第6話 拡散

 僕は机の上に置いたノートパソコンに向かい、これからのことを考えてみた。


 自分に問いかけた質問をシートに打ち込み答えていく。


【学校に行きたい? 答えはNO】


 噂だけで物事を判断し態度を変えた者たちと一緒に学びたくはなかった。

 

 自分で思ってた以上に僕の心は傷ついていたのかなぁ…。


 彩音の通う公立中学も考えたが……。

 やっぱり学校へは行きたくない。

 時間が経てば通ってみようか、と思うかもしれないが、今は無理と結論した。


【僕を万引き犯に仕立てた同級生に復讐する?  答えはNO】


 復讐なんて心に余力のある者か、復讐そのものに取りかれた者がすることだ。

 どちらにしても動くには力がいる。

 幸か不幸か僕には今そのパワーはない。

 現実なんてそんなものだ。


 あいつなんかどうでもいい!

 怒るに足らないやつだと思考から抹消する!


 これが案外一番楽だったりする。


【ビートボックスは続けたい? 答えはYES】


 今の僕はビートボックスに夢中だ。

 楽器も何もいらない。

 一人でもできる。

 練習すればするほど上手うまくなってやりがいがあるし、楽しい。


【両親と話す?  答えは兄さんに要相談】


 YESにしなきゃいけないんだろうけど……。

 僕を信じてくれなかった両親に、まだ何のわだかまりもなく話せる自信がなかった。


 最初から僕を信じて味方になってくれた兄さんには甘えてばかりだけど、許してくれるかな…。


 考えてたら、兄さんからメッセージが入ってきた。


【総の冤罪の動画見たぞ!】

【すごい勢いで再生数が上がっているな!】

【明日時間作って帰るからその時色々話そう】


 えっ!?


 忙しい合間を縫って連絡してくれたのか、僕の返事を待たず、メッセージだけ残していったみたいだ。


【明日待ってる】


 それだけ兄さんに返信して、僕はあの動画を探した。

 ブックマークしたわけじゃなかったから見つかるかな、と思ったけど簡単だった。


「冤罪 少年 万引き」で検索したらトップで出てきた。


 短い動画なのに再生し、再読み込みする度に100単位で再生数が上がっていく。


「バズってる…」

 

「総ちゃん!!」

「わっ!彩音」


 いきなり彩音が僕の部屋の前の自宅の窓を開けて叫んできた。


「拡散されてるよ!」

「何が?」

「『冤罪の真実』と総ちゃんをハメたヤローの悪事の数々!!」


 はっ!?


「『冤罪の真実の動画からネット民の犯人探しが始まって、総ちゃん以外にも万引きの濡れ衣を着せていたことや過去のいじめ、結構裏でヤバいことしてたあれやこれや、名前に家族構成、住所…」

「待って!待って!あの映像だけで何でそんなことわかるの!?」

「制服が映ってたからじゃない?」

「・・・」

 

 サラッと言い切った彩名に絶句する。

 あの映像だけでそこまで調べてそれが拡散されるなんて信じられなかった。


「良かったね総ちゃん」

「えっ?」

「これで皆総ちゃんが万引きしてない、って信じてもらえるよ」

「あ…ああ…」


 正直複雑な気持ちだった。

 僕の冤罪が独り歩きしている、そんな感じだった。


「じゃ、私も友達に『冤罪の真実』拡散しに行くからまたねー」

「おい!彩音!」


 言うだけ言って、彩音は僕の視界から去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る