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ଓ
――ミリアがカルドを一目見た瞬間はまだ、何も感じることはなかった。
「初めまして、エリンシェ・ルイングです」「あたし、ミリア・フェンドル」
「よろしくお願いします。 僕はジェイト・ユーティス、こっちはカルド・ソルディス」
寮室が相部屋になり、いわゆるお隣さん、ということになるので、ミリアはエリンシェと示し合わせて自己紹介をすると、〝彼〟――ジェイトがそれに応じた。
カルドは口を開かなかったが、会釈をするとエリンシェに手を差し出した。どうやら、握手を交わすつもりらしい。
彼の顔の険しさに、ミリアは
カルドが存外優しい手付きでエリンシェの手を握るのを見て、ミリアが内心ほっとしていると、前にいたジェイトが優しい微笑みを浮かべながら、手を差し出すのが目に入った。
「よろしくね」「うん、よろしく!」
ジェイトに応じて手を握った瞬間、ミリアは何か、
ジェイトを目で追いながら、ミリアは目の前にやって来たカルドと握手を交わした。……どうやら、カルドも〝彼〟のことを気にしているらしかった。
『よろしく』
挨拶の言葉を口にすると、偶然、ミリアとカルドの声が同時に重なった。思わず、ふたりは一瞬目を合わせたが、すぐに目をそらし、エリンシェとジェイトのふたりの様子をうかがった。
最初のうちは握手を交わしていたエリンシェとジェイトだったが、不意に手が止まり、やがてふたりはお互いをじっと見つめ始めた。
そんなふたりを見て、また先程のような
ふたりの姿を見て、ミリアはそう直感した。その瞬間、彼女に
「……どうした、ジェイト?」
ミリアが声を掛ける前に、カルドが一瞬で表情を変え、不思議な顔をしてジェイトに声を掛けた。それに反応して、ジェイトが慌てて、エリンシェから手を離した。
……きっと、
――似ている、とミリアはすぐに思った。その次の瞬間、彼女はカルドに親近感のようなものを覚えた。ちらりと彼を横目で見ながら、ミリアは必ずカルドに話し掛けようと心に決めたのだった。
ଓ
「――隣、いい?」
そして、ミリアは初日の薬学ですぐに、そんな決心を行動に移した。
カルドは驚いた様子も見せず、「おう」とうなずいてみせた。そして、ちらりとミリアを見た後、黙々と授業の準備を始めた。
「ありがとう」
そう言って、ミリアは遠慮なくカルドの隣に座ると、授業の合間に話し掛ける機会をうかがった。
「……ねぇ」
ミリアが声を掛けると、カルドは視線だけを彼女に
「
それを聞いた瞬間、カルドはぴたりと動きを止め、一つため息をもらすと「……そうだな」とつぶやいた。
「
どうやらミリアが気付いていたのと同じように、カルドも彼女が「さみしさ」を感じていたことに気が付いていたらしい。ミリアは少し恥ずかしくもあったが、カルドに
「そう、あたしも同じ。 ――小さい頃からエリンとは幼なじみでもあり、姉妹のようでもあり親友でもある、そんな関係なの。 あたしもずっとあの
ミリアの質問に、カルドが複雑そうな表情を浮かべる。そして、ちらりとミリアを見た後、小さく「……あぁ」とうなずいてみせた。
――カルドも、ふたりがいつか結ばれる「運命」だと、気付いているのだ。そうだと分かった瞬間、ミリアはますますカルドのことを身近に感じるようになった。
「じゃあ、あんたは
「俺も……同じだ。 ――
どうやら、カルドとはかなり気が合うらしい。彼の答えを聞きながら、ミリアは心底そう思った。……それに、
「――じゃあ、決まり。 近いうちに時機を見て、あたし、
ミリアはいたずらっぽく笑いながら言うと、カルドも釣られるようにしてにやりと
「ところで、えっと……名前何だっけ?」「カルド。 カルド・ソルディス」
「分かった、カルドね。 あたし、ミリア・フェンドル。 ミリアでいいわよ。 ――それじゃあ、カルド、これからよろしくね」
「あぁ、よろしく、ミリア」
改めて自己紹介をして、ミリアとカルドは同時に手を差し出した。それに、ふたりで笑いをこぼした後、互いの手を取って固い握手をするのだった。
――それが、ふたりが初めて「手とてをとりあった」瞬間だった。
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