リバイス団の野望

ハンナの笑顔


 デュークたちが機械ラプトルと戦った翌日、かの泉に灰色の服を着た仮面の三人組がやってきていた。


「くそっ。野良・・のアニマジンの捕獲を命じられて来てみたら、また雑魚のラプトル機じゃないか! しかももう壊されてやがるし!」


 三人組の一人が文句を垂れながら、潰れた機械ラプトルを乱暴に蹴りつける。


「これじゃあヒドーラ様に何て報告すればいいんだっ」

「でも収穫ゼロってわけでもなさそうだわ。これを見て」


 体型からして女性と思われる一人が、機械ラプトルのそばに散見する大きな足跡を指差した。


「こいつは?」

「分からない。だけどラプトル機のものよりもかなり大きい足跡だわ」

「ってことはこの場所にラプトル機よりも大きくて強いアニマジンがいたということか?」

「単純に考えたらそうなるわね。もう少し調べてみましょ」


 女性の提案で彼らが辺りを調べてみると、程なくしてその足跡がアルバスタウンに向かって連なっているのを発見する。


「こいつをたどればそのデケぇアニマジンに行き着くってわけだな」

「とりあえず基地に戻ってオロシ教授に報告よ」

「はっ。我らがリバイス団の名の元に」


 ――デュークとハンナの知らないところで、謎の組織が暗躍しているのであった。



 機械ラプトルの残骸の一部をクエストセンターに持ち帰ってから三日経ったこの日、私はハンナに機械の身体を洗浄してもらっていた。


「どう、気持ちいい~?」

「ああ」

「今までデュークもがんばってたもんね~。ご苦労様っ」


 ハンナにスポンジで労うように洗われるのが、夢見心地になるくらい気持ちいい。


 ついでに言うと今の彼女は濡れてもいいよう黒いタンクトップにスパッツという、極めてラフな格好だ。


 出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるハンナのボディーラインがきれいで、思わず目がいってドキドキしてしまう。


 こんな感じでチラチラと見ていたら、さすがに気づいたのかハンナは豊かな胸の膨らみを肘で寄せあげてこんなことを。


「もー、デュークってばアタシのおっぱい見てんのバレバレだよ~?」

「む、すまない」


 慌てて顔を背けた私に、ハンナはぷくっと頬を膨らませたかと思えば今度はいたずらっ子みたいな笑みを浮かべた。


「デュークって、パンツだけじゃなくておっぱいも気になるんだ~」

「いや、それはその……」

「いいよ。アタシのおっぱい、見せてあげよっか?」


 そう提案してハンナがタンクトップの胸元をはだけさせようとしたので、私は慌てて止める。


「待ちなさい、あんまり大人をからかうものじゃないっ。そういう大事なところは本当に好きな人にしか見せてはいけません!」

「え~、前にも似たようなこと言ってなかった? アタシのことなら心配しなくてもいいのに~。デュークって見たいのか見たくないのかハッキリしないよねー」

「ハンナよ、私にも本音と建前があるのだよ。いくら私が人間でないからといって、君みたいな女の子に欲望を剥き出しにしていい理由にはならないと思っている」

「そんなものかな~? アタシにはよく分かんないや」


 ハンナがこんな調子で性に無頓着では私のリビドーがもたない、この娘にも困ったものである。


 とはいえそんな彼女のおおらかさのおかげで私もエネルギーに困ってないのも事実だが。


 気を揉む私のことも露知らず、この全身を洗ってくれたハンナは一息ついた。


「ふーっ。これでよしっと。これでデュークの身体もピカピカだね!」

「ああ、助かるよ」

「それじゃあアタシは着替えてくるから、デュークはちょっと待っててね~!」


 朗らかな口調でハンナはガレージからプレハブ小屋に戻っていく。


 少しするといつもの服装に着替えたハンナが戻ってきた。


「ねえねえデューク、アタシたちこの前のお仕事でいっぱい報酬もらえたじゃん?」

「そうだったな」


 ニコニコするハンナの言うとおり、機械ラプトルの調査及び討伐で彼女たちはしばらく生活に困らないだけの報酬を得ている。


 そんなわけで今日はみんなオフだってことは私も聞いていたが。


「アタシ、デュークに見せたいものがあるんだ! 一緒に行ってみようよ!」

「見せたいもの、か?」

「うん!」


 うなづいてから朗らかな笑顔を見せたハンナの提案に、私は乗ることにした。


 やはり可愛いハンナの頼みは断れないな、まるで愛しい娘を持った気分である。


「分かった。私でよければご一緒しよう」

「わーい! ありがとね、デューク!」


 心底嬉しそうなハンナの前で私が顔を下げて頭のコックピットに乗るよう促すと、彼女は軽やかに飛び乗ってコックピットに搭乗した。


『それじゃあ出発進行~!』


 ハンドル越しの指示で私はハンナを乗せて町を歩くことにした。


 それなりに車の通りがあるとはいえ、それに混じって道路を歩く私は大変目立つのか周囲の視線が注がれるのを感じる。


『えへへ、アタシたち有名人になった気分だよ~!』

「嬉しそうで何よりだよ、ハンナ」


 私は正直いつクラクションを鳴らされないか気が気でないが……。


 とりあえず前後の車の迷惑にならないよう、歩くペースを少し上げよう。


 そうして歩くことしばらく、私は普段使ってる出入口とは反対側の方から町を出た。


「私に見せたいものとは?」

『いいからいいから~、それは行ってみてのお楽しみだよっ』


 軽くはぐらかされつつも歩みを進めた私は、アルバスタウンを一望できる小高い丘を登っていた。


 プシュー……と空気の抜ける音と共にクリアオレンジのキャノピーを開けたハンナが、私の目の前に飛び降りる。


「じゃーん! どう? いい眺めでしょ~!」

「ハンナは私にこれを見せたかったのか?」

「うん!」


 私の問いかけにうなづいたハンナは、続いてこんなことを語り始めた。


「アタシね、仕事とかで失敗しちゃったときとか悩みがあるときはいつもこの丘に登ってアルバスタウンを眺めてたんだ。こうやって町を眺めればクヨクヨしそうな自分とか悩みとかがちっぽけになってね、またがんばれるわけ」

「ハンナ……」


 そう語るハンナの眼差しはとても穏やかで、この年頃にしては達観してるようにも見える。


「だからね、こんなアタシの大好きもデュークと共有したくって。アタシ、もっとも~っとデュークと繋がりたい! そしたらアタシたち怖いものなしだよね!」


 この瞬間ときハンナが見せてくれた満面の笑顔がとても眩しくて、私の脳裏にすぐ焼きついた。


「ああ。私もハンナのことをもっと知りたい。だからこれからもよろしく頼む」

「もちろんだよデューク!!」


 ハンナが差し出した手を、私はたった二本の指しかない手で握手する。


 この娘と絆で結ばれることが今の私にはかけがえのない喜び、それが今分かったのだ。




 感銘に浸っていたのもつかの間、私の耳が何か巨大な虫の羽音のような重低音をとらえる。


「どうしたの、デューク?」


 足元でキョトンとするハンナに構わず目を凝らして見通してみると、空から何かが町に迫ってくるのが目に飛び込んだ。


「ハンナ、乗れ!」

「う、うん!」


 ハンナを頭のコックピットに乗せた私は、仲間たちが待つプレハブ小屋に急ぐ。


 胸騒ぎがする、何事もなければ良いのだが……!

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