第10話 必殺の一撃

ここはの世界。人間が天界だの地獄だの好き勝手に呼称する場所。その端っこの方――オレ様の知り合いのこと、バッドロックの棲家にいる。黒い地面に白い草っぽいのが生えてたり、瓦礫がひたすら散乱しているようなイメージの場所だ。ここに来たのは、来たるべき死闘に備え、ヴァイオラに特訓させるためだ。


「『アストリオン』の存在をヴァイオラに伝授したのはオマエだからな。責任取って付き合ってもらうぜ」

「……いいだろう、『第2の願い』はソレか」


オレ様とヴァイオラは、『第2の願い』を発動した状態だ。『第2の願い・悪魔装纏デヴィル・ドレスト』は、ヴァイオラを守る完全無欠の超絶最強アーマー。オレ様が変化した、ヴァイオラ専用鎧だ。それでヴァイオラの次元酔いを遮断してやってるってわけ。コレがないヴァイオラは、たちまちマーライオンと化すだろう。


「……それで、何を特訓するのだ?」

「流れで『王の儀式』に参加しちまってるからな。他の宿主の『アストリオン』や『悪魔の願いデヴィリオン』に対処する必要が出てきたってわけ」

「……オマエにしては珍しく真面目にやっているな。それで、敵を倒す『必殺技』の開発が急務となっているわけか……」


バッドロックに珍しく褒められ、オレ様はヤレヤレ、というポーズを取る。


「いくらヴァイオラの脳が人外化してるとはいえ、『悪魔の願いデヴィリオン』を回避するのは限界がある。相手の願いの内容に関係なく対応できる『必殺技』が望ましいな。」

「……それならば簡単だ。――オマエたちは既に、極度のスピードで突っ込んできた暴走ウォルコーンに対して一撃喰らわす、という攻撃を成功させている」


ヴァイオラは教会での出来事を思い出す。暴走してきたジョゼに対し、『アストリオン』に『小さな願い』を予め仕込んでおいた、オートカウンターだ。


「そうか。あの時『アストリオン』に、攻撃された瞬間、クロスカウンターを決める! っていう『小さな願い』を込めてたんだよ」

「そーだったな。クロスカウンターだから、技名はシンプルに『星紋交差アストラ・クロス』ってトコか。どーよ?」


ヴァイオラからオッケーのマークが出る。オレ様の案が採用された。


「……うむ、はそれで良いだろう」

「ありがとうございます、師匠!」


バッドロックは師匠ヅラしている。普段は真面目キャラのくせに、こういうノリは存外嫌いじゃないのかもしれない。


「じゃ、次はだな。『アストリオン』を使う場合、どう頑張っても、どう足掻いても、人間の思考を超えることはできない。つまり、三次元宇宙空間内の物理法則に従わざるを得ない。本来ならば、な。だがヴァイオラ。今のオマエなら、それを越えることが出来る」

「……脳幹が一部、高次元宇宙空間と接続しているのか。ならば、ある程度のハックが出来るだろう」


オレ様とバッドロックの雑談に、お勉強が苦手のヴァイオラは白旗を上げた。


「ごめん、何を言ってるのか全然わかりません」

「端的に言うと、出来るだけ無茶な事を考えろってことだ。ま、ヒント出すくらいならイイかな。三次元宇宙空間内においては、ジョゼの攻撃が最適解の一つだぜ」


ヴァイオラは少し考えて、答えを導き出した。


、か……」


オレ様とバッドロックはうんうん、と頷いた。正解だ。後の先はカウンターを持っているので、先制攻撃技が欲しい、っつーことだ。あとは、実際に『小さな願い』をプログラミングする、ヴァイオラ自身の表現力の問題になってくる。


「……とすれば、どうする?」


オレ様は思わず、アーマーの姿でヴァイオラの身体を包み込んだまま、吹き出した。


「ブッ! ギャッハッハ! 『あり得ないほどめっちゃ速く動いて、殴る』!!! ヒッヒッヒ、腹いてー……。ハァハァ……、あ、あんま笑わせんな……、アーマー状態で笑うと意外とつれぇ……、苦しい……」

