第3話

眠っている時

外の世界はどんな風なのか気になって

耳をすまして聴いていた。


そして

日差しが柔らかく 暖かな日に

僕は芽を出した。

僕の隣には

小さなピンクと白い花達。


「やっと芽を覚ましたわね」

『あなたは誰?』

「白い私はハルジオン」

「ピンクの私はヒメジオン」

「ここは小さな土地だけど、

「だけど私たちの場所は取らないでね」

花達は口々に話してきた。

『大丈夫だよ。僕はここで空高く大きくなりたいから、君たちのところには行かないよ』


この日から

ハルジオン、ヒメジオン達と友だちになった。

僕の前には道路というものがあって

車が通っているのを彼らが教えてくれた。

そして少し背を伸ばすと

赤や白い車が止まっている場所が見え

時々音を鳴らして

昼夜とわず僕の前を走り去っていく。


僕の向かいにはスミレがいて

春には紫の花を咲かしていた。


僕たち植物は芽を出すと

そこから動きたくても動けない。

空を自由に飛べる

チョウチョやミツバチが羨ましい。

どこへ行こうか

自分で決められて羨ましい。

そんな生きかたをしたかったな。


自由に飛びたい気持ちを

上へ 上へと伸ばし

僕は空を目指した。

そして スミレよりも

ハルジオン ヒメジオンよりも

僕は高くなった。


空はどこまでも どこまでも

続いていて

同じように地面も

どこまでも続いているのに気づいた。

コンクリートの上では

芽は生えないけど

地面はつながっているから

栄養を根から食べることができた。

ハルジオンが言っていたことがわかったよ。


赤や白い車がある場所から

ツバメという鳥が飛んでくるようになった。

旋回しながら虫を探し

捕まえては

巣へと戻っていく。

子ども達に餌を届けているんだって。

にぎやかな子ツバメ達は

1番に「お腹すいた」

「僕に餌をちょうだい!」

とお腹をいつも空かしているんだって。

「そこは“おかえりなさい”が1番でしょう」

と親ツバメは話していたよ。

にぎやかなツバメの家族の話を聞いていたら

親ススキが恋しくて

家族が欲しくなった。

特に月夜の晩は

恋しくて 寂しくて。

もう親ススキに会えないことを思い出す。


雨が降ると

カタツムリが駐車場にやってきた。

チョウチョやミツバチより

ゆっくり のんびり進んでいる。

どこに住んでいるのか知らないけど

雨が降るとやってくる。

僕たちは食べないコンクリートが

“美味しい”のだと…教えてくれた。


不思議だね。

世界にはいろんな生き物が住んでいて

美味しいと感じるもの

みんな違うんだね。

僕はこれがなかったら

大きくなれるのにと思うコンクリートが

カタツムリは好きだったり。

生き物によって 

要らないな迷惑だなぁと思うものが

他の生き物には生きていくためには

必要なものだったり…。

もしかしたら綺麗と感じるものも

違うのかな。

世の中は不思議で溢れているね。


お隣との境界線

フェンスの前の小さな隙間に

ある日 白ユリが咲いた。

その日は日差しが暑く

とっても水が欲しい日だった。

花が開いた時に

音がなって気付いたんだ。


『君も種で飛んできたの?』

僕が白ユリに聞くと

「ここのお父さんがみんなを驚かせるために

 球根だった私を植えたのよ。」


道ゆく人が立ち止まって

白ユリを眺め

「こんな狭いところから白ユリが…‼︎ 

すごいなぁ」

「ど根性ユリを見てると、力をもらえるよ。まだまだ“頑張れる”そう思えるよ」

「毎年、この白ユリが咲くのを楽しみしていたの。今年も会えて嬉しいわ」

などの言葉が聞こえきた。


毎年、白ユリに会えるのを楽しみにしている人がいる。

僕もそういう存在に慣れたら良いな。

僕の穂についた花は

とてもとても小さくて

誰も気づいてもらえないけど…。

僕に会えるの待っていてくれる人が

いたら良いな。


晴れが続く日々

夏の暑さを乗り越え

雨のありがたさを知った。

僕は高く、

どんどん高くなることを目指した。


そして

虫の声が聞こえる季節がやってきた。

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