サロメの冷笑
Kikujiro
養母との再会
養母が入院したという知らせを聞いて病院に駆けつけたのは、日曜日の昼下がりのことだった。
一対一で顔を合わせるのはいつ以来のことだろうか…
ずっと養母と会うことを避けてきたが、決して彼女が嫌いだったわけではない。むしろ、その反対であり、中学一年の頃に初めて彼女に会った時からずっと恋焦がれる存在だった。
「お母さん、具合はいかがですか?」
「ああ、直樹さん。来てくれてありがとう」
微笑む養母は元気そうな様子を見せていたが、心臓の状態は思わしくなく、いつ亡くなってもおかしくないと医師は話していた。
個室のベッドの白い掛け布団から覗いた脚は、酷く痩せていて、養母の老いを感じさせた。
その昔、あの脚から繰り出される回し蹴りなら、受けても構わないと思えるほど養母の脚に執着した。何度あの脚に挟まれてみたいと思ったことか…。
血が繋がっていないとは言え、不謹慎とも言えるこの感情を長年誰にも告げることはなかった。
間違いがあってはいけないと思い、二人で会うことを避けてきた。
だが、老いて初めて、普通の親子のように接することができるのではないか…。養母と久々にゆっくり話してみたいと思えた。
「直樹さんと二人で話すのは久しぶりね」
養母は品のある優しい笑顔を浮かべた。
昔はもう少し影がある笑顔の人だった。こんな風に温かく笑う人ではなかった。
死を目前にして、彼女の中で何かが変わったのだろうか…。
僕は養母の穏やかな笑顔に、何故だか一抹の不安を覚えた。
「直樹さん、今日、少し時間あるかしら?話しておきたいことがあるの」
僕の不安は的中した。
ぽつりぽつりと話し始めた養母の昔話は、彼女の幼い頃から始まり、友人や恋人との関係へと移っていった。
そして、刑事であった養父との出会いにも…。
ある事件をきっかけに彼らが出会ったということを聞いてはいたが、その真相を知る日が来るとは思ってもみなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます