第26話

 和葉について行って最終的にたどり着いたのは人気のない公園。

「私、やっぱり認められないの」

 くるり。

 公園の中央に来た段階で僕の方にくるりと振り返ってくる。

 その表情は不気味なほどに無であった。

「ん?」

 和葉が取り出したのは一つの箱。

 パズルのような装飾がなされたその箱に僕はひどく見覚えがあった。

 ……っ!それは!

「認められない。許せない。私のものにならないなんて。あなたが私以外の女性と仲良くするなんて。私は……私は……あなたのことが……私にはあなたしかいないから……だから、お願い。私と永遠になろう?」

 赤。

 そして、

 黒。

 世界が暗転する。

 今まで感じたことのないほど強烈な呪力が膨れ上がり、暴走し、僕へと牙を剥く。

「ちっ」

 僕は手に持った鉄の剣で僕へと襲いかかる闇を七本の腕を切り裂いていく。

「……っ」

 やばいな……。

 別にこの呪力程度時間はかかるがなんとかできる。

 だけど、それよりも前に和葉が飲み込まれてしまう。

 一本。

 一本の腕が和葉に巻き付き、蝕んでいた。

 和葉の目から、口から真っ黒なモノが流れ出る。

 やばいな……これ。

 本格的にやばいやつだぞ。これ……!

「呪え呪われ」

 僕の一族が、蛇蠍の一族が生まれながらに持つ呪力を開放する。

 箱の持つ呪力が、箱の持つ呪力を、箱の持つ怨念に、

 楔が。

 綻びが。

 滅びが。

 怨念は呑まれ、ほだされ、恐れ、自らの領域へと戻り、世界が戻る。

「ふー」

 息を深く吐く。

 久しぶりだ。

 呪力を開放したのは。

 久しぶりすぎて体が少しだるい。

 ……呪いの方もちゃんとサボらず訓練しておくか。

「大丈夫?和葉?」

 僕はばったりと倒れてしまった和葉に駆け寄る。

「……なんで」

「ん?」

「なんで私を助けるの?」

「なんでって、言われても」

「なんでよ!私はあなたを呪いで手籠めにしようとしたの!私はコトリバコの中に閉じ込めようとしたの!」

 へー、あの箱。

 コトリバコって言うんだ。

「私は!私は!許されないことをしたの!」

「馬鹿」

 僕は喚く和葉のおでこをデコピンする。

「友達でしょ?僕達。友達のしたことくらい笑って許してあげるよ」

 別に脅威でもなんでもないしね。これくらい。

「そんなだから……だから、私は」

 和葉はうつむき、押し黙る。

「だめ。友達じゃない。恋人だからね!」

 和葉が明るい声で話し、偽りの笑顔を浮かべる。

 ……カッコ悪。

 自分を好いてくれる女の子に無理させちゃって。

 あー、こういうときの対処法何もわからないんだよなぁ。

 恋愛経験ゼロだし。

「いや、それは。ちょっと」

「今日は楽しかったわ。また今度一緒にでかけない?」

「いや、それもちょっと」

「なんでよ!そこはいいよ!って言うところでしょうが!」

「べー」

「もう!……ははは。ぷっ。あっはっはっはっは」

 和葉は何が面白かったのか、ひとしきり笑う。

「じゃあね」

 そして、その後少し悲しげな笑みを浮かべた後、和葉は走り去る。

「また今度ね!後。もう二度と自分を傷つけるようなことはしないでね」

 僕は走り去る和葉の背中に声をかける。

 和葉がピタリと足を止め、僕に涙で溺れる瞳を向ける。

「え?いいの?私が……私がまだ瑠夏と関わって」

 普通の人なら聞こえないほどの小さな声。

 でも僕なら聞こえる。

「もちろん!友達じゃないか!」

「……!ふふふ、ありがと!大好きよ!瑠夏!愛してる!心の底から!」

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