第9話
「……よっ、よろしく……お願いします、シェリー・モルドレッドです」
胡散臭い笑顔を見せる彼の手を取り少し会釈した。
「そう畏まらないでよ~君みたいな普通の子がこういう事に巻き込まれる事なんてないんだからさ!」
「はっ、は、ははは」
初っ端から失礼だなこの人!
「いや、でも普通じゃないことをやってのけたから、もう君は普通じゃなくて異常だね! 自分より強い人に反抗したり、災厄を払ったり、君はどうかしてるよ!」
……なんか心のスイッチが全てONになった気がする。
「なーんて軽いジョークだよ~ははは」
はははじゃねえよ!
「おい、ユーリ。シェリーからかうのもいい加減にしろ」
「あっ、ごめんごめん。というかいたの~ファインにエイル。さっきから空気に紛れたから気づかなかった~」
「……このっ!」
ファインが拳を抑えてプルプルしてる。
「それとごめんねーシェリー、先生達引き留めてたの僕なんだ~! いやね、災厄が来たってことは新しい王の候補が現れたってことだろ? だからさー僕が選んだ王と新たな王どっちが災厄を払うかなーなんて思って様子見させてもらったよ!」
こいつ……! なんて自分勝手なやつ!
「あー怒んないでよ、どっちみち倒すのはエイルかそこのポニーテールの子じゃないと駄目だったんだからさ」
そう言って彼はレイの方に向かって歩いた。
「初めまして、君の名前は?」
「レイ・アルペジオ」
「そっか、君が新しく見出された選定の子だね。初勝利おめでとう、これからも頑張って。僕はどっちが王になってもついて行くからさ」
「……あの! 私、王様とか、そんな大層なものになるつもりはないんです! 勝手にそんな事言われても困ります!」
「……ふむ、それはどうしてだい」
レイの気持ちも知らずに、悪気もなさそうに彼は首を傾げた。
「だって、王様だよ? 普通の人なら自分が頂点に立てるって聞いたら喜ぶんじゃないかな?」
「だからです、私が普通の人だからこそ王になってはいけないんです。私は王になる資格も勇気もないただの臆病者なんです、今回だって自分が撒いた種を何とかしようと思っただけ……ちょっとばかし特別な子になってチヤホヤされればそれで良かったんです。だから……」
「うん、気持ちは分かったけど、どのみち戦いからは逃げられない。それは、君が王になる未来があるって事さ。まぁ、もしかしたら君達以外の候補者が出るかもしれないけどね、その希望は1%にも満たない」
「何それ……超迷惑な話じゃん」
「ん?」
納得のいかない話を聞かされて黙っていられなかった。
私の足は彼の前にゆっくりと進んでいた。
「勝手に誰だか知らない人が、レイを新しい王様の卵に決めて、こんな迷惑な事させてるんだよ!? それなのに断る権利もないの!?」
「ははは、シェリー誰だか知らない人が決めたんじゃないよ」
彼は騒ぐ犬をしつけるように私の顔を覗き込む。
その輝きを失った様な瞳にゾクリと恐怖を覚えた。
「彼女を選んだのはこの世界の意思だ」
大きく目を見開いて彼は私にそう言った。
「……えっ」
「一般人の君には分からない話さ、とにかく彼女はこの世界に王として相応しいと認められたんだ」
「そんなのおかしいわ、なんでエイル様達がいるのにレイにそんな物を渡したのよ!」
「さぁ? それはこの世界の気分じゃないかなぁ、そもそも誰かが人を支配するなんて、世界は求めてない人間達が勝手に好き勝手やってたから世界が怒ったんだ、勝手にトップを決められるならこっちが決めてやろうってさ、だからかつて世界は初代王に剣を授けた。そんでもってその血を引き継いでいるエイル達は王になれたって訳、まぁ当然だよね。けど、その認めた王達の誰かがなんか世界に気に食わないことをしただから新しい剣が現れた。まぁ僕は王達がそんな事をしたとは思えないど」
何それ、何なんだよそれ。
予言とか世界とか可笑しいでしょそれ。
有り得ないでしょ! そもそも選定者とか選定の子とか何なの!?
訳わかんないよ!
「あと色々突っかかってくるけど、シェリーには関係ないよ? この話で関係あるのはエイルとレイだけだ。あと他の人達は話聞くだけ時間のムダだと思うんだけどなぁ……でも話を聞きたいなら暇な時お城においでよ、いつでも歓迎してあげるからさ」
胡散臭い魔道士はそう言ってご機嫌な足どりで帰って行った。
「「……なんか超ムカつく」」
「奇遇だな、私もだ」
3人の息があった初めての瞬間だった。
「おいおい、三人とも抑えて抑えて! 黒いオーラでてるから!」
「エイル様! お気を確かに!」
「とにかく、エイルとレイちゃんはこれからあんな怪物と戦うんだろ? 俺らもサポートするからさ、とりあえず一旦帰ろ? ねっ!」
スペンサーがウインクしてエイルを引き離す。
それに付随して他の4人もついて行く。
「あの! エイル様! 信じて貰えないと思うけど私! 王になる気なんてサラサラないから!」
チラリと彼はレイを見たが暗い顔のまま去っていった。
「気にすんなよ、アルペジオ」
「……ありがとうございます、でもちょっと一人にさせて貰っていいですかね。明日には戻ってるから……」
「レイ……」
「大丈夫だよ、シェリー。いつもありがとう先帰ってるね」
……何とも言えない哀愁が漂う背中をただ見つめて彼女に何も声をかけられなかった。
「……帰るね、レイを助けてくれてありがとファイン様」
「お前も何も気にするなよ、ユーリがあんなのはいつもの事だ。気に入った玩具を見つけたらいつもああだよ」
「うん、ありがとうファイン様」
「……おう、じゃあな。シェリー」
少し寂しそうな顔をして彼は私に手を振った。
1人になった私は寮に戻ってベッドにダイブした。
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