「知らないよ! もう! こっちまでなんか暑いし!!!」

「ハァハァ……、ちょ、タイム……」

「……では、何か『必殺技名』を考えてやろう……」


バッドロックは腕を組んで長考に入った。ウォルコーンもそうだが、『願いの悪魔』は案外、名前だの、デザインだの、手順だの、どうでもいいことに凝るやつが多い。まあオレ様もか。進化を司る存在として、様式美を追い求める本能だとか、そーゆーのがあるのだろうか。


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


30秒経過。


「……長ぇよ!!! もうオレ様が考えていいかな!?」

「うん、バロックに決めてもらえたら嬉しいな」


ヴァイオラがこくりと頷く。よし、誰も思いつかないようなのを考えてやろう。


「【子羊の尾2振りの間シェイク】ってのはどうだ? 10ナノ秒で攻撃するって意味。ボクシング技の、ジョルトみたいな語感でさ」

「うーん、いまいち。意味が分かりにくい。凝りすぎ」

「クソッ、これだから◯*@▲は……」

「え、今なんて?」

「なんでもねーよ。じゃあテキトーに『星紋撃勁アストラ・レイド』」

「採用!」

「お、やったぜ」


ヴァイオラはかなり気に入ったのか、満面の笑みを浮かべている。


「『星紋交差アストラ・クロス』や『星紋装纏アストラ・ドレスト』に語感が似てるし、漢字四文字揃ってるのがポイント高いかな。勁ってあれでしょ、中国拳法のワンインチ・パンチ」

「発勁な。それの超絶パワーアップ版みてーなイメージだ」


技名が決まったところで、バッドロックがヴァイオラの前に古臭い物理メディアをがちゃがちゃと積み上げ始めた。


「……ふむ、では『アストリオン』をオマエの脳に集中しながら、この世界中の格闘技のビデオテープを観るとよい。発勁を会得するならば、特に接近単打の北派武術がよかろう。これとか、これとか……」

「はい、師匠!」


ま、どっかのSF映画みてーだが、『アストリオン』を脳内に満たした状態で映像を見ることによって、高次元宇宙空間に点在する集合的無意識に含まれる格闘技の知識が、ヴァイオラの脳みそにインストールされるという裏ワザだ。


「すごい、知識、経験が流れ込んでくる……」

「じゃ、試し打ちしてみっか。相手はどうするか……」


「やってるわね」


そのとき、メチャクチャ都合のいいタイミングでジョゼが到着した。ライグリフ達に破壊されたアルルの街で修繕を終えたため、合流しに来たのだ。


「ジョゼ!」

「私が相手になるわ、ヴァイオラ。じゃ、バッドロック、周りを三次元宇宙空間と同じ環境に整えてもらえるかしら」

「……承知した」


バッドロックがどこかから取り出したリモコンをピッと押すと、周囲の超空間に1Gの重力が発生し、気体や物理法則が整っていく。余談だが、この調整は悪魔パワーで行っているため、リモコンを押す意味はあまりない。ただの演出だ。ジョゼがバッドロックに謝辞を述べる。


「ありがと、バッドロック。――それじゃーヴァイオラ、そのまま『第2の願い』を発動しつつ、25mくらいの地点から、私に思いっきり『速い打撃』を打ち込んでみて。があるの。本当に重要な事だから、手加減しないで」

「……うん、分かった」


二人はゆっくりと構えをとる。距離は25m程。ジョゼは両手をだらりと下げ、自然体の構え。これは格闘技というより、悪魔ウォルコーンの戦闘態勢だ。ウォルコーンは先の先を取るのが本来は得意なので、速攻ソッコーで飛び掛かるために力を抜いているという構えだ。『黄金のアストリオン』がジョゼの全身を包み込み、ガードの体勢に入る。


対するヴァイオラは意外にも、いや成程というか、日本拳法に近い中段の構え。正面の敵を、縦拳で撃ち抜くことに集中した結果だろう。北派武術っぽさも混ざっている。拳は弛緩していて、ヒットの瞬間に『アストリオン』を集中させるつもりらしい。拳の達人がやるヤツだ。先程お勉強した内容を、早速反映させている。


「……『星紋撃勁アストラ・レイド』!」


ヴァイオラが呟く。必殺技の前後に技名を呟くのが好みらしい。オレ様が作ったスーツの内部が『翠緑のアストリオン』で満たされていき、それに従ってヴァイオラの『小さな願い』が、気迫と共にオレ様にも伝わってくる。


! ! ! ! !)


