第7話 ハーピィに攫われて
「私が何をしたって言うのよ!」
「ゴハン!」
「ていうかここどこよ!」
「お腹空いた。疲れた。お腹空いた!」
塔へと続くダンジョンの三合目。
澱んだ空気に覆われ、ぬかるみに足を取られる道中の難所、グレイス湿原。
夏にはカラッとした風が吹き絶好の避暑地として人気のある地だが、季節到来はまだ先だ。
そんな時期外れの避暑地で騒がしく独り言を呟いているのは、大型鳥類の翼に鉤爪が特徴的な魔族『ハーピィ』だ
何やらお困りのようですっかり疲れ果ててしまっており、不満をぎゃーぎゃー吐き出している。
そんな彼女を遠目に観察するニンゲンの冒険者と、仲良くなり仲魔となったスライムは、静かな湿原にこだまする彼女の騒音を前に、身を潜めていた。
関わったら面倒な事になりそうだぞ、と。
冒険者は声をかけるべきか迷っていたが、スライムが「なんかヤバそうな方だよあれ」と引き留め、まずは様子を見ることになった。
ちなみに第一同行メンバーであるゴブリンのリナは、当初の目的であった架橋作業を終えると、持ってきた酒で一杯やる事もなく冷や汗を浮かべ帰還していった。
どうやら道中、オヤカタの姿を見かけたらしい。
無事であるといいが…。
そんなわけで冒険者とスライムのコンビは歩を進めてきたのだが、ここでヤバそうな方と遭遇し、足を止めることとなった。
結構な時間様子を見ているが、何か大声で騒ぐばかりで立ち去る気配は無い。
日が傾いてきた。
「目を合わせないように通り過ぎよう」
スライムが意を決して身体を震わす。
やむを得ない、と冒険者を先頭に立ち上がる。なるべく離れた所を、ぬかるみに足を取られないよう足場を選びながら進んでいく。
絡まれたらどうしようか…脂汗を滲ませ俯きながら。
いよいよ横を通り過ぎるその時…
特に何も起きることも無く。
「お腹空いた!」と叫ぶ彼女の声がだいぶ後ろから聞こえる距離まで来たところで、ふうっと一息ついたところ……大きな影が行手を塞いだ。
「ちょっと!!」
回り込まれてしまった。
*****
どのくらいの時間が過ぎたであろうか。
冒険者とスライムによる通り過ぎる作戦は失敗に終わり、湿原の騒音主の愚痴に付き合わされている。
こちらが口を挟む間も無く、一方的な怒涛のおしゃべりタイム。
ずっとハーピィのターンだ。
スライムはハーピィのキンキン声に目をぐるぐる回している。
なんとか切り抜けられないかなと、冒険者が胸元の首飾りを何気なく手に取ると、ふとおしゃべり攻撃が止んだ。
「それって紡ぎのお守り?」
「知らないで身につけてたの?」
「もと居た場所へと導いてくれるお守りよ」
「村で貰ったって?近くに村があるの!?」
「食料とかあるわよね??」
「案内して!」
「私が掴んでいってあげるから!」
止んでなかった。
まだまだ続くハーピィのターン。
隙をついて村で貰った、とだけなんとか答えると、唐突にその肩を掴まれた。ガッシリと。
「肩…痛いと思うけど我慢しなさいよ!
私だってお腹減ってるの我慢しているんだから!」
鉤爪で掴まれ有無を言わさず空へ連行される冒険者とスライム。
爪が肩に若干食い込んで痛いが、ハーピィの目には食料しか映っておらず、落とされても困るので抗議は諦めた方がよさそうだ。
来た時の何倍ものスピードで景色が巻き戻され、またもスライムはぐるぐる目を回していた。
冒険はまた、振り出しに戻る──
――――――――――
10F グレイス湿原
4回目の冒険
ハーピィに無理矢理帰らされた!
――――――――――
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