Wing Ⅰ Episode 2 翼――それは〝おもい〟を知る〝もの〟
Wing Ⅰ Episode 2 Prologue ଓ つながり 〜〝connection〟〜
――これは偶然なのか、それとも…………。
目の前には〝彼〟が驚いた表情で、こちらを凝視しながら、佇んでいた。
思わず、少女――エリンシェは思わず顔を赤らめながら、〝彼〟を見つめ返した。〝彼〟の顔を見るだけで、今まで募っていた想いがあふれ出した。――会いたかった。そんな想いを言葉にしようとしたエリンシェだったが、上手く伝えられそうになかった。諦めて、何も言わず、エリンシェはただ笑ってみせた。――それもとびきりの笑顔で。
エリンシェの笑顔を見た〝彼〟は一瞬目を丸くしたが、それも一瞬で、すぐに、エリンシェに優しい顔で笑い掛けた。〝彼〟のそんな笑顔を見ただけで、思わず泣きそうになりながら、エリンシェは涙をこらえて、ようやく口を開いたのだった。
ଓ
――それは、
エリンシェはその休暇を、始めは家族と団らんで過ごしていた。――が、少し経つと、友達に会えない寂しさがエリンシェの胸の内に募り始めた。そんな時、彼女の母であるフェリアが、エリンシェの親友であり幼なじみでもあるミリアを招待し、数日間のお泊り会を開いたのだった。
これに、エリンシェは大喜びし、ミリアと一緒に、学舎で知り合い、すっかり親友となったジェイトやカルドに会いに行く計画を練っていた。――そんな矢先のことだった。
「エリン、『グラフトおじさん』が来て下さるそうよ」
フェリアからそんな声が掛かった。エリンシェはミリアと顔を見合わせ、目を輝かせた。
「グラフトおじさん」とは、フェリアや、ミリアの母であるレイナと友人関係にある男性のことだった。彼――グラフトは妻と連れ添って、よく旅に出掛ける生活を送っていた。真偽は定かではなかったが、エリンシェ達の棲む世界・テレスファイラの「外」に出たこともあるのだとか。
そんなグラフトは時々、友人達の元を訪れることがあった。彼には息子がいて、フェリアやレイナの元を訪れた時に、息子と同年代であるエリンシェやミリアのことを可愛がり、旅の話をしていたのだった。そんな彼のことを、エリンシェは「おじさん」と呼んで親しんでいた。学舎に通う前までは、グラフトが来るのを待ち遠しく思っていたものだ。
「しかも、今日は息子さんを連れて来て下さるそうよ。 あなた達と同じ年で、ちょうど学舎の休暇中なんですって」
フェリアのそんな言葉に、エリンシェは心躍らせた。……グラフトの息子は一体どんな人物なのだろうか? 同じ年なら、ひょっとするとどこかで会っているかもしれない。それに、もしかすると仲良くなれるのではないだろうか。
そんなことをミリアに話していると、「おじさんが来たわよ」とフェリアから声が掛かった。エリンシェはミリアと一緒に、グラフトと出迎えに急いだ。
エリンシェとミリアが居間に行くと、そこには灰色の長い髪を一つにまとめた大柄な男性――グラフトが、すでに到着していて、フェリアと話をしていた。エリンシェとミリアは声を揃えて、彼に声を掛ける。
『グラフトおじさん!』
「よぉ、お二人さん、元気だったか? ほら、土産だ。 それと、学舎生活はどうだ?」
振り向いたグラフトは豪快に笑ってみせると、両脇に抱えた土産をエリンシェとミリアに手渡した。そして、二人の頭を勢いよく撫でると、「学舎と言えば、だな……」と後ろを振り返った。
「今日はせがれを連れて来たんだ。 お前達と同い年だから、ぜひ仲良くしてやってくれ。 ――おい、
グラフトの口から、聞き慣れた名前が飛び出し、エリンシェは息を呑んで、思わず彼の顔を凝視した。……そんな、まさか。驚きつつ、グラフトを見つめていると、あまり似てはいなかったが、確かに〝彼〟の面影がある気がした。