「そう。余計なことは考えないで。さあ! 来なさい!」

「いくよ……!」



次の瞬間!



翠緑の光が空間をつんざき、亜光速で突っ込んだヴァイオラの一撃がジョゼの『黄金の蔦』のガードにメリメリメリメリ……と突き刺さる……。オレ様の目にも映らない速さ。三次元宇宙空間内においては、速度が破壊力に等しい。至極単純明快であり、速ければ速いほど強い。『第2の願い・悪魔装纏デヴィル・ドレスト』と『翠緑のアストリオン』を纏った拳は次元宇宙の壁を突き破り、『悪魔の願いデヴィリオン』の装甲をも破壊した。


「ゴホッ、うん、上出来……」


その威力は尋常ではなく、ジョゼは口から喀血し、膝を付いた。悪魔と融合しているとはいえ、体内は人間の作りを残しており、あばらが折れて、肺に突き刺さったのだ。ジョゼの血がヴァイオラの顔にぱぱっと散る。


「……悪いけど、また治して……おいて……ね……」


そう言い残して、ジョゼは意識を失ってしまった。ヴァイオラが倒れないように抱きとめ、そのまま治療を開始した。


「……ありがとう、ジョゼ……」


『アストリオン』の戦いは、ほんの僅かに均衡が崩れた瞬間、一瞬で決着がつく。さながら西部劇の決闘のようだ。ジョゼは準備万端待ち構えて、ヴァイオラの『星紋撃勁アストラ・レイド』をガードするつもりだったようだが、を『魔眼』でも捉えられなかったようだ。また余談だが、衝撃波などはヴァイオラが無意識のうちに抑えていた。地上で放っても周囲に被害は出ないだろう。その行き場を失ったエネルギーを打ち込まれたもんだから、流石のアイツもK.O.牧場、ってワケだ。


「だが、弱点もあるな」

「そうなの?」

「ジョゼが仮に、超高熱の『蔦』で始めからガードしていたら……? アレも『アストリオン』製だから、オマエもカウンターを喰らっちまう。太陽に超高速で突っ込むようなモンだぜ。自分のスピードが速すぎて回避できねーんだわ」

「そっか……」

「ま、ひとまずイイだろ。『星紋撃勁アストラ・レイド』と『星紋交差アストラ・クロス』で、アタックとディフェンスは揃った。あとは、スキマを埋める技が2、3欲しいな。飛び道具とかかな?」

「……」


ヴァイオラは『し、目を瞑ってジョゼを抱きしめている。『アストリオン』のダメージは悪魔体をも破壊するようで、回復は遅いみたいだ。


……ま、なんか知らんが、抱きしめられたジョゼは幸せそうな顔してるし、今日のところは預けといてやるか。バッドロックが周囲を三次元宇宙空間の環境にしているので、ヴァイオラは『第2の願い』を解除しても、しなくて済んでいる。と、バッドロックが腕組みをほどき、ようやく口を開いた。


「……駄目だ、何も『技名』が思いつかん」

「まだ考えてたのかよ!!!! 『星紋撃勁アストラ・レイド』って散々言ってただろーが!」



――しばらく時間が経過して、ジョゼが回復した。と言っても数分くらいだけどな。ヴァイオラの『アストリオン』でもこれだけ回復に要するというのは、かなりエグい攻撃だったということだ。叩き台がオレ様じゃなくて良かった。


「う……、ヴァイオラ‥…」

「気がついた! 大丈夫? もう治ったとは思うけれど」

「あ、ごめん……重かったでしょ……」

「ううん、いいの」

「……」


うぐぐぐ、またコイツラは見詰め合って……。ジョゼは『魔眼』も使ってないのに。ヴァイオラもまた、まんざらでもねーって面しやがって。このまま放っといたらチューするぞこいつら。クッソ。なんでオレ様にこんな妙な気持ちが湧き上がんだよ……。ああ、イライラする……。


「バロック?」

「……なんでもねーよ! ジョゼも治ったんならさっさと離れろよ!」

「あぁ……、そっかそっか……。ヴァイオラ、ありがとね! ……よいしょっと」


ジョゼはまだよたよたとしながら、ヴァイオラの下を離れた。オレ様の繊細なハートは一体どうしちまったんだ……? そんな事を考えながらモヤモヤしていると、ヴァイオラが今度はオレ様を無造作に抱きかかえた。こいつ完全に何も考えてね――!


