失敗から始まる英雄譚~受ける学園間違えました~

藍那

第1話 プロローグ

「アレンご飯よ〜!」

「わかったよ、すぐに行く」


ある日の昼、庭で剣の素振りをしていると母から昼食を知らせる声が届いた。俺はすぐに剣を木に立てかけ家に戻った。ちょうどお腹が空いていたのだ。


ここはルブラ村。魔物もちっとも出てこないとてものどかな村である。村人は全員で100人にも満たない。村人は日々畑を耕し、汗をかきながら一生懸命に働いている。


俺の名前はアレン。農民なので性はない。というよりこの村に性を持つ者はいない。なぜなら、性を持つことができるのは王族や貴族などの身分の高い者か、戦などで功をあげ褒賞をもらった者だけである。


ちなみに農民や商人や職人などは平民に含まれている。つまり、俺は身分的には平民なのだ。


ルブラ村はアメリア王国に含まれており、国の西の方に位置している。アメリア王国はかなりの大国で、この大陸の中でも1、2を争うほどである。


昔は同じく大国であるグラン帝国とよく戦をしていたそうだかそれも200年も前の話で今は和平を結んでおり、交易なども活発である。


「今日の昼食は何?」

「アレンの大好きな兎のシチューよ!お母さん頑張っちゃったわ!」

「それは楽しみだ」

「さぁ、座ってちょうだい。今シチューをよそうから」


笑顔をで言う母に思わず俺も笑顔になってしまった。ちなみに父は今村の猟師たちと共に狩にでている。一応父は自警団のリーダーを務めるほど腕が立つ。


父と母の仲は良好で家にいると四六時中イチャイチャしている。家族の仲が良好なのは良いことだが息子と娘の前ではやめてほしいものだ。こちらが恥ずかしくなる。


「兄様お腹が空きました!早く座って下さい!」

「ふふ、エリナったらもうスプーンを手に取ってるわね。お母さん嬉しいわ」

「わかったよエリナ、ちょっと待ってね」

「分かりました、しかし急がないと兄様の分がなくなるかもしれませんよ?」

「アレンが座るまで食べないから大丈夫よ」

「うん、わかった」


エリナは三つ下の妹でかなりの甘えん坊で悪戯好きだ。昔はよくカルガモの子供のようにくっついてきたものだ。ああ、とても可愛かった…。まあ、今も十二分に可愛いが。


「ごめんねエリナ、さて食べようか」

「はい!それでは母様、いただきます!」

「いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」


やはり母の作るシチューは絶品だ。すぐに食べ終わってしまう。エリナもシチューを食べてとても良い笑顔だ。やはりうちの妹可愛すぎる。


「そういえば来月にはアレンは学園の試験を受けに行くのよね、合格してほしいけどさびしくなるわね〜…」

「母さん…」

「でも、子供のしたいことを応援するのが親ってものでしょ?それにアレンなら合格できるわ!」

「そうです!兄様なら大丈夫です!」


そう、来月俺は学園の試験を受けに行くのである。学園は主に15歳になった王族や貴族、平民など身分を問わずにいろいろな者が受けることができ、当たり前だが合格した者のみ通うことができる育成機関である。


しかし、学園はいくつかあり、その中でトップに君臨しているのがミラグレス学園である。だが、俺が受験するのは平民がほとんどのラグラール学園である。


「ありがとう母さん、エリナ。俺頑張るよ」

「ええ、でも体には気をつけるのよ」

「もちろん」

「ならいいわ、しっかり頑張りなさいね」

「私も応援しています兄様」


俺は本当に家族に恵まれたと思う。父も暇な時は剣の稽古に付き合ってくれる。父は魔法の腕はあまりだが剣の腕は王都でも中の上位に入るほどらしい。


こんなに優しい家族のためにも俺は絶対に試験では失敗出来ない。俺は特別クラスの枠を狙っている。それは学費がいくらか安くなるからだ。平民が行くような学園でも農民の1年の収入くらいはするのだ。


「ご馳走様、とても美味しかった」


俺は一言そう言ってまた剣の素振りをしに向かった。必ず合格するという心に誓って。




キンキンキィン!!


「ここまでにしておこう、明日は王都に向かうのだから風呂に入って早く寝なさい」

「うん、分かったよ父さん」


一ヶ月の時はすぐに過ぎた。今は父に試験に向け最後に稽古をつけてもらっていた。まだ動けるが父の言う通り明日には王都に行くので風呂に入って早く寝よう。


「試験の時は緊張せずにリラックスして望むんだ。お前なら大丈夫だ」

「うん、ありがとう父さん。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


今の時点でかなり緊張しているが父のおかげで少し和らいだ。今夜はぐっすり寝れるだろう。そして、風呂に入った後ベッドに入るとやはりすぐに寝ることが出来た。




翌日の朝になった。今から行商人の馬車に乗せてもらって王都に向かうのだ。今日から二日ほどかけて向かう。着くのは明後日の昼頃の予定である。


「アレン君、準備が出来たよ」

「すみませんアティラさん、王都まで送って頂くことになって」

「気にしなくて大丈夫だよ。僕もこれから王都の方面に向かうところだったからね」


この優しい人はアティラさん。金髪が特徴の男性だ。

彼はよくうちの村で商売をしていて村の住民とは仲が良い。母が買い物をした時に俺のことを話したら「自分も王都方面に向かう」ということで送ってもらうことになったのだ。


「アレン頑張ってくるんだぞ。お前なら出来る!」

「兄様頑張ってきてください!応援しています!」

「怪我のないように気をつけてね」

「うん!行ってきます!」


家族に行ってきますと別れを言い俺は馬車に乗り込んだ。


ヒヒーン!


馬の鳴き声と共に馬車が動き出した。家族が見えなくなるまで手を振り、俺は初めて行く王都に期待に胸を踊らせながら、三日後の試験に緊張しながら王都に向かい始めた。

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