魔法の杖を拾ったら魔女になれって言われたけど、返事はハロウィンまで待ってくれるんだって
にゃべ♪
第1話 どうやら私には魔法の才能があるらしい
10月も下旬を迎えて季節は秋真っ盛り。山も色付いて何をするにもちょうどいい時期だ。食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋――。そんな秋の夕暮れ、女子高生3人が雑談をしながら帰り道を歩いていた。そう、それが私達。
雑談のテーマは学校の事やテレビ番組の事ばかり。まだ高校1年生なので、重い話題は出て来なかったかな。
それぞれの持ちネタを話し終わって、しばしの沈黙が訪れる。どうしようかなと思っていたら、3人の中で一番誕生日の早いかおりが何かを思い出したように突然話を振ってきた。
「ハロウィンどうしよっかー」
「もうやらないよ、子供じゃないんだから」
「大人のハロウィンだよ。コスプレして夜中の繁華街を楽しむの」
彼女はそう言うと、ニヒヒっと特徴的な笑顔を浮かべる。かおりは中学からの友達で高校入学と共にコンタクトにした元メガネ少女だ。そこからも分かる通り、常に大人に憧れている。
大人のハロウィン――正直言って興味がないと言えば嘘になる。だけど、まだ夜の街を歩いた事のないは私は、好奇心より恐怖の方を強くイメージしていた。
「私、そう言うのは……」
「ゆかりちゃんまっじめー」
「そんなんじゃないってばー!」
ツッコミを入れてきたのは3人の中で一番誕生日の遅いあかり。明るくて見た目が幼く、アイドルになれそうなほど可愛い美少女だ。ツッコミ系なので割と毒舌って言うギャップもある。
それでいて浮いた話を聞かないのは、彼女が告白相手を容赦なく振りまくっているからだ。面食いなのかな?
ハロウィン話はその後も続き、あかりとかおりだけでどんどん盛り上がる。話に入り込めない私はずっと聞き役に徹していた。
2人が盛り上がっているのは街の商店街が企画した夜のハロウィンイベント。夜とは言え、大都会ではないので21時までで終わる健全イベントだ。普段は20時にシャッターが降りる田舎の商店街にしては、結構頑張っている方なんだけどね。
地元に進出してきた大型ショッピングモールに対抗して始まったこのハロウィンイベントも今年で10年目。定番になった事で参加者も多く、このイベントをしている時間だけは都会のハロウィンイベントと変わらない光景が目の前に広がるらしい。このイベントがコスプレデビューって人も多いのだとか。
2人はどんなコスプレをするかで盛り上がっている。定番と言えばおばけや魔女やゾンビだけど、自分がコスプレをするならと言う仮定の話なので話はどんどんスケールアップしていく。有名アニメキャラや貴族の衣装など「それ似合うのかよ」と言う言葉を私は何度も飲み込んだ。まぁ、アイドル系のあかりなら何着ても似合うんだろうな。
自宅が近付いてきたので、私は盛り上がる2人に別れを告げて1人になる。そこから家までは10分とかからない。そんな通い慣れた道を鼻歌を歌いながら歩いていると、前方に何かが落ちているのを発見する。
普段はそう言うのは無視するんだけどこの時は変に気になってしまい、思わずヒョイと拾い上げた。
「木の棒? いや、魔法の杖?」
それは魔法使いが使う杖のような木の棒。白ひげを蓄えた大魔法使いが使う物でも、魔法少女が使うステッキでもなく、魔法使い見習いが最初に貰える短い魔法の杖っぽい感じだった。
いつもだったらこんなものはすぐに手放すのだけど、触り心地が妙にしっくりきていしまい、私はこれを気に入ってしまう。
「結構いいじゃん。えい」
魔法使いになったつもりで杖を振る。勿論魔法なんか出ないんだけど、代わりに道の角から黒猫が飛び出してきた。これは偶然? それとも――。
そんな黒猫はまっすぐ私の方に向かって歩いてくる。ずんずんずんずん歩いてくる。猫好きな私はすぐにしゃがんで受け入れ態勢を取った。
「おいで~。黒猫ちゃ~ん!」
「おめでと~!」
「うわあああああ! 猫がシャベッタァァァ!」
そう、黒猫が口を開けて発したのは聞き慣れたあの鳴き声ではなく、聞き慣れた日本語だったのだ。この現象に驚いた私は反射的に尻餅をついてしまった。
「あ、あわわわわわ……」
「安心して。私は怪しいものじゃないよ」
「嘘だー!」
腰が抜けたのか、逃げようにもうまく体が動かない。ジタバタしている内に黒猫は私の目の前まで来てしまった。
「まずは自己紹介よね。私の名はミレ。あなたは?」
「し、四宮……ゆかり……」
「そっか。よろしくね、ゆかり。あなたには魔女の素質があるわ!」
「は?」
怒涛のトンデモ展開に私の頭は理解が追いつかない。アニメやラノベでは珍しくないパターンではあるんだろうけど、まさかそれが自分の身に降り掛かるとは……。
ただ、今まで普通の人生しか送っていなかったのもあって、私は手を素早く左右に動かして彼女の言葉を速攻で否定した。
「いやいや、有り得ないから!」
「私と会話出来ている時点で分かるでしょ。それが証拠だから」
「え? じゃあこれ、普通の人には鳴き声にしか聞こえてないの?」
「そうよ! これで分かったでしょ?」
ミレは自信満々に断言する。私はその話に妙に納得した。当然の話だけど、猫と会話でコミュニケーションを取れる人はいない。例外があるとすれば、動物と会話出来る能力者の人くらいだ。私だってさっきまでこんな事は出来なかった。さっきと今とで何が違うと言えば――魔法の杖を手にした事くらい?
私が右手に握っている杖をじっと見つめていると、ミレはちょこんと座って私の顔をじっとマジ顔で凝視してきた。
「お願い、私と契約して魔女になってよ!」
「それ嫌な予感しかしないヤツー!」
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