「はい、定位置。よしよしよしよしよしよし……」

「ギャー! やめろ――――! 撫でくり回すな――――!!」

「はぁ……、仲がおよろしいことで。私まで嫉妬しちゃうわ……」


ジョゼはオレ様に向かって『魔眼』でウインクを飛ばした。が、オレ様はすんでの所で回避した。流れ弾がバッドロックに向かって行ったが、バッドロックも避けた。『魔眼』のウインクは、そのまま後方の瓦礫を破壊した。殺す気か。


「ま、それより、一つ話したいことがあるの」


と、ジョゼは一旦真面目な顔をして仕切り直した。


「アルルの街で、悪魔ヘッジフォッグの『宿主』人物に会ったわ」

「!!」


ジョゼは『アストリオン』で、空中にその時の映像を映し出した。SF映画でホログラム映像を流すシーンがあるが、それをメッチャ高精細にした感じだ。アルルの遺跡で、銀髪銀眼の、……それこそSF映画に出てくるような未来っぽい服を着た、身長1.6mくらいの少年が、特殊部隊一個小隊を引き連れて、ジョゼと対峙している。


って、コイツが『宿主』じゃねーのか? …って、いきなり攻撃か」

「突っ込んできた! 速い!」


話している間に、銀髪少年がさっきのヴァイオラみてーな必殺技で、いきなりジョゼに攻撃した。『白銀のアストリオン』だ。――が、ジョゼは『黄金の茨』でしっかりガードしている上、一発、右手で軽く顔面に入れてやがる。


「成程な、ってこれか。銀髪少年とヴァイオラ、どちらの実力が上か。ま、答えは出たみてーだな」

「そうね。ただ、このコの『願い』が全ては分からない以上、安全セーフティとは完全には言い切れないけどね」


ヴァイオラは映像をじっと見ている。


「綺麗な『アストリオン』……。まるでけがれがないみたいな……」


ジョゼに殴られた顔面からは、血が流れてないようだ。そして、ヴァイオラはハッと何かに気づく。


「もしかして……! って……!」


ジョゼが右手でヴァイオラに向け、バン、と銃で撃つような仕草をする。


「ビンゴ! 『アストリオン』から感じる違和感、殴った時の感触からしても。彼は機械アンドロイドね」

「やっぱり……」

「シグって名乗ってた。ドイツの英雄伝説から付けられた名前でしょうね」

「ふーん、なるほどなー。組織的に作り上げられた『宿主』ってことか。害意のある悪魔や『宿主』を駆逐するための、正義のヒーロー爆誕ってワケだ」


バッドロックが口を挟む。


「……しかし、『悪魔の願い』は生物にしか適応できない。機械に命が宿っているとでもいうのか?」

「きっと『』だよ」


疑問に対し、ヴァイオラがすぐさま最適解を提示する。


「オレ様もそう思うぜ。普通に考えるとメッチャ難しい『願い』だが、詳細な『、かなり『願い』発動への敷居が下がるだろう」


ジョゼがオレ様たちの推理を聞いて感心したように相槌を打ちつつ、更なる疑問を投げかける。


「なるほどね。でもおかしくない? シグ君は確実に『アストリオン』を使っていた、つまり『宿主』なのは確かなんだけど、じゃあどうやって自分自身に生命を吹き込んだの? 矛盾してない?」


オレ様はハッ、とせせら笑った。


「オレ様が思うに、コイツは本来『宿主』じゃない。とヘッジフォッグによって創られ、そのが『第1の願い』を使って、生命を吹き込んだんだ。……つまりだ。もう『第2の願い』は解るだろ?」

