TAKAHIRO-9L(タカヒロ ナインエル)デブが地球を救う

岩と氷

TAKAHIRO地球を救う!

第1話 俺たち、捨てられた?

「右25度より石接近!」


 ”なぜだ――”


 ひゅうううううううう!


「あっぶねー」


 ”なぜ、こんな事に――”


「おい、タカヒロ! 今度は左だ、左!」


 ドガァァーーーン!


「だいじょうぶかあああああ! 答えろ、タカヒロ――!」


<どんと、うぉ-りー>


 ”どうしてなんだ――”


 ヒュウウウウウウウウウ!


「お、おま、おま、みぎだ、みぎ―――――!」


 ガーーーーン!


「ひぃぃぃぃ! お前、そろそろ宇宙船が持たないぞー! 気をつけろっ、お前がやられたら、地球が終わるんだぞ!」


 ”どうして、お前なんだよ――”


 ヒュゥゥゥゥン!


「うわわわわ! もうちょっとちゃんと避けろー、俺の心臓に悪いだろーーー!」


 ”地球を守るために爆弾載せた宇宙船で小惑星に突っ込むのが、何でよりによって俺の親友のデブでキモくてノロマなお前なんだよ――”


 ちっきしょう、ちっきしょう!――あまりの無常に一郎は叫んだ。


「こういう役って普通、アメリカ人がやるもんだろうがああああ―――!」


          *


 ものすごい勢いで地球に近づいてくる小惑星に、地球連邦政府の科学者たちが気づいたのは、今からたった一週間前の事だった。


 急遽招集された安全保障理事会。小惑星を逸らすかぶっ壊す事までは瞬時に決まったものの、やり方をめぐってアメリカとロシアと中国がいつものように喧嘩を始めた。


 衝突まではもう一週間を切った、喧嘩している場合ではない……のにまとまらない三つの国。


「この分からず屋がー!」とキレた常任理事国ブラザースは世界中に中継されているカメラの前で、何とヘビー級世界戦並の本気の殴り合いを初めてしまった。


 いい歳こいた爺さん婆さんの殴り合いは世界中で高視聴率を記録、儲かるとふんだ動画配信サービスがノンストップ生中継を始めたおかげで、ブラザースは引くに引けないデスマッチ状態に陥った。


 はじめは「こいつら、またやってるよ」と、我関せずを決め込んでいた常任理事国のフランスだったが、殴り合いも二日目に入るとさすがに焦って、レフェリーを買って出た(いや止めろよ)。


 しかし案の定レフェリー自身がキレて「誰が自由の国にしてやったと思ってるんだー!」と叫びながらアメリカ代表をぶん殴ってしまい、議場はさらなる混乱に。


 残った常任理事国は紳士の国イギリスのみ、さすがは落ち着いたものだと皆感心していたら、実は裏でどの国が勝つか賭けをしていた事が判明、しかも賭けたのが他所の国の領土ときたから大問題に。事態は常任理事国総当たりの乱闘に発展した。

 それが三日目の終わりの事。さて四日目は――。


「もう小惑星じゃなくて、あんたたちのケツにミサイルぶち込むわよ!」


 と、やっちゃいけない切れ方をしたどっかの代表。


 慌てた「和の国」日本が割って入り、急遽代わりに案をまとめた……のだが。


 地球連邦の元になった国連において日本は最後まで敗戦国扱い。つまり外様であったため、「金を出せ、口は出すな」と長年言われ続けたトラウマがいまだに癒えず、各国にまんべんなく良い顔をした結果、できた案は……


「みなさん平等に1パーセントの核弾頭を軌道まで上げてください、それをうちが宇宙船に乗せてぶつけます。え? お金?……だって宇宙船潰すんですよ、あれいくらすると思って……。は? 『どうせウチのOEMじゃないか、また買えよ』って、アメリカさん、それはいくら本当とはいえ酷くないですか?……え?『あの密約バラすぞ』……すいません、じゃあ出します」って言う、いつものアレ的な経過でなんとか了承された。


 それからはアメリカと中国が軌道計算に使うスパコンをどっちの国のにするかで揉めて、結果が正しいかでまた揉めて、あっと言う間に五日が過ぎ……結局はずっと各国のコンピュータをハッキングしていた某北の国の案が採用されるというショッキングな結末を迎えたのが六日目の朝。


 計算に基づいて発射基地が決まったのはその日の夕刻、つまり期限ぎりぎりの昨日の事であった。


 そうして選ばれたのが、佐藤一郎たち足立第二十四高校二年生たちが、たまたま修学旅行で滞在していた、引退間近の国際おんぼろ宇宙ステーション九号「イブーシギン」だったのである。


 と言うわけで昨夜からイブーシギンには各国の核弾頭を積んだロケットが次から次へと飛んできている。


 しかしそのロケットのどれもがコストの問題とかで(人類存亡の危機だよね?)一回きりの使い捨てときたもんだ。


 からになった帰りの便に乗れるものだと思っていた生徒たちは、押し寄せるクラシカルなロケットの群れを窓から眺めながら、「あーこりゃ当面、俺ら返す気ねーわ」と悟らざるを得なかったのである。


 足立第二十四高校、愛称は”アダニョン”。


 世間では地を這うように低い偏差値で知られ、「アダニョンの生徒だからしょうがないね」とか、「だって、アダニョンだし」など、地元の皆さんから、生暖かい目で見守られている自称優良校である。


「金を出せ、声は出すな」と強盗まがい……もとい、「金を出せ、口は出すな」とどっかの横柄な国々から言われ続けた極東の島国のそのまた下町にあるこの優良校は、生徒の親が一人残らず二級市民で、要人と言える者は”寅さんの子孫”を自称する町内会の会長だけ(あれって葛飾じゃ……?)。


 そんな有様だから、厳しい階級社会である今の地球にあって、各国のお偉いさんたちが「こいつらなら捨てても無問題モーマンタイ」と考えたのは想像に難くない。つか、そうに違いない。

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