ハンナとの仲直り

「ウィル! どうしてここが分かったんだ!?」


 派手に不時着して煙を燻らせるクワガタくんの背中で、ウィルがはにかみながらこう答える。


「話は後ですっ。ボギーくんたちもハンナちゃんを救出に向かってるところなので、今はこんなところから脱出しましょう!」

「しかし私は今――」


 人が変わったようにハキハキと脱出を促すウィル戸惑ったところで、私はすぐそばでバッテリーのようなものがクワガタくんの下敷きになって破壊されているのが確認できた。


 電流さえなければこんなものっ!


「ぬううううん!!」


 全身にありったけの力を込めると、絡みついていた鎖とワイヤーが呆気なく千切れた。


 自由の身になったところで、私は仮面の連中を鬼の形相でにらみつける。


「ひいいいっ!?」


 今までよくも私をこんな目にあわせてくれたな、その報いは受けてもらうぞ!


「うおおおおおおおお!!」

「ひいいいいいいいいいいお助けーーーーーーー!!」


 恥も外聞もなく逃げ惑う仮面の連中。


「何をやっている! 奴を取り押さえろ!!」


 慌てふためくヒドーラの激でこちらに駆けつけてきたのは、機械ラプトルに乗った連中と機械クワガタに乗った連中。


 全部で数百はいそうだ、果たして逃げ切れるか……?


 敵の数にしり込みしかけたところで、ウィルが改めてクワガタくんに乗り込んでいる。


「お願いしますクワガタくんっ、もうちょっとだけ頑張ってください!!」

「キ……キリャーーーーーーッ!!」


 身体から煙を燻らせながらも、クワガタくんはウィルの気持ちに応えるかのようにおおあごを振り上げた。


 クワガタくんでさえ諦めていない、ならば私とてここを踏ん張らないでどうする!


『何だ貴様らは――うおっ!?』


「何事だオロシ!?」

「どうやら捕らえていた小娘が何者かによって逃がされたようですじゃ……!」


「どうやらボギーくんたちもうまくやってくれたみたいですねっ」


 なおも動揺するヒドーラたちに対し、ウィルはニヤリと得意げに笑みを浮かべていた。


 ハンナも無事に解放されたんだ、後は合流するだけ!


「うおおおおおおおお!!」

「行っけえええクワガタくん!!」

「キリャーーーーーーッ!!」


 それから私とクワガタくんは、全力で駆け出して目の前の敵どもを蹴散らした。


「うわああああ!?」

「のおおおおおお!!」


 この前の戦いと違って奴らはパニックに陥って統率が取れていない、これならいける!


 この混乱に乗じて私たちはこの場から離脱し、ハンナとの合流を目指した。


「デュークさん、あっちです!」


 ウィルの指示で向かった場所に、ボギーとカレンの二人に肩を預けたハンナの姿が見える。


「ハンナ! 無事か!?」


 すぐさま私が駆け寄るが、ハンナはどこかバツが悪そうに顔を背けた。


「デューク……無事だったんだね」

「ああ、このくらい私にはどうということはないっ」

「そっか、そうだよね。デュークはアタシなんかいなくたってやっていけるよね……」


 やはりハンナの様子がおかしい。


 それを感じ取ってか、カレンがハンナの肩を押して、追い付いてきた機械ラプトルと機械クワガタを迎え撃つ体勢にはいる。


「ここはわたしたちに任せて、あんたはデュークとホントの仲直りをしなさいっ」

「え?」

「いいから早くしろ! それまでここはオレらが食い止める!!」


 そう言うが早いか、ボギーが機械ラプトルたちに突進し、カレンがスナイパーライフルを構えて狙撃の体勢になった。


 二人が用意してくれたこの場でハンナとのわだかまりを解けということか、恩に着るっ。


「ハンナ、……あれから何があったか私に教えてくれないか?」


 正直悩める少女に声をかけるなんて今までなくて少し躊躇ってしまうが、ハンナは素直に答えてくれた。


「デューク、あの時ガソリンが動力源になるって喜んでたよね」

「そうだな。これでハンナに恥ずかしい思いをさせずに動けると思ったんだ」

「――そうじゃないんだよ」

「ん?」


 うつむいた後にハンナは豊かな胸に握りこぶしを添えて、思いの丈を吐露する。


「アタシ、それ聞いてデュークがアタシのこともう必要としてくれなくなったんじゃないかって、すっごく不安になっちゃったの! だって、アタシがえっちなことをしなくてもいいんだったら、デュークに乗るの誰でもいいじゃん! そんなの、そんなの……アタシはイヤだよ!!」

「ハンナ、君は……」


 そう言いながらボロボロと涙をこぼすハンナに、私は言葉を失ってしまった。


 そうか、ハンナは私のエッチなお願いに応えることで絆の繋がりを感じていたんだ。


「お願いデューク、アタシを置いていかないで、ずっとずーっとアタシを必要としてよ……!」


 両手で涙を拭いきれずに号泣するハンナに、私は大きな顔を寄せる。


「デューク……?」

「すまない、私の無神経な発言のせいで君に誤解をさせてしまってたようだ……! ハンナが必要ないだって? 馬鹿なことを言うな、私には君がいてくれなければ駄目なんだ……!」

「デューク……泣いてるの……?」

「は……?」


 ハンナの言葉で気づいた、私の目からも機械油が涙のように流れ落ちていることに。


「ははは、どうやら私も大切な人のために泣くことができるみたいだな……」

「デューク……あはは、変なの~」


 とぼけるように笑った私に、ハンナも泣くのをやめて笑いだす。


 ――いかん、急に目の前が砂嵐でチカチカし始めた。先ほどは無理しすぎたのだろうか……?


「ハンナ、ちょっと失礼っ」

「ふえっ?」


 私がハンナの豊満な胸を口先で押すと、彼女は呆気に取られたように目を丸くする。


「ああ、柔らかい。コックピット内スコープで挟んでもらった時とは比較にならない触り心地のよさだ」

「ええええ、ちょっと待ってよデューク! 何やってんの~!?」


 ハンナが止めるのも聞かずに、私は彼女の胸をムニムニと揉むように触れてその感触を堪能した。

 口先で押すごとにハンナの胸はムニムニと形を変え、その都度彼女の口元がこそばゆそうにぎゅっと結ばれていく。


 本当は手で触れたかったのだが、あいにく腕が短くて彼女に届かないのだ。


「ああ、身体に力がみなぎってくる。ガソリン飲んでもこうはならないぞ。それにいい匂いだ、なんだか心が癒されるようだ」

「そ、それは良かったよ……。でもっ」


 それから距離を取ったハンナが、胸を隠して頬をプクーっと膨らませながらこんなことを。


「そういうことするならアタシに一言言ってよ? 言ってくれればアタシだって何でもさせてあげるんだからっ」


 そんな彼女を見つめていたら、お互い吹き出してしまった。


「あはは、変なの~!」

「だけどいつものハンナに戻ってくれて良かったと思う」


 こうして私はハンナと本当の意味での仲直り・・・することができたのである。

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