第九話 フォレンツ王国のいちばん長い日 暁

アウス暦1884.5.17 06:07

「近衛騎士団が反乱!?本当なのか、アニル!?」

宿営地に戻るさい、ソフィー殿下の様子を見てくると言ったアニルが、息を切らせて宿営地に戻り、近衛騎士団の反乱を知らせきた。

「はい、近衛騎士団の隊舎を見張っていた所、ソフィー殿下を拘束し副官を殺害、リュクサンブール宮殿に向け、恭順派を一掃するとの事です!」

「何という事だ…アニルはそれを危惧して、ソフィー殿下の様子を見に行ったのか?」

「総統からの御命令です。ソフィー殿下が降伏に納得し、リュクサンブール宮殿にお連れすると聞くと、しばらくソフィー殿下を見張り、近衛騎士団が不審な動きをすれば急ぎ戻り報告せよ、と」

「何!?それでは総統はこれを予見していたという事か!?講和が失敗するという事を!?」

「そ、それは分かりません。ただ、こうなる可能性は高い、と思っていたご様子でした…」

「くっ!ならば何故、その事を総統はお伝えに…」

「失礼しますよ、司令官殿。どうやら、アニルカードの言っている反乱は、間違いない様です。この目で見ました」

そこに、国王に会っていた筈の鎌之助が戻って来た。

「鎌之助!国王陛下は無事か!?」

「ええ、無事ですよ。宮殿に押し入られた時は焦りましたが、なんとか安全な場所に避難してもらっています。しかしそれも時間の問題ですな。なにせ、王を守るはずの近衛が反乱を起こしたんです。鎮圧の為に兵を動かすには、近衛騎士団以外の兵になると、首都から離れすぎてる」

「何故こんな事に…!急ぎ国王陛下の救援に!」

「司令官殿、国王陛下は、救援は御無用に、と」

「なっ!?」

「我が国の事は我が国で治める。我々の介入を許せば、王国は我々に助けらた形になり、只でさえ立場が弱い所を、更に悪くすると考えたのでしょう。負けるにしても、負け方がある、と」

「そんな事を言っている場合では無いだろう!」

「では、どうします?」

「決まっている!!我々は……!」

「日没後に侵攻を再開しろ、宗助」

「!!」

一様が目にした先には、一体の不死兵が立っていた。

「総統閣下!?」

「停戦の期日は、今日の日没までだったな?ならば、それ以降も降伏していない様なら、戦闘を再開しろ。これは命令だ」

「しかし、それは…!」

「宗助。我々は侵略者だ、何をどう言い繕うがな。本来ならば、敵の事情など無視して攻めるのが道理だと思わぬか?それに、自国の元首が下した命を聞かず、勝手に戦闘を続ける者など、後々の禍根にしかならん。一人残らず殲滅せよ、以上だ」

そこで会話は途切れた。

「総統閣下!?お待ちを!…くそっ!」

「司令官殿」

「……日没と共に、行動を開始する。それまで待機だ。秀はまだ傷が癒えていない、俺が直接指揮を取る、アニルは分けた降下猟兵を!」

「ハッ!」

「鎌之助には地上軍を任す!」

「了解しました」

「各自、準備を怠るな。俺は時間まで天幕にいる」

「…宗助!」

「アニル!……一人にしてくれ」

「……はい」

二人が出た後、天幕の中から叫び声が響いて来た、まるで己を責めるような叫びが…

「宗助…」



アウス歴1884.5.17 06:42

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