いとしのメールアドレス第5話
@nobuo77
第5話 【いとしのメールアドレス第5話】 霊感メールアドレス
【いとしのメールアドレス第5話 霊感メールアドレス】
第5話 霊感メールアドレスのあらすじ
伸太の同級生の聡史は霊に送信できるメールアドレスを伸太の両親に渡した。
両親は半信半疑ながらも中学生で逝った息子との交信を信じて買って半年ほどのノートパソコンを墓地にもっていくことを決心した。
霊感メールアドレス
「十年以上前にこの世を去った杉本との交信も可能って事?」
先ほど聡史が灯した仏壇のローソクの炎が大きく揺れた。
「霊は時空を超越したところに存在するからね」
「聡史が言うんだから間違いないだろうけど、ほんとにそんな事可能なの?」
中学時代、詩乃と仲良しだった紀美がおっとりした声でたずねた。
「理論的には可能」
「それって、いつ完成?」
「ま、お楽しみに」
同級生たちの会話は、玩具箱をかき混ぜた様にガヤガヤと夜遅くまでまとまりがつかなかった。
聡史は帰り際に、
「おじちゃん、おばちゃん。これ僕からのプレゼント」
と言って伸吉に一枚の紙片を差し出した。
杉本伸太@universe.……
「伸太君の電子メールの住所です」
手書きの暗号文のような文字を伸吉は興味深そうな表情で見入った。
「はい。先月、コロンボの詩乃にも同じメールアドレスを送っておきました」
「詩乃ちゃんお元気か知ら?」
台所の敷居のところに膝を折っていたトモが聡史を見上げた。
「詩乃が住んでいる近くでテロが発生したようですが心配しないでとメールが届きました。この伸太君の住所、霊感感応ソフトが完成したら、使用できます」
「どうもありがとう」
深夜、同級生たちが引き上げてしまうと家の中はひっそりと静まり返った。
入れ替わるようにして学二が仕事を終えて帰宅した。測量士の帰宅が遅いのはいつものことだった。
さっき寝返りを打った時からトモの呼吸が耳元でしていた。
夕食時に久しぶりに二人で缶ビールを一缶開けた。
以前は缶ビールぐらいで酔う事はなかったがアルコールを断ってからは月に一、二度しか口にしていないので一口飲むだけでいい気分になった。
今夜はコップ半分ほどトモも飲んでほんのりと頬が上気していた。
「聡史君が話していた事、本当に実現できるかね」
「すぐは無理だとしても、ひょっとしたらという希望を持たしてくれただけでも有り難い」
「もし伸太に連絡できたらお父さんはどうする」
肩に触れ、足を絡ませながらトモが呟いた。
「どうするって、お前……」
「震えちゃうよね」
「うん。震えるだろう」
伸吉はぶっきらぼうに答えた。動揺を見られたくなかった。
「パソコンじゃないと駄目」
トモが伸太の腹に右手をドサッとのせながら聞いた。
「パソコンを通じて初めて可能なるコミュニケーションだ」
トモは伸吉の腹にのせていた右手をさらに下に這わせてきた。
「はじめようかな。私も」
「何ンとんしれん事を、か」
成熟したトモの胸に触れながらぶっきらぼうにつぶやいた。
「教えてくれる」
鼻にかかった声だった。
二三日後、業者会の懇親会を早めに切り上げて帰宅した伸吉は、作業小屋兼事務室の明かりを見て母屋には上がらず真っ直ぐそちらのほうにに向かった。
ドアを開けるとトモはキーボードから顔を上げ伸吉を見ると慌てて画面の「ごめんね」と打ち込んだ文字を消去しようとしたが、まだ操作の不慣れなトモには少し時間がかかった。
パソコンの前に座るようになって十日足らずだっだ。
瞼の奥に溜まった涙を拭く余裕もない素振りで、
「難しいね」
と照れ笑いを作り、
「この伸太の住所を使って見ようか」
と言った。
予想していない時に伸吉が現れ必死に書いたであろう「ごめんね」を見られてトモの心は乱れていた。
それで咄嗟に声に出た言葉だった。
ベニヤ板で貼られた壁には聡史の書いた、
杉本―@universe.……、のメモ紙が張り付けてある。
「どうやって」伸吉がトモの顔をみた。
「ノートパソコンを墓の下の納骨室に置いて、この住所に送信するのよ」
伸太の命日の夜、聡史が話していた、自動念仏機がヒントだとトモは言う。
「おい」
伸吉は驚いてトモの丸い肩をを見つめた。
長年の力仕事で胸から肩まわりの肉づきが若い頃のトモとはだいぶ変化していた。
ノートパソコンを購入してまだ半年った。
それに先月から手掛けている現場の情報が全て詰め込まれている。
手元にノートパソコンがなくては、仕事に影響が出ることは目に見えている。
トモが伸太との交信にそこまで真剣になっているのかと思うと伸吉はトモが愛おしくなった。
パソコンの操作をはじめるようになってからトモの性格に少し変化が見え始めていた。
仕事と家事だけの生活だったそれまでと違って顔の化粧乗りがいいように思われた。
いつもそばにいる伸吉が見ていても乾いた赤土に水が浸みわたって行くように頬が柔らかく見えた。
伸太がわが家から逝ってからどちらからともなく暗黙のうちにひかえていた夫婦の交わりを近ごろは思いだしたように誘い合うようになってきた。
「パソコンを置くだけではどうしようもない。霊感に感応するソフトをインストールしなくては駄目だ」
伸吉は長椅子に足を投げ出し両手を後頭部で組み天井に視線を向けた。
「私にはこのノートパソコン自体が霊魂に思える」
そう言いながらトモは伸吉の投げ出された足を床に向け並んで長椅子に腰掛けた。
「買ってまだ半年も経っていないノートパソコンを、そんな事に使うの踏ん切りつかんとじゃない?」
「いや」
と否定したが、トモの提案は飛躍しすぎていてどう答えていいか迷った。
はじめの頃はあれほど反対していたパソコンをいまはトモのほうが積極的に活用しようとしている。
車庫で車の止まる音がした。
学二が帰ってきたようだ。ベニヤ壁にぶら下げてある時計を見ると午前0時近くだった。
翌日伸吉は、仕事中も昨夜のトモの提案を考えていた。
トモは何もたずねては来なかった。
「やって見よう」
仕事帰りの軽トラの中で伸吉は言った。前よりもやわらかな声音だった
これまでノートパソコンに蓄積したファイルやデーター類は全部デスクパソコンに移し替えればいい。
「本当にいい?」
「うん。やって見る」
「学二に言う?」
トモがまた顔を向けてきた。
「笑われるぞ」
「二人だけの秘密」
「うん。そうしよう」
二人の会話は若い頃のように穏やかだった。
短編小説【いとしのメールアドレス第4話 あの世との交信】
【いとしのメールアドレス第4話 あの世との交信】 第4話 の世との交信あらすじ 詩乃が夫のリアナゲに赤ちゃんを身ごもったことを告げた翌日、コロンボの中心街でテロが発生した。詩乃は中心街に外出中だった。 今年も伸太の命日に同級生...
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