武装ラプトル&クワガタ襲来

 ハンナを乗せた私が慌てて拠点のプレハブ小屋へ駆け戻ると、表に出たボギーたち三人が空を見上げている。


『みんな大丈夫~!? なんか変なのがこっちに来てるみたいだから、慌てて戻ってきたんだけどっ』

「ハンナとデュークか! ああ、それはオレらも気づいてる。けど何なんだあれは……!?」


 空を注視するボギーの視線の先には、クワガタのような姿をした機械が何体もこちらに飛んでこようとしているのが私たちにも確認できた。


「もしかしてあれもデュークさんやこの前の機械ラプトルと同じ類いなのかな~!?」

「そんなこと言って興味津々になってる場合じゃないでしょ、ウィル。何にしても嫌な感じがするわ、みんな気をつけて!」


 カレンの声掛けで皆が警戒の糸を張って身構える。


 そうこうしてるうちに頭上にまで迫ってきた機械クワガタが、六本の脚で抱えていた何かを地面に投下した。


「あいつは機械ラプトルじゃねえか!」

「だけどこの前のとどことなく違いますよボギーくん!?」


 二本の脚を踏みしめて着地した三体の機械ラプトルたちは、ウィルの言う通り頭部や身体の所々に赤茶色の装甲をまとっており、さらに腕には機銃のようなものも取りつけられている。


 そんなことを確認していると、機械ラプトルのうち一体の首筋にまたがっている仮面の人が声を張り上げた。


「お前が未知の恐竜機アニマジンね!」


 全身をピッチリとしたスーツで覆っている上に顔も仮面で隠されているから分かりづらいが、声の感じと身体の起伏からしてあの者は女性であることがうかがえる。


『アニマジン?』

「何のことかしら?」


 聞いたことのない単語にハンナとカレンが首をかしげると、仮面の女の両隣でそれぞれ機械ラプトルに乗って控えていた連中がいきなりいきり立った。


「しらばっくれても無駄だ! あのお方の命によって我々がその未知なる青い恐竜機アニマジンを頂く!!」

「大人しくそいつを差し出すならば、貴様らに手出しはせん」


 女の手下と思しき男二人の言葉から察するに、奴らの目的はこの私であろう。


 そのことを瞬時に察したのか、ハンナが仮面の三人組に対してこう言い放った。


『恐竜だかあにまじんだから知らないけど、デュークは絶対渡さない!!』


 拡声器越しのハンナの言葉に、リーダー格と思われる女が深く息を吐いてから手を前に突き出す。


「どうやら我々に従う気はないみたいね。それなら覚悟なさい!」

「よっしゃ、実力行使なら我々に敵うものはない!」


 それは突然のことだった、謎の三人組との戦いの火蓋が落とされたのは。


「行くわよお前たち!」

「「あいあいさー!!」」


 仮面の女が指示を出したところで、三人組が機械ラプトルを駆って突撃してくる。


『アタシたちだって負けないんだから!! 行くよデューク!』

「承知した!」


 ハンドルを握ったハンナの操縦で私が一歩を踏み出した途端、三体の機械ラプトルが両腕の機銃を乱射し始めた。


「うおっ!?」

『ひゃあっ!?』


 思わぬ攻撃で私がたじろいだ隙に、覆面の男たちが駆る機械ラプトル二体が飛びかかってくる。


「「グーギュルルル!!」」


「デュークさん、危ない!!」


 ウィルの注意で我に返った私は、飛びかかってきた機械ラプトルの一体を強靭なあごで噛みついて捕らえた。


『そのまま噛み千切っちゃえ!』

「むぅん!!」


 くわえたまま頭を大きく振ると、噛みついた機械ラプトルの首がもげて胴体が地面に叩きつけられる。


「のおっ!?」


 この拍子に乗っていた覆面の男が投げ出され、地面に勢い良く転げる。


 だがこの合間に攻撃を逃れた方のもう一体が、私の身体にしがみついて足の鋭い爪を食い込ませた。


「ぐっ!?」


『デューク! しっかり!!』


 ハンナの叱咤激励のおかげでどうにか気を保った私だが、反対側から女が乗る機械ラプトルが機銃で射撃してくる。


「ううっ!!」


 さらに悪いことに、空中から機械クワガタたちも機銃で一斉に射撃を始めた。


「はわわわ、デュークさんがピンチです~!」

「落ち着いてウィル、こうなったらわたしも援護を……きゃあ!!」


 スナイパーライフルを構えようとしたカレンの前に、女を乗せた機械ラプトルが跳躍して立ちはだかる。


「おっと、邪魔はさせないわよ」

「この……!」


「カレン! うおおおおおおお!!」


 ボギーも大剣を抜いて突っ込もうとするが、機械ラプトルの射撃に怯んでしまった。


「くっ!」

「ボギー!!」


「数では我々に分がある、諦めるがいいわ!」


 勝ち誇ったように声をあげる覆面の女。


 奴の言う通りこのままでは我々が不利だ、どうすれば……!

 私にも奴らみたいに飛び道具を使えれば良いのだが。


『――そうだ! 何か使えそうな装備はないかなあ!?』

「そんなものがあるのかハンナ!?」

『えーっと、確かモニターに装備のカタログみたいなのがあったから……うん、これにしよっと!』


 そういってハンナが何かを操作した次の瞬間、私の身体から急に力が抜けて目の前が霞んでしまう。


 それと同時に外にいる全員が私を見てびっくり仰天した。


「何だあれは!」


「装備が独りでに構築されただとぉ!?」


 私の身体に何が起きたのだろう。


 気になって背後を振り返ると、私の背中に大振りなライフルのようなもの二門がいつの間にか搭載されていた。


「これは……!?」


 当の本人ながら私が口をあんぐり開けていると、コックピットの中からハンナが説明を始める。


『レーザーライフルだよ、これがあれば遠くの敵だって怖くないはず!』


 そうか、ハンナがこれを搭載してくれたのか。


 確かに銃火器があればこちらも遠距離から攻撃ができる!


『それじゃあ行っくよー! レーザーライフル、|発射(ファイア)ぁ!!』


 叫んだハンナがハンドルのトリガーを引いた途端、背中のレーザーライフルからビームが放たれた。


「きゃーーー!!」


 ビームが命中したことで、女の乗る機械ラプトルが木っ端微塵に爆散する。


「隊長ーーー!?」


 隊長格が撃破されたことで、私にしがみついていた機械ラプトルの爪のかかりが浅くなったのを感じた。


「そらぁ!!」


 このチャンスを逃さず私は身体を揺すって機械ラプトルを振り落とし、それからそいつを思い切り踏み潰す。


『次はあいつらだよ!』

「ああ!」


 続いて空を旋回する機械クワガタ共に目を向けるなり私は奴らにビーム射撃をお見舞いした。


「ぐはっ!!」

「のおおおおおおお!?」


 ビームの連射で次々と撃ち落とされる機械クワガタたち。


「撤退だ!」


 しまいには最後の一体になった機械クワガタが仲間を回収してその場を飛び去っていってしまった。

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