大柄なグラフトの後ろから、おずおずと、〝彼〟――ジェイトが驚いた表情を浮かべながら現れた。ジェイトも予想していなかったのか、エリンシェを凝視しながら、その場で佇んでいたのだった。
ଓ
「――ジェイト、久しぶり! 偶然だね」
思わず声色が高くなり、エリンシェは恥ずかしくなったが、誤魔化すように笑ってみせた。ジェイトも微笑みながら、「……本当だね」とうなずいた。
なぜか顔を赤らめているフェリアに対し、グラフトが「何だ何だぁ?」と素っ頓狂な声を上げ、首を傾げていた。
「お前ら、知り合いなのか?」
「知り合いどころか、『
どこか嬉しそうな様子で、ミリアがエリンシェとジェイトの代わりに答える。それを聞いたグラフトが愉快そうに、豪快な笑い声を上げた。
「おーそうかそうか! 特にお前らは昔から縁があるからな。 なぁ、フェリア?」
……縁? そんな話を初めて耳にしたエリンシェが首を傾げていると、うなずいてフェリアがそれについて語り始める。
「エリンが生まれた時の話なんだけどね、グラフトおじさんが息子さんを連れて来てくれたことがあったの。 ――グラフトおじさん、本当は旅に出る予定だったそうなんだけど、息子さんがぐずって行けなくなって、私の所へ来てくれたのよ。 その時ね、あなたたちはお互いを呼び合っていて、試しに近付けてみたら、まだ赤ちゃんだったのに、ふたりで手を握り合っていたのよ。 ……だけど、そんなこと、覚えてないわよね?」
――覚えては、いない。けれど、初めてジェイトと会った時、確かに繋がれた小さなふたつの手を、頭の中でみた記憶はあった。それに、あの時、何だか懐かしい気持ちを覚えたことも。話を聞いて、エリンシェは、その記憶が実際あったことなのだと、ぼんやりとではあるが、実感することができた。
「でも、何となくは……」
エリンシェがそう小さくつぶやいたのを聞いて、ジェイトが弾かれたように、エリンシェの顔を見つめた。それを不思議に思う暇もなく、唐突に、グラフトがまた豪快に笑い始めた。
「そうか、そうか! それじゃあ、オレの出る幕はなかったってことだな! あのな、コイツ……――」
グラフトが何か言い掛けたのを聞き付けて、慌てたように、ジェイトは「わあーっ!」と誤魔化すように大声で叫んだ。顔を赤らめながら、「父さん!」とグラフトに抗議する。
「ぼっ、僕にも色々あるんだから、そのことは言わないで!!」
ジェイトのあからさまな態度に、グラフトはニヤニヤとし始めた。その顔を見たフェリアとミリアも、二人してなるほどと納得して、同じようにニヤニヤと笑い始めた。エリンシェだけは状況がのみ込めず、首を傾げていた。
「まぁ……なんだ。 これからも、うちのせがれを頼むよ、
グラフトがそう話したのを聞いて、ジェイトがしかめっ面で、また抗議するように彼をにらみ付けていた。そんなジェイトをよそに、エリンシェはすぐに「はい!」とうなずいて、彼に微笑み掛けながら、口を開くのだった。
「改めて、これからもよろしくね、ジェイト!」
█
「――本当、
所変わって、とある「屋敷」で、そんなことをつぶやく少年がいた。
【まあまあ、落ち着きなよ、ヴィルド。 大丈夫、このボクが何とかしてあげるからさ】
どこからか聞こえて来た【声】に、ヴィルドと呼ばれたその少年が顔を上げ、「……本当か?」と返した。
【あぁ、もちろんだよ。 だけど……少し時間が欲しい。 ボクが合図するまで、キミにはあることをしてほしいんだ】
そう話して、【声】は愉快そうに高く笑い声を上げた。そんな【声】に応じて、ヴィルドは内容も聞かず、二つ返事で「分かった」と答えた。
――そして、【声】から語られた【
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