奮闘

「ぐああっ!!」


 機械ラプトルに突き飛ばされたボギーが、私の足元に転がってくる。


「ボギー! ――きゃあっ!?」


 カレンもまた機械ラプトルにくわえあげられた後に、無造作に投げ飛ばされてしまう。


「二人とも!」

「くそっ、オレたちの力ではここまでか……!」


 悔しげにうめくボギーを見るなり、ハンナが私に呼びかけた。


「デューク、アタシを乗せて!」

「しかし、また操縦が利かなかったら……」


 先日のこともあって躊躇う私だが、彼女の真剣な眼差しでこちらも決心がつく。


「――よし、共にこの窮地を乗りきろう!」

「うん!」


 私が頭を下げると、ハンナはクリアオレンジのキャノピーを開けて中に乗り込む。

 すると今度はキャノピーがちゃんと閉じてくれた。


「いけるな、ハンナ?」

『うん! いっくよー!!』


 威勢のいい掛け声と共にハンナがハンドルを握ったとき、私の身体がそれに準じて動き出す。


『良かった、今度はちゃんと操縦できてる……!』


「感動してるところ悪いけど、今はそんな場合じゃないですよハンナちゃんっ」


 いつの間にか私のすぐそばでホバリングするクワガタくんの背中からウィルに呼びかけられ、ハンナも俄然気合いを入れだした。


『そうだね、今はここから脱出しないと!』

「カレンちゃんとボギーくん、乗ってください!」

「分かったわっ」


 ウィルがクワガタくんから垂らしたかごに乗るよう、カレンとボギーに促す。


『それじゃあいくよ、ウィルもついてきて!』

「はい!」


 それからハンナがハンドルを切ると、私は二本の脚で地面を蹴って前進した。


『ほらほらどいて~!』


 逃げ道を塞ぐように前で立ちはだかる機械ラプトルたちも、ハンナの操縦で蹴散らしていく。


 彼女のおかげで背中の得物も使えるから、敵の射撃も怖くない!


 ウィルを乗せたクワガタくんと共に走る私だが、すぐに四方を取り囲む崖に阻まれてしまう。


「しまった!」

『そんな、どうしよう!?』


 逃げ道を失って私たちが右往左往しているところに、千を越える機械ラプトルと機械クワガタが背後に構えていた。


 その集まりの中から黒い機械ラプトルに乗ったヒドーラと、白い機械クワガタに乗ったオロシが出てくる。


「貴様もそこまでのようだな」

「伝説のティラノ機、みすみす逃がしませんぞ?」


 ニタニタといやらしく笑う二人の悪党を前に、ハンナはまずウィルに指示をした。


『ウィル、あなたはカレンたちを連れて先に逃げて!』

「えっ! でもそれじゃあハンナちゃんとデュークさんはどうするつもりなんですか……!?」

『心配しなくても平気だよ。ここはアタシたちが引き受けるから、早く!』

「わ、分かりました!」


 ウィルがクワガタくんを操縦して垂直に上昇するのを見届けたところで、ハンナは私にこう告げる。


『デューク、もうちょっとだけ頑張れそう?』

「ああ、これもハンナの胸のおかげだっ」

『もお~。でも、これでアタシたち無敵だね!』

「おう!」


 ハンナとの絆を確かめあった直後、目の前のヒドーラがこんなことを提案してきた。


「伝説のティラノ機に見初められし小娘よ、我輩の配下に下る気はないか?」

『はぁ?』

「そうだなあ。貴様が力になるなら、我らの世界征服が成し遂げられた暁にその半分をくれてやろう。どうだ、いい取引だとは思わないかね?」


 腕を大きく広げてどこぞの魔王が言いそうなことを吹聴するヒドーラだが、ハンナの答えは決まっていた。


『あんたふざけてるの? デュークにひどいことするような奴に従うわけないじゃん。だいたいアタシ、世界なんかいらないし』

「――だとさ。残念だったなヒドーラ、私の相棒はそんな馬鹿げた提案に乗ったりなどしない!」


 ピシャリと断ってみせると、ヒドーラの顔がゆでダコのように真っ赤になる。


「貴様らは思っていたよりも大馬鹿のようだな! やれ、皆のもの!!」

「ははっ! 我らがリバイス団の名の元に!!」


 手下どもの士気が高まるあまり、脇目もふらず突撃してくる機械ラプトルと機械クワガタたち。


 それを私はハンナの操縦のもとで、背中のレーザーライフルからビーム射撃をかました。


『はああああ~~~!!』

「うおおおおおおおおおおお!!」


 ビームの乱射で機械クワガタと機械ラプトルたちが一撃で撃ち落とされていく。

 しかし数が多すぎる、撃っても撃っても次から次へと押し寄せてくる!


『こんなのキリがないよ~!』


 弱音を吐きかけるハンナに、私は少し考えた。


 あの夢でかつての私は口から強大なビームで敵を一掃していた、あれさえ使えれば……!


『――待って、今のイメージは……!?』

「どうした、ハンナ!」

『今アタシの頭の中でデュークが口からものすごいビームを出してたよ! これは……あった!』


 ハンナがコックピット内のモニターを操作すると、私の身体が突然目映く光り始める。


「な、何だ!?」

「何が起こっておりまするのじゃ!?」


 ヒドーラとオロシの二人が目を見開いてるのをよそに、私は身体の随所に新たな装備を獲得していた。

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