第十二話 フォリ新政府王国貴族会議
アウス暦1884.5.30
リュクサンブール宮殿
「今必要なのは、総統の名の元にフォレンツをまとめることです」
居並ぶ王国貴族に対し、宮本宗助はそう切り出した。
両国が平和条約を締結し、建前上は対等に扱う様にしているが、国王を先の叛逆事件をダシに、年端もいかない息子に代替を行い政治から切り離し、実際の政治決定権を総統が握った今、それが有無を言わせぬ占領政策だと、居並ぶ王国貴族は誰しもが思っていた。
故に宗助は、それをなんとかしなければならないとは思ってはいた、が
「その為にも、南東部の反乱を鎮めねばなりません」
首都フォリを抑えた今にあっても、南東部では独立と称し反乱が続いていた。それに対し総統はフォレンツ王国にも兵を出させ、討つ様にせよと命令したのである。
「それを実現する為にも、王国貴族の皆様には兵を出して頂き、共にこれを鎮圧して頂きたい」
『忠誠心を見る為の命令では有ろうが、そう簡単に兵を出すとは思えない…』
現に、居並ぶ王国貴族の誰しもが手を挙げることは無かった。
『やはりか…』
そう思っていると、女性の声、どころか子どもと言っても差し支えない声が響いた。
「先ほどから手を上げているのですが、何かワタクシに不満があるのでしょうか、宮本様?」
見ればそこには、大人達に囲まれた14、5歳位の金髪のボブカットに金眼、モーニングコートに身を包んだ子どもが座って手を伸ばしていた。
「あ…これは失礼した。貴方は?」
すると椅子から立ち上がり
「ロンス家現当主、レオーネ・ド・アヴェ・キュン・ロンスと申します。以後、お見知りおきを」
そう名乗りだした。
「ロンス家……!あのロンス家ですか!?」
「はい。兄上…リオン・ド・アヴェ・キュン・ロンスの妹にございます」
「リオン殿の事はよく覚えています。しかし、何故ここに貴方が…」
「兄亡き今、ロンス家の当主をワタクシが努めております。そして、今日は国の行く末を決める大事な会議の日、欠席する理由がございまして?」
「いや、それよりも…、貴方は反乱軍を鎮圧する兵を出すとおっしゃるのか!?」
「はい」
「それは…何故」
思わぬ人物の思わぬ提案にぼう然としていると、そこで鎌之助の声が響いた。
「ここで一時、休憩に入りたいと思います。司令官殿、よろしいですな?」
「あ…ああ、そうだな、頼む」
リュクサンブール宮殿控え室
「宮本様から来て頂くなんて…呼んで頂ければ私の方から伺いましたのに」
「いや、ロンス家の現当主をお呼びするなど、おこがましいことです」
「そんな、宮本様は現にフォレンツ王国を取り仕切る立場にいる方なんですから、こちらから伺うのが筋というものです。それで?何故こちらに?」
「真意を聞くためです」
「真意…と言いますと?」
「…はっきり言えば、我々は貴方の兄の仇です。それなのに何故、我々に協力どころか貴方の兄の意志をないがしにするような「兄の意志を守る為です」ことを…今なんと?」
「兄の意志を守る為に、です」
「それは、いったい…どういう意味ですか?」
「兄は自分の命を懸けて王国を守ろうとしました。それは、自分以外の命がこれ以上失われないようにするためです。ならばロンス家の当主として、その意志を継がなければいけません。その為にも南東部の反乱は、鎮圧しなければなりません」
「…その為に、多くの血が流れる事になっても?」
「より多くの血を流さない為にも、です」
「…解った。貴方の挙兵に賛辞を送ります。…ありがとう」
「………よってここに!南東部に対する征討戦を決定いたします!これより一月後、7月1日に南東部征東戦を開始いたします!フォレンツ王国万歳!」
「フォレンツ王国万歳!」
「フォレンツ王国万歳!!」
『これでいい…これでいいのよ。兄様…仇は必ず討ってみせます』
アウス暦1884.5.30
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