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単発の作戦とはなんだというと、穴埋めの支援である。
なぜ穴が空いたのかは様々な理由があるが、今回はシンプルに人員が削られたのだそうだ。
つまり、そこそこ激戦区だった。
『ホーム』から東にある戦線。拠点で作戦準備をしている兵士たちは、到着直後の俺たちを除いては随分くたびれているように見えた。消耗が激しいのではないか。
「単発でいいんだろうか。
スケジュール的には半月なら人が出せそうだが」
現地到着。総指揮官からざっと概要の説明を受けた後、俺は隣の班長に声を掛けた。
班長はこちらを振り返ると、ニヤリと笑った。
「やる気っすか、さすがすね。面白そうな現場ではあるすけど。
ただ、ここの後に我々は元々戦場を持ってるじゃないすか」
「そちらも全要員で当たらないとならないほどの規模じゃない」
「じゃあ仮に半分をこちらへ寄越すとしましょ。
それで解決できるように見えますか」
班長が一つ声を落として返す。彼の視線が周囲を巡るので、俺もならって見渡した。
後方支援がどれだけあるのかとか、人員の全量がどれだけ残ってるのかとか細かいところはあるけれども。
なによりも重要なのは人間そのものだ。生きている顔をしている人間が必要だ。
「…… 五分五分」
「戦場に何を求めるかってところすな」
軽い口調で班長が答える。
何を求めるか……、か。
善意や義憤で参加しているわけではない。リスクがあるならリターンを求めるべきで、逆もしかりだ。
ここの戦場で得られるものとはなんだろう。
「隊長」
ふと背後から呼ばれ、振り返ると副隊長が立っていた。
「こちらの準備は完了した」
「ああ、分かった。ありがとう」
簡単なやり取りをした後、ではまた後でと持ち場の方へ戻っていく。
「なんすか、今の」
驚いたように副隊長の背中を見る班長。
俺は昨日からの彼への違和感に、なんと説明したものかと考えていると、俺の当惑を察した班長が続けた。
「いや、違います、あんたです、あんた」
「俺?!」
「あんたでしょうよ、なんか副隊長に構えてません?」
思いがけず矛先が自分に向けられ驚く。まさか自分がそんな狼狽えていたとは。
作戦開始までの時間が迫る中、しかし班長の視線は口調ほど軽くはなく、俺は(やはり)昨日のことを手短に説明をした。
いつぞやの…… 10年前のように、班長に難しい顔をされるかもしれないと思ったのだが。
「へえ、そりゃあ……」
驚きと面白さとが平和的に混ざったような笑みを浮かべるのだ。
ニヤニヤと、というほど嘲笑的ではないが、面白がるような雰囲気で俺を見る。
「どういう、反応だ」
「いえいえ、すいゃせんね、俺だけ楽しんじゃって。
そんな深刻なもんじゃないと分かって良かったすわ。
じゃ、行きましょうや」
そう言って、班長は俺の肩を叩いて立ち上がってしまう。深刻に捉えられなくて良かったと思うべきところだが、個人的な感情ではなかなか深度のある話なので、なんとはなしにぽつねんと置いてかれた気分である。
だが、これは何を考えているのかを、俺に話してくれる気は無さそうだ。
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