無題

金城 佳世

プロローグ

枯人は大切なものを届けるために吹雪の中を歩いていた。

届けものが凍えて死んでしまわないように大切に抱える。


今日にかぎって大雪で、さらに天候は荒れている。


国自体はそれぞれの守護のもと穏やかだが、一歩外に出るとやはり厳しい。

道すらない場所を進んでいく。


柔らかで上等な毛布にくるまれた届けものに、また雪が積もった。

枯人は水分のない細く折れてしまいそうな指で何度も雪を払い落とした。


少しずれてしまった布の隙間から、赤子の目があらわれた。


見られた、泣いてしまう。


枯人はすぐに赤子の顔を覆い隠した。


布から視線を前に移すと、吹雪の中からほんの少し緑が見える。この子が育つ国だ。

無事に家についたら、成人になるまで自分が側で見守る。


大切な届けもの。枯人は子を抱きしめた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る