第7話

「シェリー! やるよ!」


「うぇええ! ……やっ、やってやらぁ!!」


もう少しで黒い雲が手に届く距離に来る。

まっすぐ上に飛んでいく私達の手に握られてるのは、伝説の剣とそのコピー。

まったく……なんてこと思いつきやがった、未来の王様は。

時は数分前に戻る。


「シェリー、私の剣を見て」


「えっ、なんで」


「あんた何でわかんないの!? ひのきのぼうがあんたの思い通りに姿が変わるなら、この剣にだって変わるはずでしょ!」


「……あっ、あー!! そうか!なんで気づかなかったんだろ!」


そうだよねー、棒そのものの長さとか変えるより他の強い武器に変えた方が強いもんねー。

……あれ? この武器本当に最弱武器? めっちゃ強くね?


「新世界を誘う王のレイルカリバーが2つあれば何とかあの女を倒せるはず、変なガード使ってくるけど2人掛りなら1人に気を取られて殺れるはず!」


「……剣に自分の名前付けたの?」


「きっ、気にしないでよ! 私が付けたんじゃない! 呪文が勝手に頭に……!」


「いっ、イタイねなんか」


「うっさい! そんなことより、行くよシェリー!」


「単純な作戦だけど、しゃあーない。負けそうになったら私じゃなくて王子様達呼んで皆でやっつけるからね」


「りょーかい、でも絶対私達だけで勝つ!」


やる気満々のレイとチキンな私は飛び立って今に至る。


「「せーの!」」


雲の上に出た私達は大きく剣を横に振った。

しかし、攻撃は見えない壁に阻まれる。


「……また来たの無駄なのに」


ふわりと登場したのは雲の上の女王。

気だるそうな表情の髪の長い女は、私達に向けてビームを打とうとした。


「「エアー・フロア!!」」


空気を固めて足場を作くり戦闘態勢を整え、彼女の攻撃を避けた。


「……珍しい、王の卵がお遊びの魔法を使うなんて」


「使えるもんは使かいなさいってね、婆ちゃんが言ってたわ!」


「へぇ、貴方貴族らしくないわね。そこらへんにいる平民って感じ」


「うるさいな! その通り平民だよ!」


それを聞いて彼女はくすくすと笑いだした。


「あらあら、だからお友達を連れて私に挑んだってことね、王族って奴らは美味しい戦を孤独に戦って手柄を独り占めする欲の塊だからおかしいと思った」


ちらりと私を見る彼女。

すこしチビりそうになった。


「なっ、なんですか」


「いえ、別に……まぁいいわ。新たな選定の子、めげずにまたやって来て嬉しいわ。褒めてあげる。私は十戒の一人、天災、カラミティ。この世界を治められなかった人類の代わりに私達がこの世界を支配してあげる」


ひしひしと伝わってくるヤバい雰囲気に脅えてさっきから存在を消してたのに、あの女王私の事見やがった……こっ、怖すぎんだけど。

あと謎ワードがぽつりぽつりと出てきたけど何?

十戒? 天災? 支配!? 話がわからん!

そもそも、予言の話もファインから聞いただけだし、私なんにも分からないんだけど!


「……十戒……天災??」


あっ、あっちもだ、レイも何も分かってない!

選定の剣ブーストで情報が頭に入ってきたとかそういことはないみたい。


「……驚いた、あの悪魔、平民達には何も言わなかったのね……平和と平等を謳っておいて……ふふっ、そうだったわ、ああ言ってたくせに今でも階級が存在してるんだから当然か、やっぱりあの男には無理だったのね」


「何言ってるか分からないけど、とりあえず貴方を倒せばいいのよね」


剣を構えるレイを見て彼女は少し嬉しそうに笑う。


「えぇ、じゃあ始めましょうか!」


2人の激しい戦いがとうとう始まった。

……空気になってた私もそろそろ実体化しないといけない。


「てやあああ!!!」


「何度やっても同じよ!」


レイの斬撃を防ぐようにカラミティは右手を横に振った。

また透明の壁を作ったのか。

あの女に気づかれないように、こっそり後ろに回って私も剣を振るう。


「気づかないとでも思った? ドブネズミ」


「んひいっ!? バレてた!?」


「当然よ!」


ガードされた後女王様の綺麗な足が私のお腹にくい込んだ。

しっかも、ピンヒール履いてやがったあの女。

泣きそう、痛い! 泣いていいかな!?


「うふふ! バカね! なんで学ばないのかしら! 私の天空の壁は魔法攻撃を無効化するのよ! つまり! あんたらのその剣じゃあ攻撃できないってわけよ!」


なっ、なんだって!?

そんな無敵能力せこくない!?

というかこの人達王の卵に勝たせる気ないじゃん!

終わった、世界、終わった。

いや、まだだ、何かあるはずだ!

ねぇ! 未来の王様!


「う、嘘でしょ……」


ダメだー! 何もねぇ! 王様の剣の叡智とかやっぱなかた!


「でも、変ねぇなんで選定の剣が二つもあるのかしら……」


━━あの小心者、どうして模造品なんか使ってるのかしら……そもそもあの剣を真似することなんて……まさか


「ひっ!」


「……考えすぎね」


ため息をついて彼女は私達を、道に落ちてる紙くずを燃やすように、黒いエネルギー弾を撃った。


「このままじゃ、逃げ惑うだけだ、レイ! やり直そう! 助け呼ぼうよ!」


「うっ、うん! 仕方ないけどそうする!」


雲の女王に背中を向けて下に降りようとした。


「だぁから、無駄に決まってんでしょ!」


「「ぶべら!?」」


だけど、見えない壁に阻まれて不細工な顔を空の上で晒す羽目になった。


「ほぉら、早く、早く、次の一手を考えなさいな、次から次に攻撃しなさいなぁ、それとも、もうおしまい?」


ご名答、おしまいだよ。

そのバリアのせいでうちらの作戦はパーだ。

こちとら戦闘なんてやったことないバンピーだぞ?

クラスのお調子者はイタズラ魔法しか使えんのだ!

伝説級の武器に頼るしかなかったんだよ!

せめてあの雲さえ……あれそうだよな、雲さえ無くなればこの災厄終わるんだよな……

レイが失敗したのは、魔剣の斬撃で雲を払おうとしたからあの女のバリアに阻まれたって事だよな?

……てことは魔法じゃなければいいんじゃね?


「レイ! あんたあの女にまた勝負仕掛けてきて!」


「無茶いうなぁ! まぁいいけど!」


おぉ、流石レイ私の顔を見て即答した。

てことは、私の考えに気づいたかな?

いいねぇ長年の親友ってのは、私が悪巧みした時の顔を覚えてくれてるんだもの。


「あらあら! また来るのね! 適わないとしってまた剣を振るうのね! そういう悪足掻き大好き!」


空気の壁に剣がまたぶつかる。

ボヨヨンと気の抜ける音がする。

その隙にまた私は剣を振り下ろす。


「ふふっ! 何度やっても……!」


彼女が天空の壁を作ろうとした瞬間私は叫ぶ。


「チェンジ! ビッグうちわ!」


「へっ?」


新たな王の剣は姿を変えて祭とかかれた赤と黒の大きなうちわに変化した。

伝説級のアイテムがくだらないものに変わったから、カラミティは間抜けな顔と声を漏らした。

剣を振り下ろす容量で思いっきりうちわを振り下ろし

た。

すると、大きな風が目の前にいた彼女と彼女が乗っていた雲に直撃する。

雲ってのは風に流れるもの。

というわけで、こんな強い風を浴びるとどうなるのか。

ちなみに、今の風向きと同じ方向に扇いだから威力も倍増。

雲は散り散りになり、気を抜いたせいで対処に遅れたカラミティは真っ逆さまに落ちていく。


その隙を私達は逃すはずもなく、一気に翼を生やしてカラミティ目掛けて急降下。


「シェリー」


「おっけーレイ」


「「2人の剣が災いを払う! 新世界を誘う王の双剣ダブルレイルカリバー!」」


無防備な女に斬撃を喰らわすことなど、ウブな男がファーストキスをするより容易いこと。

模倣品の私のはともかく、レイの選定の剣の一撃は彼女を再起不能にした。

彼女を切った時、黒い汁のような液体が頬に飛んだ。

彼女の肉体は消え黒い雨だけが地上に降り注いだ。

……呆気ない1面ボスの最後だった。

そのせいで、勝利の実感が全然わかない。

でも、怪人を斬った時の衝撃はまだじんわりと手に残ってる。


「ふっ、ふへへへへ」


「ふふふっふへへへへ」


気持ち悪くにやけきった面を互いに見合う。


「「ふふっあはははははは!!!!!」」


剣とひのきのぼうをほっぽって手を握り、上下にぶんぶんと振った。


「あはははは!!!」


「いーっひっひっひ!!」


笑いが止まらない。

このまま誰かが止めなきゃずっと笑っていると思う。

自分で笑うのをやめても、数秒たったら吹き出してしまう。

だって、すっごい心がくすぐったいんだもん。

ドキドキして、なんかソワソワして、感情がはち切れそう。

抱き合って背中をバンバン叩いたり、雲を指さして笑ったり、雨を浴びて笑ったり、色んなことを二人でわちゃわちゃやっていた。

多分今なら箸が転がるだけでも笑と思う。


「……おい何やってんだお前ら」


そんな地獄みたいなノリの場所に、ずぶ濡れの黒髪の少年率いる主人公軍団がやってきた。



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