第8話 動き出したカーソル
僕の机の上に真新しいタブレットパソコンが置いてある。
今日、健兄さんと買って来たものだ。
久々の外出は大変だった。
主に健兄さんが…。
冤罪のあった本屋ではないのに、本屋を見ると僕は
通っていた私立中の制服で歩いている生徒を見ると、気分が悪くなって吐きそうになった。
その度に兄さんは僕が落ち着くまで待ってくれて、フォローしてくれた。
タブレットパソコンを買う時も店員さんと僕の間に入って壁を作ってくれてた。
普通に歩いていて眩暈や吐き気に襲われたのは初めてだった。
一定の条件、本屋と通っていた私立中の制服が引き金になっていた。
「PTSDかもしれないな…」
って兄さんが言ったけど、病院…今の僕には無理ぽかった。
昨日まで引きこもっていた僕にはハードルが高い。
医者といえど知らない人に自分の事を直ぐには話せない。
医者だから話せ、って強要されても無理だ。
「ゆっくりでいいいんだ。一つでもやろうと思えばスゴくパワーがいるだろう?少しずつ進んでいけばいい」
「兄さん…」
「そう思えばビートボックスを始めることは良い選択だったな」
「ん…僕もそう思う。一人から始められるし…いずれは誰かとビートボックスをしてみたい…今は無理だけど……」
「そう思えるだけで上出来だよ」
「これも『幸運のボカロソフト入りノートパソコン』のおかげかな」
「だな」
そんな会話を交わしながら購入してきたタブレットパソコンだった。
「タブレットパソコンを兄さんが進めたのは、いずれ外に出た時でも使えるように、って思ったからかな」
言葉にはしなかったけど、そんな気がした。
タブレットパソコンの横にはノートパソコンが置いてある。
最初は『幸運をもたらしてくれる妖精が住んでいる』と言われて
『…どんなファンタジーなん……』って言っちゃったけど……。
「本当に幸運をもたらしてくれる妖精がいるって思っちゃったよ」
言いながらパソコンを開いた。
えっ!?
そこで僕はあり得ない光景を目にした。
僕は動かしていないのに、カーソルが勝手に動きだしたのだ。
カーソルが動いて画面が切り替わる。
画面はニュースサイトのようだった。
『万引きの冤罪を着せた少年補導される!』
記事を読む。
あの同級生は僕に冤罪を着せただけではなく、他の少年に万引きを強要したり、金品を強要したり、自殺を強要したりしたことが発覚して補導されたとなっていた。
僕の動画を見た被害者の少年たちが自分も被害にあったと親に告げ、次々警察に訴えたことで捜査が入り発覚したとも書いてあった。
「金品を要求されたり自殺しろと言われてたりした被害者もいたんだ…これか、彩音が言っていたあれやこれやとは……」
思う間もなく再びカーソルが動き出す。
タブを閉じてデスクトップ画面に移り、ボカロソフトをダブルクリックした。
起動するボカロソフト。
カーソルは止まらない。
流れるように動いて画面に線が引かれて行き、文字が入力されて再生がクリックされた。
「―こんにちは―」
!?
ボカロ音声が耳に届く。
「ボカロソフトの…妖精さん?」
再びカーソルが動き再生がクリックされる。
「―わたしは この中にいる―」
「中にいるんだ…」
妖精は否定しなかったよ……。
思いながら、兄さんと妖精さんがいるかもしれない、妖精さんに感謝だと話していたせいか、ファンタジーな展開をすんなりと受け入れている僕がいた。
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