カラーズ・オブ・アストリオン

ARMYTOM

第一章『王の儀式』編

第1話 王の儀式ってやつ

『目を覚ますのだ、我がしもべたちよ――』


 クソッたれジジイの声が響いた。オレ様は重いまぶたをけだるげにこすると、くあ……と背伸びをした。傍らには割れた鏡が散乱しており、カシャン……カシャン……と誰かが歩いて近付くのを、ご丁寧に知らせてくれた。


「おい、聞いたか白饅頭しろまんじゅう。千年経ったらしいぞ」


 このオレ様に対し、白饅頭などと不敬な呼称を用いるのは、全宇宙見渡してもたった一人しかいない。不細工な黒い被り物をした、二頭身ゆるふわクソ雑魚悪魔、バッドロックの野郎だ。なぜか柑橘類のようなイイにおいがしていて、鬱陶しい。こいつはオレ様と同じくドグネク族の一人であり、オレ様の一番苦手な野郎だ。


「黙れゴミ袋。相変わらず短い手足しやがって。オレ様はではない。目見え麗しきドグネクの宝玉……バロック様と呼べ」

「オマエも二頭身だし手足短いだろうが。ぷにぷに頭がよ」

「や、やめろ! つっつくな!」


 その、千年がどうとかいうのは――、実にめんどくせー話なので、サクッとまとめると。


「千年に一度の……」

「ああ、下界の生物に進化を促すための儀式だ。前回から千年が経過した。7つの族長が各々、のだ。その7名の者どもを競わせ、生物界の新王を決めるのだったな」

「オレ様に言わせろよ!」

「で、今回はオマエの番ってことだ」


 最悪なことに、ドグネク族には族長制度がないため、持ち回りで儀式を執り行わねばならないのだ。ゆるふわゴミ袋バッドロックさえずるとおり、今回はオレ様の番ってわけ。トレードマークの真っ赤な蝶ネクタイをぱちんと締め、盛大な溜め息をついた。


「はぁー! めんどくせえ!!」

「諦めろ」

「クソったれジジイのやつ、隕石にでもぶち当たって死なねえかな」

「ヤツの存在はそういった次元の話じゃないからな」

「…? ちょい待て、クソったれジジイがなんかまだ、ボソボソ言ってるぜ」


『……下界生物の進化は此度こたびの儀式をもって、終わりとし……』


「はぁ!?」

「え、マジか」


『……新たな王を輩出した族長に全権を委任し、我の後任とする……以上』


 そこではぷっつりと切れた。展開も急すぎるし、説明も雑すぎる。何十億年も管理者やってたヤツのやることか。丸投げにも程がある。そこかしこでひそひそという囁きが色めきたつ。


「ウッソだろ。下界のブラック企業でももっとマシな引継ぎすんだろーがよ」

「へえー。新たな神さんになるってことか。よかったなオマエ。少しはやる気出たか? お山の大将になれるぞ」

「いや、最悪だろ……。うっかり勝っちまったら未来永劫クソッたれジジイ呼ばわりされんだぜ。そんなのお断りだ」

「オマエはメスだから、クソったれババアって呼ばれるだろうな」

「はあああ、やめてくれ想像したくもない。

 ……っつかってなんだ殺すぞテメエ!」


 オレ様が睨みをきかせると、ゆるふわゴミ袋バッドロックは肩をすくめた。


「どーせ悪魔は死なねーだろ。ともあれさっさと下界に行って、とっととやること終わらせるんだな。勝つ気ねーなら適当にやってくりゃいいだろ」

「まあ、な」

「じゃあな白饅頭」

「死ね」


 かくしてオレ様、バロックは……

 一縷のやる気もなく、下界に降りたのだった。

 そして……なんか草の生えているところに適当に寝転がった。


 適度な文明が育ち、適度に諍いがあって、適度に平和で……。素っ頓狂な青い空、ゆるゆる流れる白い雲……。嗚呼、刺激もなんもねー、つまんねーとこ。新王なんか知ったこっちゃない。他の連中に、勝手にやってもらえばいい。とにかく眠い。意識が深淵の底へ底へと流れ落ちていく。オレ様の頭脳っぽいところに闇の暴虐が満ちていく。事象の地平線がオレ様の眼窩のブラックホールに吸い込まれそうで吸い込まれない辺りをグルグル回ってる。つまりメッチャ眠いってこと。


「ふあぁ……、もう最初に出会ったヤツでいいか。めんどくせー」


 そしてオレ様の意識はなくなった。

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