W Ⅰ-Ep1−Feather 14 ଓ 「信」 〜secret hero〜

W Ⅰ-Ep1−Feather 14 ―The first part ―

 それから、しばらくして。エリンシェは順調に学舎生活を送り、もうまもなく一年目も終わりを迎えようとしていた。

 大神おおがみ・ディオルトの言った通り、ゼルグが動いて来る様子はなかった。共に行動しているのだろう、ヴィルドの姿を見掛けることもなかった。何か策を練っているに違いないというのが、アリィーシュの見解だった。

 【敵】の気配がなくても、エリンシェは常に用心を怠らなかった。特に、ジェイト、ミリア、カルドの三人は、あの話し合いの日に、エリンシェから片時も離れないようにすることを決心したらしく、できるだけエリンシェと行動を共にしていた。時々、【敵】の動きを探りに行っているのか、どこかへ出掛けていることもあったが、アリィーシュもそれ以外はエリンシェの側を離れないようにしていた。

 〝力〟を使う訓練はまず、自力で〝羽〟を広げることや、自由に〝羽〟で飛ぶことから始まった。学舎生活の合間を縫って、エリンシェは四人の秘密の丘で、アリィーシュと共に訓練を行った。その成果もあって、エリンシェはすっかり〝羽〟を自分のものにしていた。アリィーシュによると、〝羽〟は時に戦いの助けになるということもあり、時々、エリンシェは彼女を伴って、〝羽〟で飛びに出掛けるようにしていた。

 そして、あわせて、ペンダントを〝聖杖ケイン〟に変化へんげさせる訓練も行っていた。ゼルグとの戦いの時、〝聖杖ケイン〟が現れたのは偶然のようなものだったらしく、その直後しばらくは、〝聖杖ケイン〟に自力で変化へんげさせることができなかったからだった。また、悪役されないための細工が強く働いているようで、たとえ〝聖杖ケイン〟に選ばれたエリンシェでも、一筋縄ではいかなかった。

 時に、心が折れそうになったエリンシェが、ディオルトが話していたことを思い出しながら、訓練に励んだ。毎度ペンダントに、変化へんげするように願っていると、数回の失敗はあったものの、何度かは変化へんげに成功するようになっていった。それを繰り返していくうちに、ようやく、エリンシェは〝聖杖ケイン〟の変化へんげが確実にできるようになっていた。

 中々骨が折れる訓練に、アリィーシュも苦戦して、戦い方は追々、少しずつ覚えていくことになった。だが、悠長にしている暇はないと感じていたエリンシェは、ディオルトのように、早く〝聖杖ケイン〟と〝相棒〟になれるよう努力しようと決心したのだった。


 その一方で、エリンシェとガイセルの関係は、以前と少し違ったものになっていた。あの日以来、エリンシェはしばらくの間、ガイセルの元から足が遠のいてしまい、彼とは少し距離を置くことになってしまった。けれど、時間が経つにつれ、気持ちの整理がついて、エリンシェは元の通り、ガイセルと接することができるようになっていた。

 信頼――エリンシェにとって、ガイセルとの関係はその一言に尽きなかった。あの日、彼が誓った「できることは全力でやる」という言葉を、エリンシェは信じることにしたのだ。そんな答えが出て以来、以前よりは回数が少なくなったものの、エリンシェはいつも通り、ガイセルの元を訪ねるようになっていた。

 対して、エリンシェはジェイトに、未だあの台詞の真相を聞けずじまいで、その件に関しては決着がついていなかった。いつも一緒にいることが多かったものの、ジェイトの方もそれについては言及もしなかった。ガイセルの件があって以来、エリンシェは少し臆病になってしまい、ジェイトに切り出す勇気を持つことができなかったのだ。

 ……けれど、いつまでもそうは言っていられない。エリンシェはようやく決心して、何とか勇気を振り絞り、ジェイトに話がしたいと声を掛けたのだった。


「分かった、でも……。 今日授業が終わったら、基礎と応用魔法学の先生二人から、野外施設に来るよう言われてるんだ。 その後でも構わないなら大丈夫だよ」

 エリンシェの尋常でない様子に、すぐには終わらない話だと察したのだろう、ジェイトが困ったようにそう話した。

「じゃあ、一緒に行って待ってる」

 即座に返事を返しながら、エリンシェは何だか歯がゆく感じていたのだった。そして、そんな気持ちのまま一日を過ごし、ジェイトと共に野外施設へ向かった。

 野外施設に着くなり、ジェイトは、基礎魔法学と応用魔法学の賢者達に囲まれながら、何やら杖を振り回していた。時々、何か話をしたり、指示をもらったりしていて、少々時間が掛かりそうだった。

 そんなジェイトの様子を、少しため息をつきながら、エリンシェは眺めていた。歯がゆい気持ちはまだおさまっておらず、心なしか鼓動も早い気がした。

〝ねぇ、エリン。 待ってる間、ちょっと出掛けて来るわね〟

 ふと、宿っていたアリィーシュがそんなことを言って、エリンシェの中から〝気配〟を消す。ほんの少し不安に思っていると、どこかからそれを察したアリィーシュから、〝大丈夫よ〟と声が掛かった。

〝そんなに離れないし、すぐに戻って来るから。 万が一、何かあったら駆けつけるから〟

 そんな言葉を最後に、すっかりアリィーシュの〝気配〟がどこかへ消えてしまった。エリンシェはひとり、またため息をついて、ジェイトの様子を眺めるのだった。

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