魔女のグルメ旅

タカハシあん

第一章

第1話 旅へ

 わたしはライラ。十七歳。帝国大図書館の新米魔女だ。


 この度、見習いを卒業し、魔女として世界の食を書に残すべく大図書館を旅立つのだ。


「館長。いってまいります」


「ああ。無理しないていどにがんばってくるがよい」


 旅立ちには、大図書館の館長や先生方、同期組が見送りに立ってくれている。新米には恐れ多いことよね。


「ライラ。気をつけてね。しっかり目的を果たすのよ」


「美味しいものがあったら送りなさいよ」


「珍しい植物もね」


「希少魔物も」


 一緒に留学した個性豊かな仲間たち。自称村人の思想に染まりすぎて欲望丸出しだわ。


「魔女の旅立ちに幸あれ」


 館長の言葉でわたしは旅立った。


 魔女の旅立ち。それは、大図書館を去ることを意味するけど、わたしは世界の食を書に残すため許された旅立ち。長い歴史を持つ大図書館でも初めてのことでしょうね。


「やるわよ、わたし!」


 と、大図書館を旅立ったものの、これからの予定はまるでなし。目標も持たず、予定も決めず、思うままに進め。出会いは偶然。思い出は必然。ケセラセラセラケセラセラ。なるようになる。


 自称村人の言葉に従って、旅立ちの日だけ決めて他はなにも決めてないのよね。


「とりあえず、帝都の外に向かいましょうか」


 大図書館は山の麓にあり、徒歩でどこかにいくなら帝都に向かわなくちゃならない。


「と言うか、帝都まで歩いていったらお昼になっちゃうわね」


 見習い魔女は大図書館で暮らし、外に出ることは滅多にない。大体のことは大図書館で済んじゃうからね。


 ……帝都にいったことないのに、外国に留学するんだからわたしたちは恵まれてるわよね……。


「ワンダーワンド」


 収納腕輪から空飛ぶ箒を出した。


 今や魔女の移動用となったワンダーワンドだけど、わたしが所有するワンダーワンドは村人製で特別製。他のワンダーワンドの三倍の性能と機能を秘めている。


 まあ、性能や機能の紹介はいずれするとして、ワンダーワンドにお尻を乗せ、帝都へと向かった。


 春の風を感じながら地上から人の目線くらいの位置を飛んでいると、大図書館と帝都を隔てる壁が見えてきた。


 門には魔法が施されているので門番はおらず、魔女しか出入りできない仕掛けが施されている。


 魔女の指輪を示して門を潜る。


 出たそこは林であり、少し進むと、高位貴族が住む街へと出る。


 帝国に魔女がいることは知られているけど、世間一般の人が魔女と関わり合うことはないでしょう。魔女とは大図書館を守る者につけられる称号みたいなもので、外や地方にいる者は魔術師や魔法使いと言う括りで呼ばれるわ。


 高位貴族街と外を分ける門に到着した。


 さすがにここには門番が複数人いて、人の往来を厳しく見張っている


 三角帽子に黒い外套。焦げ茶色の法衣。魔女としての正装だけど、それを不思議がる者は……いるのかな? 緊張しながら門へと進むと、こちらに気がついた門番がサッと左右に寄り、槍を構えて道を譲ってくれた。


「ご、ご苦労様です」


 左右の門番に声をかけて門を潜った。


 門を出たそこは広場となっており、草木が植えられていた。


 ……外ってこんなふうになってたのね……。


 留学してなければどうしていいか戸惑っていたでしょうけど、このくらいの人の往来はなんてことはない。ワンダーワンドから降り、人の間を縫って先を歩んだ。


 帝都はこの大陸で一番の大きい都市だ。


 そう聞いていても他の都市を知らなければ帝都の広さなどわからないし、他と比べることもできないでしょう。


 けど、いくつもの都市を見て、その都市を歩き、空から眺め、人と触れてきたからわかる。帝都の広さに。


「いや、広すぎ!」


 朝旅立ち、帝都を半日以上歩いているのに、周囲から建物はなくならず、人の往来も激しいまま。無限回廊にでも迷い込んだ気分になるわ……。


「お腹空いたわね」


 朝、しっかり食べてきたけど、半日以上歩いたからすっかり消化してしまったわ。


「なにか食べようっと」


 この旅は世界の美味しいものを食べて書に残す旅ではあるけど、その土地土地の食べ物を知ることも含まれている。


 帝都にいながら帝都のことなどなにも知らない。まずは帝都の民がどんなものを食べているか調べてみましょうか。


「市場にでもいってみましょうか」


 大体の食べ物屋は市場に近くにあるもの。町中の小さな食堂を探すより楽でしょうよ。


 往来する人に市場の場所を尋ねながら向かうと、いい匂いがしてきた。


「焼き串ね、この匂いは」


 露店でももっとも多いのが焼き串でしょうね。


 帝都だとなんのお肉が食べられるのかな?


 流通がしっかりしているから豚や羊、鳥なんかは普通にあるでしょうね。


「お、さっそくあった」


 露店から美味しいそうな煙が上がっている。


 村人製の収納鞄から皿を出し、焼き串の露店へと突入した。


「おじさん。焼けてる?」


「ああ。オボロ鳥が焼けてるよ」


 オボロ鳥。大図書館でもよく出る鳥の肉だ。


「十本、これにくださいな」


 皿を出し、焼いてあるオボロ鳥を乗せてもらった。


「オマケで十八リドにしてやるよ」


 銅貨一枚と小銅貨八枚をおじさんに渡した。安いのかな?


 まだ帝都の物価がわからない。これは数日帝都を探ったほうがいいかもしんないわね。


 皿を受け取り、人の往来がないところへ向かい、デジカメを出して写真を撮る。


 デジカメとはカイナーズホームと言うところで売っている魔道具であり、物の姿を残すものだ。


 わたしが絵にして書に写すけど、時間があるときに写さないとだから写真に残しておくのよ。


 念のために三枚撮り、オボロ鳥の焼き串をいただくことにする。


「いただきま~す。お、美味しい!」


 留学先で食べたものよりは数段落ちるけど、なにかよくわからないタレがつけられて独特の味がするわ。


 肉も固くなきて歯応えはいい。一本の量もあって十本は多かったかも。まあ、五本食べて残りは収納鞄に入れておこうっと。


 収納鞄は時間が停止しているので冷めたり固くなったりしないから便利よね。


「あー美味しかった」


 五本でお腹いっぱいになっちゃったよ。


「陽が落ちてきたわね」


 どこか宿を探すとしましょうか。


 膨れたお腹を擦り、宿がないかを歩いている人に尋ねた。

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