第十話 フォレンツ王国のいちばん長い日 黄昏

アウス暦1884.5.17 19:00

リュクサンブール宮殿会議場

一般には「本会議場」と呼ばれる大ホール。各院の2階部分にあり、3階まで吹き抜けとなっている。天井の部分にはステンドグラスがあり、それを通して昼光が通る。議場の構造はいずれも、議長席・演壇をかなめとして扇形に広がり、会派ごとに議席が配分されて座る、いわゆる「大陸型」である。

「ゲオルグ連隊長!官庁街、警保局本部の制圧、ならびに恭順派の一掃、完了いたしました!しかし、国王陛下の行方は依然として不明です!」

「何としても探し出せ!」

「ハッ!」

「宮殿に居ないとしたら、いったい何処に?逃げられたにしても、そう遠くに行っていないはず…」

そう思案し、ふとスタンドクラスを見ると、日没が近いことが分かった。

「南方にある別荘に逃げたのか?大隊長、ここは任せた!部下を引き連れ、別荘に向かう!」

そう言うとゲオルグは、中隊程を引き連れ、宮殿を後にした。


「大隊長、我々はどうすれば?」

「いずれ、近隣の駐屯地から鎮圧軍が来る。それまでに障害物を構築し、防衛準備をととのえよ!」

「ハッ!」

『後は時間との勝負…』

「日が落ちたか、松明をつけよ!」

兵が燭台に火をつけたのと同時に、天井からガラスを砕く音が響いた。

       ガッシャーーーン!!

ステンドグラスを突き破り、大人程の鉄球が兵士に落下し、あたりは騒然となった。

「なっ!?」

「なん ぐぼぉっ!」

「ぐしゃっ!」「べちゃっ!」「ぐじゅっ!」

よく見ればそれは鉄球では無く、鎧兜で身を固め、身体を丸くしたアンデッド兵だった。

「おい!しっかりしろ!」

「いでぇ…なにが…おきたんだ?」

上をみると、リュクサンブール宮殿のはるか頭上から大鴉が、鎧兜で身を固めた不死兵を急降下投擲したものであった。

そんなことは知りもしない近衛騎士団が混乱する中、不死兵が立ち上がり攻撃を開始すると、

「パパパパパパパパパパパパンッ!」

「ぐおっ!」「がぎゃ!」「ぐへぇ!」

あたり一面、阿鼻叫喚の地獄と成り果てた。

「落ち着けぇ!敵は少数!20人にも満たない!囲んで頭部を破壊し「パパパパパパパパパンッ!!」」

突如として、頭上からも連続した射撃音が響き、見ればアンデッド兵が屋上に展開し、こちらに銃をかまえていた。

「物陰に隠れよ!身を晒すな!会議場を出て、廊下に行け!さすれば上からの射撃を防げる、急げ!」

何とか生き残った部下を引き連れ玄関ホールまで来たとき、違和感を覚えた。

「何故こうも真っ暗なのだ?燭台に火はつけた筈…」

パンッ!

「がっ!」

「銃撃!?どこから!?明かりを消せ!的になる!!」

松明を消すと、あたりを暗闇が包み込んだ。         「……………………カンッ」

       『?なんの音…』

         ザシュ

       「…………え?」

         ザシュ

       「おいなん…」

         ザシュ

    「なんだ!?いったいどう…」

         ザシュ

「敵だァァァァァァァ!撃て!撃て!」

一人が錯乱し、それに伝播する形で次々と恐慌状態に陥り、そして、

「ぐはぁ!」

同士討ちを誘発していった。

「よせぇ!撃つな!同士討ちになる!」

『いくら暗闇で襲われているからと言って、こうも我々が…!そもそも何故こちらの場所がわかる!?』

「落ち着けぇ!落ち着…」

          ザシュ







         ガキィン!

「おや、アニルカードじゃないか。失礼したね」

「何が失礼よ、見えてるくせに。何でここにあんたがいるのよ。警保局はどうしたのよ?」

暗闇の中、鍔迫り合いをしたアニルカードと市橋の姿がそこにあった。

「不死兵に任して、助けに来たんだよ。か弱い少女一人に、任せておけないだろう?」

「…ケンカ売ってんの」

「いやいや、まさか。愛しい人にそつなくされて、意気消沈しているんじゃないかと…「ヒュン!」っと、危ないな〜」

「それ以上何か言うなら、なますにするわよ」

「おお怖い。その様子でしたら、大丈夫そうですな。では、この場は任します。」

「とっとと行っちまいなさい」

「そうそう、いい忘れてました。各地を制圧していた近衛騎士団は潰走し、近衛騎士団本部に逃げ込んでいるそうだよ」

「それを先に言いなさいよ。でっ?これからどうすんのよ?本部に追撃?」

「それは、別の者が行いますよ」

「?別の者って……まさか…」

「ええ、そのまさか、です」


アウス暦1884.5.17 19:37

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