第19話 再出発


「ふわあぁ……」


 デウスが先に目覚めた。

 横で寝ているフィリアの寝顔を眺めながら、改めて2人とも生きている幸せを感じる。


「んー……っ。おはよぉデウス。起きてたの?」

「おはよう、フィリア。僕も今起きたところだよ」


 早朝から寝始めたため、今はしっかりと日が登っている。


「さてと! これからどうしましょうかっ!」

「そうだなぁ……とりあえずお父さんやバカ兄弟に見つからないように少しでも遠くに行かなきゃな。そろそろ探し回られているところだろう」


 フィリアはビクッとして青ざめた顔になった。


「やば……早く離れよ!! ここで見つかったら私のお父さんにデウスが殺されちゃう!!」


 デウスは頭をかかえた。フィリアのお父さんは極度の親バカだった。娘を溺愛してなんでもしてあげた結果、アホの子になってしまった。


「デウス、今失礼なこと考えてなかった?」

「えっ……べ、別に?」


 ふーん。と不満げなフィリア。アホでも勘は冴えすぎている。


「それじゃあ……とりあえず王都にでも言ってみる? 道中には魔物も出るだろうから倒しながらデウスの霊力を回復させて、途中で魔物の素材を売ったら生きていけるでしょ!」

「そ……そうだな! そうしよう!」

「……なに?」


 どうしてたまにめちゃくちゃ頭良くなるのだろうか。……と考えていたのが顔に出てしまったようだ。この女の勘はやばすぎる。


「そうと決まれば早くいきましょ!!」


 1人でエイエイオーをして進んでいくフィリアの後ろをデウスは微笑ましく思いながらついていった。






「生命の根源たる水の泡よ

 敵を包みて捕縛せよ 水の泡バブルウォーター!!」


 フィリアの両手から大きな泡が放たれ、ブラックリザードを包み込む。泡の中は水のため、ブラックリザードは何も出来ずにバブルウォーターの中でもがき苦しんでいる。


「そろそろいいぞ!」


 ブラックリザードが弱って動きが鈍ってきたため、泡から出してもらった。

 それじゃ、とブラックリザードの首元にナイフを入れる。


 たちまちふわぁー……とブラックリザードから霊力が吹き出し、デウスに吸収された。


「いつもすまないな、僕がいいとこ取りしてしまって……」

「いいのよ、減るもんじゃないし! ……にしても、まだ霊力は満タンにならないのかしら?」


 フィリアが気になるのも不思議ではない。ここはリーグレット領から王都までの丁度真ん中辺りの地域。ここまでにファストキャットやゴブリンなど、そこそこの量の魔物を倒してきた。


「それが……過剰なぶんは舌の辺りに霊力が貯めれるみたいで……」


 べっ、と出した舌には白い桐の花の文様が浮かんでいる。


「すごいじゃん! 貯めれるようになったらこれから安心で便利になるね!!」


 キャッキャとしているフィリアをみたら余計に嬉しくなった。


 その時だった。


「お逃げください! ここは私たちでなんとか…うわぁ!!!」


 騒々しい争いの声が響いてきた。それは奇しくも、新しい出会いの始まりであった。

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