「うーん……」


ヴァイオラが口に手を当てて考えながら答える。


「……『第2の願い』は、『宿』ってこと?」

「オォー! 冴えてんじゃん。多分、当たりだ。99.99%くらいの確率でな」

「ええ~? そんなのアリなわけ?」

「……問題ない。何なら、『願いを100個にする』事も出来る」

「ギャハハ! その場合、一個一個の『願い』はクソ雑魚になっけどな」

「ああ、分割されちゃうだけだもんね。『アストリオン』使えば実質無制限だし…」

「ま、サル知恵だな」


追加で、オレ様の見解をもう一つ話す。


「『第3の願い』はだな、この映像を見た感じでワカった。経験者は語るってヤツでな。あ、ジョゼ。ちょっとそこで止めて。ほれ、銀髪少年が着ている服があるだろ。なんか金属光沢のあるブカブカの服」


オレ様は手の先っちょで指差した。指は無いんだが、便宜上そう表現する。


「この服がどうしたの?」

「これ、悪魔ヘッジフォッグが化けてるぜ。つまり『第3の願い』は、奇しくもヴァイオラ、オマエと同じ。『宿』だ。しかも、アーマーが銀髪少年に接続されているみてーだな」

「ははぁ、それで『アストリオン』の使用条件を整えた、というわけね」

「ああ、事実上、って訳だ」


ヴァイオラが目をキラキラ輝かせながら、オレ様へ感嘆の声を上げる。


「すごいよバロック!! 5つのうち3つも判るなんて! 天才!!!」

「い、いやー! ま、まあな! えへへ」

「ま、でも、実際に会った印象とかなり近いよ。すとんと腑に落ちたわ」


バッドロックも負けじと長考しつつ推理を挟む。


「……残る『第4の願い』と『第5の願い』は、必殺技に関わるものか、もしくは――――『未使用』という可能性もある。を残しておくのは、非常に強い手札だ」

「確かに。実際、オマエもそうだからな。ヴァイオラ。『第3の願い』を残しているのはメチャクチャ有利だぜ。どんな相手が来ても、『願い』1つで戦況ひっくり返せるからな。ただ、その場対応の一発技になっちまうから、後々使えねーけど」


ヴァイオラは小首を傾げて答える。


「それは気が進まないなぁ。……流されてじゃなく、『願い』は自分で決めたいもん。『第2の願い』も、ジョゼに殺されかけたから願ったんじゃなくて、『星紋装纏アストラ・ドレスト』を見て、ああ、あれいいな、綺麗だな、かっこいいな、欲しいな、……って思ったから、願ったんだよ!」

「やっぱりパクリじゃねーか!」

「そうだね。えへへっ」


ヴァイオラは屈託のない笑顔で笑った。ヴァイオラにとってジョゼは、ある種の憧れなんだろーな。大人びてて、圧倒的で、弱みも簡単に見せて、そして強い。そういう意味での『好き』なのかな。


「……ま、いっか」


ヴァイオラはオレ様を抱きかかえたまま、頭を乗せてきた。メッチャ重い。ジョゼはそんなヴァイオラとオレ様を見ている。


「あーあー重いな―。人間の頭は体重の10%くれーだってよ。今4.8kgくらいがオレ様の頭上に感じられるなあ……。つまり体重は……」

「あああああ~~~! それ以上いうな―――!!!」

「……アンタ達は最高のコンビだね」


その時、ジョゼがピクッと耳を動かし、悪魔っぽい顔つきをした。


「――フライピッグの動きが感じられる。でもなにかヘン。『宿主』の力が四方八方に漏れ出して――。何かが起こっているみたい」

「アレか、神父のおっさんに視られた時の感覚、ってヤツか」

「中東に居るんだよね。行ってみようか。3人なら大丈夫だと思うし」

「オマエも行くか? バッドロック」

「……いや、やめておく。オマエ達の話しは流れが速い。疲れてしまった……」


そう言って、バッドロックは寝床にごろりと転がった。黒い袋状の頭をしているもんだから、ホントにゴミ捨て場みてーになっちまった。いや、ドット2つのカワイイお目々がついてるから、ゆるふわな事にはちげーねーけど。


「じゃ、色々ありがとな。ゆるふわ。助かったぜ」

「……ではな、……」


そう呟くと、バッドロックとその棲家はスウッと消えていった。その代わりに、例のヤバい空間が画角内に滲み滲みしてくる。オレ様はメチャクチャ嫌な予感がして、恐る恐る上を見る。――そこには、顔を真っ青にして口を片手で抑え、涙目で震えているヴァイオラの姿が――


「あ」




ああ……



to be continued...

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