第12話 交錯する想い



「それは・・・一体なんだ?」


「証言よ。」


「証言?」


「ええ、私母さんのことについていろんな人に話しを訊いて回ったの。そして、母さんの担当にしてた看護師さんが、ようやく口を割ってくれたの。」


「薬の量を減らすように、指示を受けたって。」


「理由としては副作用がどうとかって言って。」


「なるほどな・・・」


 怪しいが理由としては一応筋が通っている。


「でも、調べたら、その薬の副作用は大したことがなかったの。」


 なら、決まりと見ていいか・・・・


「そして、もう一つ。」


「まだ、あるのか?」


「───ええ。」


「いなくなったのよ。その看護師。私が話を訊いてすぐに・・・」


「それは・・・」


 なんだろう。裏というか社会の闇、前に触れた、感じたものに似たものを感じる。


「そして、これ見て。」


 そう言って、新聞の切り抜きを見せてくれる。どうやら、4日前の記事らしい。


「ここ。」


「ここって・・・お悔やみ?」


 イヤな予感が脳を過ぎる。


「この、浅田澄っていう女性。」


「この人が、担当した看護師、か。」


「通夜に出て、話を訊いてみたの。そしたら・・・」


「そしたら?」


「自殺したみたいなの。椿原岬で飛び降りたんですって。」


「・・・・なるほどな。」


 全て合点がいった。得心も得た。だが、同時に絶望感も得た。


「証拠・・・だな。この、状況証拠だけじゃない、原医師が故意にミスをした・・・証拠が。」


 半ば諦めの口調で思ったこと言う。


「だけど、それが簡単じゃない。いいえ、ほぼ不可能よ。そんなことは。だから、そのために昨日・・・・。」


 泣きそうな声で想いを吐き出す。


 なるほど、ここまでの経緯があったからこその昨日の行動か・・・


「そうよ、誰かさんのせいで邪魔されたんだけどね・・・」


 わざと軽口を言っているよう口を動かす。


「警備員さんは仕事を果たしただけだろ?」


 っとまあ、とぼけていく。いや、本当は自分の失態から逃げ出しているだけだ。


 実際僕がやったことはユキにとって大きな迷惑だったに違いない。


 ユキの考えとしては騒ぎを起こし、原が慌てて証拠を処分するところを見つけるつもりだったのだろう。


「・・・・悪かった。ごめんなさい。」


 せめて、謝罪を。こんなことで、ユキの気持ちが晴れるわけではないだろうが・・・


 こちらの意図を察したのか。ユキは顔を上げる。その顔は・・・悲しみではなく、困惑を浮かべていた。


「え?ちょっとちょっと、なんで急に謝るのよ。きもちわるい。」


「でも、取り返しのつかないことを・・・・」


「そうね、確かに天斗は私に迷惑を掛けた。相手が天斗じゃなかったら、首絞めてたかもしれない。でも、天斗だったから仕方ないな~って。────これで、おあいこだって思ったから。」


「・・・・・」


 あの事件のことを言っているのだろう。ユキと別れるきっかけとなったあのことを。


「だから、天斗は気にしなくていいの。今日こんな場を設けたのは、協力してもらうためじゃない。昨日の失態を知って、あの件と相殺したかったっていうのが私の本音。ごめんなさい。私のわがままに付き合ってもらって。」


 荷物をまとめて、帰る準備をするユキ。それを、止めようとしない僕。言いたいことはあるだが、言うことを躊躇っている自分がいるのも事実だ。


「でも、協力したいって言ってくれた時、私、凄く嬉しかった。ホントに真実が分かるんじゃないかって思ったぐらい。でも、説明しててやっぱ、無理だわ~って思う私がいたのもホントのことだから・・・」


「わすれてね・・・・」


 そう言って彼女はドアを開ける。


 僕は部屋に取り残された。





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