだろう? 圭助よ」

「なはは、何がいな? よもやおんどれ、又もや心の中で思うとった続きを発語しよったな? そないなもん分かる訳ないやろがいと、何遍なんべん言わすねんな」


 ここへ来て、今迄だんまりを決め込んでいた姫乃麗が口を開いたのである。


「……はわわ~、私は籠の中の鳥なのです~。と言いますか、お騒がせして御免なさいなのです~……」


 ふん。姫乃麗はガチで悲しい顔をしている。むん? もしや便秘でお悩みだろうか?


「ふん。所で姫乃麗よ。僕との交換ネタ帳の事柄であるが、返事はまだかね?」

「はわわ~、今その事を聞いちゃいますかなのです~。と言いますか、まだ保留で御願い致しますなのです~」

「ふん。ちと急かしすぎたな。すまぬ。では三分間待ってやる。返事を聞かせてくれ」

「なはは、遅い遅い。遅いって殿。ジャイロたけしと姫乃さん行ってまうがな。四十秒で片を付けな」

「ガッハッハ、やるねぇ、ダダンダウン。敢えて鉄板ネタのラ○ュタをぶっ込む向見むこうみずっぷりが受けるぜ、バッキャロー、コンニャロー!」

「はわわ~、と言いますか、焔煜君も、わざわざ全国放送の番組で、ジャイロたけしに惨敗し、赤っ恥を掻く事は無いと思いますなのです~……」

「ふん。その発言は迂闊だったな姫乃麗。君のその言葉で、完全に僕の闘争心に火を付けたぞ。曲がりなりにもお笑いで世界を取ろうとしている身であるぞ。今回のS.O.B.は、精精せいぜいその踏み台にさせて貰うまでよ。そして姫乃麗よ。君も自由にしてやるから案ずる事無かれだ。多い日も安心、二倍吸収、完全体」

「なはは、確実に最後のフレーズ余計やわ~。ド○ゴンボールの、途中までは良いお話やった、人造人間・セ○編冒頭のクリ○ン思い出したわ~」

「ガッハッハ、上等だぜ焔煜! ここまで啖呵を切りやがったんだ! 俺様を失望させんじゃねぇぞ! ……おっといけねぇ、俺様は次の仕事があるから行かなきゃなっと! ガッハッハ、超売れっ子ですまんな! じゃあな! あばよ! ガッハッハ!」


 ジャイロたけしは大笑いしながら、肩に乗せた姫乃麗と共に去り行くのである。その背中を為す術無く見届けている内に、一時限目の始業を知らせるチャイムが鳴り響いた。それは丸で、ジャイロたけしとのS.O.B.開始のゴングを思わせた。


「ふん。おい、圭助よ」

「なはは、なんやねん? 煜」

「ふん。お笑い芸人は人を笑わせてなんぼだ。先程の姫乃麗の様な、悲しい顔にさせる野郎なんかに、お笑い芸人を名乗る資格は無い」

「なはは、せやな。いっちょやったろうやないけ」

「ふん。しかし貴様は、番組にお呼びじゃ無かったけどな」

「なはは、悲しい現実を突きつけるなや。コンビ芸人で片割れだけ売れてまう、コンビ格差だけは勘弁やぞ」

「ふん。寂しそうな顔をしている場合か。そうなりたくなければ、死ぬ気でツッコミを磨くのだ」


 と言う訳で、姫乃麗を懸けた戦いの猶予は一週間も無い訳である。


 取り敢えず真面目に勉学を受けるだとか、物凄くかったるくなったので、圭助と共に二時限目まではサボろうと決意せり。卍糧を自宅に送り届ける名目で、近所のファミリーレストランへとヒア・ウィ・ゴーと相成った。

 ふん。物の見事に居心地が良く、まったりし過ぎてしまった僕達が学校に戻ったのは、既に放課後だったのだぜ。やっちまったな。


 以上の事を嘘偽りなくモアイ先生に報告してやった。はてさて、正直者は馬鹿を見るのか救われるのか。御覧じろ。


『コラーモアー、焔煜君に新堂圭助君モアー。授業を全力ボイコットして、ファミレスとは良い度胸ですねモアー。幾らお笑い至上主義の世の中でも、学生の本分を疎かにしてはならぬのですモアー。の鞭をもって御灸を据えちゃいますモアー。ねえ二人共モアー。とりあえず、そこにひざまずきなさいなモアー』

「なはは、そないなこというて――」

『跪けモアー』


 ふん。有無を言わさぬ、漫画ブ○ック・ラグーンのバ○ライカの姉御張りの迫力に、僕も圭助も素直に従った。


 殺人光線をぶっ放されるかと、ちょいと冷や汗ものだったんじゃないかって? ふん。馬鹿め。まさか生徒を本当に殺害する訳は無かろうし、恐れをなす要素はこれっぽっちも無いのだよ。ふぅ。おちっこちょっぴり漏れちった。


 結局どうなったのかと言うと、何と何とモアイ先生の顎から無数のアームが飛び出したかと思えば、めたくそ体のあちこちをくすぐられたのである。更にそれだけでは飽き足らず、四百字詰原稿用紙三枚に、反省文を書く宿題をやって来いってな重刑に処されたのであった。


 ふん。抜き打ち的にをぶち込みだとか、ややもすると危うく笑い死ぬ所であるぞ。如何にお笑いの国と言えどだな、この笑わせ方は禁じ手だぞ、モアイ先生よ。……ふふふふふふふふん(こそばゆくて笑っている)。

 ふ、ふ、ふふん。ほ、焔煜アワー笑っているとも!

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