Extra edition 2

手とてをとりあって 〜〝heart to heart〟〜

♡ 0


 ――恋なんて、するワケないと思っていた。

 親友さえいればそれで良いと思っていた。

 ……けれど、〝おもい〟は人を強くするのだと初めて知ることになった。


    ଓ


 彼女――ミリアが〝彼女〟と出会ったのは物心がついたすぐ後だった。

 母親であるレイナに連れられ、初めて〝彼女〟の家を訪れたのだ。

「さ、あなたの新しいお友達のエリンよ。 ご挨拶して」

「ミリアです、よろしくね!」

 そう言って、にこやかに顔を上げると、そこにはとてもきれいな女の子がうつむきながら立っていた。

 ――〝彼女〟がミリアの心を掴んだのはほんの一瞬だった。ミリアからすれば、〝彼女〟は芯が強そうに見えるのと同時に、どこか儚げで……。ミリアはなぜか、〝彼女〟を守りたい衝動に駆られた。

「私、エリンシェ。 皆からは『エリン』って呼ばれてるの。 だから、あなた――ミリアもそう呼んでいいよ」

 そう言って、無邪気に笑う〝彼女〟――エリンシェに、ミリアは更に心ひかれた。思わず、前へ出て、その手を優しくぎゅっと掴むと、ミリアも微笑みながら、勢いよく口を開いた。

「ありがとう、エリン。 ね、あたしたち、お母さん達みたいに仲良くしよう! それで、ずっとずっと親友同士になるの! ねぇ、いいでしょう?」

 すぐにエリンシェが「もちろん」とうなずいてみせると、きらきらとしたをミリアに向けて、小指と小指を絡ませるとにこやかに言った。

「じゃあ、約束」「――うん、約束!」

 大きくうなずいてみせ、ミリアは繋がれた手を大きく振った。何度も何度もそれを繰り返したのに、エリンシェは嫌がることもせず、楽しそうに笑っていた。――そんな〝彼女〟に、ミリアはますます心ひかれたのだった。



 ミリアとエリンシェが仲良くなるのに、それほど多くの時間は掛からなかった。

 エリンシェに会いたくて会いたくて仕方がなくて、ミリアは毎日のように、母であるレイナに〝彼女〟に会いに行きたいとせがんだ。苦笑しながら、レイナはその願いを聞き入れ、週に一度はエリンシェの元を訪れることをミリアに約束した。

 その結果、ミリアとエリンシェの二人は顔を合わせる度に仲を深め、幼なじみであり、姉妹のようでもあり、何よりの親友でもある――そんな関係へと発展した。

 ミリアはエリンシェの考えていることなら、何でも手に取るようにわかった。〝彼女〟の方もミリアのことなら大体のことはお見通しのようだった。――二人はお互いに心通わすようになっていた。

 当然、ミリアはずっとエリンシェの隣にいるのだと思い込んでいた・・・・・・・。なのに……。


 ――やがて、〝彼女〟に「特別で大切な存在」ができたのである。


 その存在〝彼〟に一目会った時、ミリアは到底〝彼〟には適いそうもないと――〝彼女〟のそばにいて守り抜くのは自分ミリアではなく、〝彼〟なのだと思い知らされた気がした。

 けれど、〝彼〟もまた、見ていると背中を押したくなるような――そんな不思議な存在だった。それに、〝彼〟のそばにいる〝彼女〟はどこかいつもと違ってみえて・・・、とても幸せそうで……。ふたりの並んだ姿を見て、ミリアはすぐに、ふたりには強いがあるのだと直感・・した。

 もちろん、〝彼女〟が幸福しあわせならそれで良かった。なのに……。なぜだろう、〝彼女〟が自分から離れていく・・・・・と思うと、どうしようもないさみしさがミリアを襲った。

 ――そんな時、ミリアが出逢ったのが、カルドだった。彼もまた、彼女と同じように「さみしさ」を抱えていて……。

 

 ――これは、そんな同じ「境遇」を持つ、ミリアとカルドのふたりが、手とてをとりあい、強い絆を持つようになるまでの物語。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る